後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第23話 跡のついた遺体

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 夜。自室にいた龍環の元へ皇太后からの手紙が届いた。こんな時間に何事だ。と小声でつぶやいた龍環はめんどくさそうに手紙を開く。

『今回の事故はちゃんと原因を究明するように。まちがってもあやかしの仕業だなんて言わない事』

 皇太后からの手紙を読み終えた龍環はぐしゃっと手紙を右手で握りつぶしたのだった。

「はあ……母上は本当にあやかしが嫌いなのだから」

◇ ◇ ◇

 翌朝。自室の架子床で眠っていた桃玉は、部屋の外からの騒ぎ声で目が覚めた。

「何だろう……」
「桃玉様、おはようございます」
「皆さんおはようございます。何かありました……?」
「ちょっと様子を伺って来ます」

 女官の1人が様子を伺いに部屋の外へ出たあと、慌てて桃玉の元に戻ってきた。

「大変です! 龍羽池から女性の遺体が上がったと……!」
「なんですって……!」
(まさか、昨日の芸人では……)

 桃玉は急いで着替えると、女官達と共に遺体が収容された建物へと移動し、建物に到着したもののまだ朝早い時間という事もあり、龍環や皇太后など高位の者達の姿は見受けられない。
 部屋の中央に置かれた遺体には麻の布がかけられているが、足先がはみ出していた。

「どなたか! 皇帝陛下はもう呼んだんですか?!」
「今、宦官が呼びに行った所でございます……!」

 桃玉が遺体に向けて手を合わせていると、すでに遺体が収容された部屋にいた女官がやや震えた声音で返事をした。

「皇太后陛下も呼んだ方が……!」
「そ、そうですよね、李昭容様……!」
「遺体はここだな?」
「佳淑妃様と佳賢妃様……!」

 桃玉が後ろを振り返ると、まだ寝間着姿で髪を降ろしている佳淑妃と佳賢妃の姉妹が女官達を引き連れて立っていた。佳淑妃は凛とした佇まいをしているが佳賢妃はまだ寝ぼけているのか、ぼうっと突っ立っている。

「南無……」

 佳淑妃と佳賢妃は揃って合掌する。そして佳淑妃はちらりと医者を見た。

「医者よ。麻布をめくって確認しても構わないか?」
「構いませぬ。しかしながら……」
「なんだ?」
「少々刺激が強すぎるかと……」
「構わん」

 佳淑妃が麻布をめくると、遺体の様子が露わになった。やはり遺体は昨日池に落ちて行方不明になった女芸人・花のもので、衣服と髪飾りなどの装飾品は当時芸をしていた女芸人達が着ていたものと同じもの。水の中に長期間いたせいか、口紅などの化粧はほぼ全て剥がれ落ちている。
 
(この跡は……)

 そして首や手足など全身のあちこちに、太い縄か何かで縛られたかのような痕跡が残されていた。また右側の首にはひっかき傷のような跡も見える。

(縄で縛られた跡? あやかしのせいなのか、はたまた人間がやったのかまでは私には判断がつかないや)
「酷いな……縄か何かで縛られたのか?」
「佳淑妃様……おそれながら、池には縄などは今の所見つかっておらず……」

 佳淑妃は腕組みしながらふむ……。と考え込む様子を見せる。

「そうか……医者よ。貴方は死因をどう考えているか?」
「私自身の所見では……身体を絞められ身動きが取れず溺死したものかとは。まだ調査が始まってはいませんので何とも言えない部分はありますが……」
「そうか。話してくれてありがとう」
「遺体が収容されたのはここだな?!」

 寝間着に羽織を羽織った龍環と皇太后が配下を連れてほぼ同時に現れた。龍環と皇太后は遺体に手を合わせた後、じっくりと花の遺体を観察する。

「引きずり込まれたのか……」
「そうみたいですね、陛下。これはしっかりと調査をして再発防止に務めなければ……」
「分かっております。母上」

 龍環はそのまま振り返ると、配下を引き連れて部屋から立ち去ろうとした所で佳淑妃が龍環を引き止めた。

「どうした? 佳淑妃」
「陛下もご覧になられましたでしょう。あの縄で絞められたかのような跡を。池の中や昨日使われた船を全て丁寧に調査すべきかと存じます。勿論、私も捜査に協力いたします!」

 佳淑妃の低く芯の通った声が部屋中に響きわたった。その様子を桃玉と佳賢妃は目を見開きながら見つめ、皇太后は眉をひそめながら見ている。

「佳淑妃……わかった。君は勿論、佳賢妃と桃玉も調査に協力してほしい。頼めるな?」
「はっ!」
「えっ姉ちゃん私も? あ、はい、陛下」
「はい!」

 その後。花の遺体は医者達によって収容された建物内で検死が行われた。
 花の死因は溺死。誰かに池の中に引きずり込まれた後、そのまま溺れてしまい亡くなったという事になる。首に出来たひっかき傷もその時のものだと判明した。
 宮廷には芸を披露した大道芸人全てが召喚され、宦官達からの取り調べを受ける事となったのと、池の船着場に停泊する船は全て調べられたが、凶器となる縄は1つも見当たらなかったのである。
 夕方。皇太后への定期の挨拶を終えた桃玉が部屋に戻ると、中年位の華奢な宦官が2名部屋の椅子に座って桃玉の帰りを待っていた。
 
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