後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第39話 胡充容

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 商徳妃のいる建物から外に出た龍環と桃玉。そんな中、道中、女官から意識を失った美人才人の妃達がいると言われて現場へと向かう事になった。

「さっきですか? それとも……」
「昨日の夕方です」
(あの、夕食を食べていた時に騒ぎになっていた……!)
「桃玉、急がねば!」
「はい!」
 
 その時、桃玉は石畳の地面に落ちていた何かを踏んづけ、後ろむきに転んでいった。

「うわぁ!」

 思いっきり転倒した事でお尻を地面に思いっきりぶつけてしまう。

「いったたたた……お尻痛い……」
「大丈夫か? 何か冷やすものでも持ってこさせようか?」
「あ、いや、大丈夫です。これくらいなんとか……いたた……」
「起き上がれるか?」
 
 龍環が手を差し伸べると、桃玉は彼の手に捕まり何とか立ち上がったのだった。

「これ、さっき桃玉が踏んだやつか? ……しかも呪具ではないか」

 龍環が地面から拾い上げたのは、佳賢妃の名前が記されていた呪具と全く同じ見た目をしているものだった。ただ名前が全く記されていない点は違うのだが。

「あ、もう1枚あった。あ、まだある」
「え、そんなに?」
「この草木の陰に何枚か落ちていたのを拾ったが……どれも同じものだな」

 龍環が建物のそばに生えている丸い草木の下から見つけ出した数枚の呪具を、桃玉はまじまじと見つめている。

「もしかして、この建物にいる妃が犯人では?」
「なるほど……」

 すると建物から出てきた1人の妃が何やら、先ほど龍環が呪具を拾った草木の下で探し物を始めた。妃はやや癖のある黒髪を金と銀のかんざしが彩っており、妃らしい華美な装いをしている。肌は白く身体はやせ気味で目元にはクマが出来ていた。

(怪しい。なんか怪しい)
「胡《フ》充容。そこで何をしている?」
「ひっ……! 皇帝陛下! そして李昭容様!」

 胡充容はどきっと肩をはずませながらしゃがんだ状態で龍環と桃玉を見上げる。

「もしかして、探していたものはこれか?」
「……ち、違いますねえ……」
(絶対怪しい)

 胡充容はしどろもどろになっていた。それに顔はみるみるうちに血の気が引いて真っ青になっていく。

「正直に答えるんだ。嘘をついていたらより重罪になるぞ」
「ひっ! わ、私のもので……ございます!」

 胡充容はその場でばっ! と土下座をする。しかし龍環の顔は険しいままだ。

「認めたな。捕縛する前にまずは病に倒れた美人才人達を元に戻せ。佳賢妃と商徳妃はもう元に戻したからな。女官達よ! ここに来い!」
「う、嘘でしょ……ど、どうやって……ま、まさか」

 龍環は胡充容に向けてにやりと口角をあげて笑った。龍環の指示を聞いた女官達がぞろぞろと急いで龍環と桃玉の元に現れる。

「胡充容を捕縛しろ。逃げないようにな」
「はい……」
「ああ、こんな所で……もっとこれから面白くなると思ったのに」

 胡充容はがくっと肩を落としたかに思えたが、ぎっと龍環を見るや否や、女官が掴んでいた腕を振り払い袖口から短刀を取り出す。

「! こ、皇帝陛下!」
「ただで死ぬとは思うなよ! 覚悟!」
「!」

 胡充容が勢いよく、短刀を構えて龍環へと襲い掛かった。桃玉の悲鳴が上がる中、龍環は冷静に胡充容の攻撃を見極め回避しながら彼女が短刀を掴んでいる方の腕を掴むと、そのまま背負い投げを見せる。

「ぐあぁっ!」

 お尻を打ち付けた胡充容の叫びがこだました。龍環は腕を掴んだままだ。女官や駆けつけた宦官達によって胡充容は今度こそ捕縛される。

「しっかり捕縛しておけ、逃げないようにな」
「かしこまりました、陛下!」
「ぐっ……自害もさせぬと言うのか」
「当たり前だ。君にはまだやってもらわなくちゃいけない事がある。ここで死んでもらったら桃玉の負担が増えるだろう?」

 ちらっと桃玉を見る龍環。胡充容は一瞬なぜ? というような表情を浮かべる。

「では、まだ意識を取り戻していない妃達を元に戻してもらおうか。君の処罰はその後に決める」
「わかりました……陛下……」

 がっくしと肩を落とした胡充容は、宦官に引きずり上げられるようにして立ち上がった。

◇ ◇ ◇

 昼過ぎ。捕縛された胡充容の手により、残りの妃達は皆意識を取り戻す事が出来た。最後の1人が意識を取り戻したのを見届けた桃玉と龍環はほっと息を吐いて安堵の表情を浮かべるも、すぐに真剣な表情へと戻る。

「まだ油断はできない。それにまだ残っている事があるから」
「そうでございました……龍環様の言う通りです」
「この後、胡充容の取り調べを行う。桃玉も同行してほしい」
「私ですか?」

 ちょっと首をひねる桃玉へ、龍環はふふっと笑って人差し指を立てる。どうやら龍環には考えがあるようだ。

「胡充容からあやかし及びあやかし浄化の知見が得られるかもしれない。そう考えたんだ」
「なるほど……」
(確かにあやかしを使って呪詛していたとなると、あやかしに精通してるって事だものね)
「ついてきてくれるか?」
「ええ、もちろんでございます」

 桃玉は首を縦に振り、龍環の手を握ったのだった。
 そして胡充容は皇帝が執務を取る宮殿内にある、皇帝の玉座がある大広間へと連行される。

「さあ、今回の件について洗いざらい白状してもらおうか」

 捕縛された胡充容へ、玉座に座った龍環が彼女を見下ろしながら告げる。
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