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第1話 お飾り皇后の婚儀
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厳かな空気の中、婚儀が始まる。太陽が昇り始める朝の屋外という事もあってか、空気が冷たい。
宦官らや家臣、女官達が整列し、皇后となる美華を見つめているが、どれも視線は冷ややかだ。
「目が見えないそうよ」
「高熱で視力を失ったって聞いたわ」
「かわいそう。ていうか地味な見た目ね。皇后らしくないわ」
「ご辞退はなさらなかったのね。私なら差し障りがあると言って断るわ」
美華に対して否定的な女官達のヒソヒソとした噂話と冷笑にも臆する事無く花嫁衣装に着飾った美華が右手をかざすようにして歩きながら従者を従えている。
「ねえ、見えているの? 見えていないの?」
「あれでは見えているようには見えるけど……」
両手を前に突き出し、かざしながら歩く美華の姿はまさに不思議なものだ。その光景も浩明も眉をひそめながら目を凝らしている。
(なんだ? あの歩き方は……)
しかし厳かな婚儀に私語はふさわしくない。進行役の家臣が大きな声で浩明と美華の名を読み上げるとヒソヒソ噂話を続けていた女官はすぐさま口を閉ざした。
「この婚儀に異を唱える者はいるか!」
沈黙が流れる。この静かな沈黙はすなわち肯定。噂話をしていた女官達も言葉を発しようとしないのは、婚儀を否定する事は皇帝への叛逆を意味するからである。
沈黙を見届けた進行役は首を縦に振った。
「異を唱える者はいないとみなす」
その後も厳粛に婚儀は執り行われ、昼過ぎには大広間にて贅沢を尽くした宴が始まった。
厳かで静かな空気はどこへやら。宴が始まった途端男達を中心にどんちゃん騒ぎが始まる。
「いやぁ~酒がうまい!」
「昼間から酒が飲めるのは良いねぇ!」
浩明はどんちゃん騒ぎに対し、うるさいなぁ……。と心の中で愚痴をこぼす。対する美華は婚儀の時から衣装を変えてはいるが、相変わらず目隠しで目は覆われていて表情は見えにくい。
でも彼女の口角が柔らかくつり上がっているのを浩明は見逃さなかった。
「美華。楽しいのか?」
「はい。ああいうお祭り騒ぎは見ていて楽しいです」
「そうか」
「雪家ではこのような事は無かったので」
美華の浮ついた声音からは本当に楽しいと感じているのが伝わってくる。
(掴みどころが無いやつだな……)
「せいぜい楽しめ。このような経験は無いのだから」
「はい。精一杯楽しみます」
その時。美華が右手で持とうと指先で触れていた茶器が倒れてしまった。
「あっ」
茶器の中からお茶が零れる。幸い美華も浩明もお茶で濡れる事は無かったが、机中に大輪の花のごとくシミが広がってしまった。
「おい、零しているぞ」
「あっすみません……」
「はあ、誰か! 拭いてくれ」
女官のひとりが机を拭いてくれるが、その女官はやや不満そうな顔つきをしている上に、遠くでお茶くみをしていた女官達も、美華をうっとおしそうに見ている。
「あの皇后様のお世話をしなければならないなんて大変ね……」
「先が思いやられるわ」
女官達のほとんどが、美華に対して良い印象を抱いていない事がよくわかる。それは浩明も同じだった。
(このような何を考えているか分からない上に魅力の感じられない娘など……お飾りの皇后で良い)
宦官らや家臣、女官達が整列し、皇后となる美華を見つめているが、どれも視線は冷ややかだ。
「目が見えないそうよ」
「高熱で視力を失ったって聞いたわ」
「かわいそう。ていうか地味な見た目ね。皇后らしくないわ」
「ご辞退はなさらなかったのね。私なら差し障りがあると言って断るわ」
美華に対して否定的な女官達のヒソヒソとした噂話と冷笑にも臆する事無く花嫁衣装に着飾った美華が右手をかざすようにして歩きながら従者を従えている。
「ねえ、見えているの? 見えていないの?」
「あれでは見えているようには見えるけど……」
両手を前に突き出し、かざしながら歩く美華の姿はまさに不思議なものだ。その光景も浩明も眉をひそめながら目を凝らしている。
(なんだ? あの歩き方は……)
しかし厳かな婚儀に私語はふさわしくない。進行役の家臣が大きな声で浩明と美華の名を読み上げるとヒソヒソ噂話を続けていた女官はすぐさま口を閉ざした。
「この婚儀に異を唱える者はいるか!」
沈黙が流れる。この静かな沈黙はすなわち肯定。噂話をしていた女官達も言葉を発しようとしないのは、婚儀を否定する事は皇帝への叛逆を意味するからである。
沈黙を見届けた進行役は首を縦に振った。
「異を唱える者はいないとみなす」
その後も厳粛に婚儀は執り行われ、昼過ぎには大広間にて贅沢を尽くした宴が始まった。
厳かで静かな空気はどこへやら。宴が始まった途端男達を中心にどんちゃん騒ぎが始まる。
「いやぁ~酒がうまい!」
「昼間から酒が飲めるのは良いねぇ!」
浩明はどんちゃん騒ぎに対し、うるさいなぁ……。と心の中で愚痴をこぼす。対する美華は婚儀の時から衣装を変えてはいるが、相変わらず目隠しで目は覆われていて表情は見えにくい。
でも彼女の口角が柔らかくつり上がっているのを浩明は見逃さなかった。
「美華。楽しいのか?」
「はい。ああいうお祭り騒ぎは見ていて楽しいです」
「そうか」
「雪家ではこのような事は無かったので」
美華の浮ついた声音からは本当に楽しいと感じているのが伝わってくる。
(掴みどころが無いやつだな……)
「せいぜい楽しめ。このような経験は無いのだから」
「はい。精一杯楽しみます」
その時。美華が右手で持とうと指先で触れていた茶器が倒れてしまった。
「あっ」
茶器の中からお茶が零れる。幸い美華も浩明もお茶で濡れる事は無かったが、机中に大輪の花のごとくシミが広がってしまった。
「おい、零しているぞ」
「あっすみません……」
「はあ、誰か! 拭いてくれ」
女官のひとりが机を拭いてくれるが、その女官はやや不満そうな顔つきをしている上に、遠くでお茶くみをしていた女官達も、美華をうっとおしそうに見ている。
「あの皇后様のお世話をしなければならないなんて大変ね……」
「先が思いやられるわ」
女官達のほとんどが、美華に対して良い印象を抱いていない事がよくわかる。それは浩明も同じだった。
(このような何を考えているか分からない上に魅力の感じられない娘など……お飾りの皇后で良い)
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