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第8話 分け隔てなく助けます
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しばらくしてけが人が即席の担架に乗せられて宮廷の敷地内へと運ばれてきた。この事件で怪我を負った人は合わせて5人でいずれも庶民。軽傷から重傷まで様々だが、その中には左腕を食いちぎられて失った者もいる。
庶民が怪我の手当の為に宮廷に運ばれるという前代未聞の事態に、近くにいた宦官や女官達は皆目を丸くさせながら怪我人と美華を見ていた。
「痛い! 早く助けてくれ!」
「し、死んでしまう……!」
「皆さん、今から助けます……!」
「皇后様が庶民にも手を差し伸べるだなんて……」
食いちぎられた左腕は残っていないという情報を怪我人から聞いた美華は早速欠損した左腕に両手をかざした。すると、欠損した部位がみるみるうちに元に戻っていく。
だが、力の消費がいつもより激しいせいで、美華の顔には汗が浮かびはじめた。
「はあっ……はあ……」
怪我人の顔からは苦しみが少しずつ消え、左腕も元通りになっていくのと対照的に顔の汗が小粒のものから玉のようなものへと変わり更に量が増える。
そして左腕が完全に元通りになった瞬間、糸が切れたかのように美華は倒れ込んでしまった。
(だめだ……動けない。でも、ここで音を上げるわけには)
美華を心配した女官達が慌てて彼女の元へと駆け寄るが、美華は歯を食いしばって起き上がる。
(だめ、諦めちゃだめ。皆治さないと)
「皇后様!」
「ご無理はなさらないでくださいませ!」
「何をしている!」
ここで、家臣から話を聞いた浩明が医師と薬師達を引き連れて美華達の元へと現れた。
「その声は……陛下……」
「美華が怪我人をここまで連れてくるように、指示を出したのか」
美華は息する間もなくはい。と答える。浩明は怪我人とはいえ庶民を宮廷に連れてくるなんて。いや、止めても無駄だろうな。と呆れたが美華の顔に浮かぶ脂汗に気がついたようだ。
「美華、汗がすごいぞ。何があった」
「私は平気でございます……早く治さないと……分け隔てなく助けないと……」
「へ、陛下! 皇后様が左腕を元通りに治してくださいました!」
横たわった怪我人が元通りになった左腕を天へと掲げる最中、美華は両手を地面について四つん這いの体勢で息を切らしながら、彼の右隣にいる怪我人へと近づいていた。
「待て美華!」
浩明の口から、自分でも驚くくらいの大きな声が出る。
「へ、陛下……私は大丈夫です」
「俺にはそうは見えないが。医師と薬師達よ! 手当を!」
「はっ!」
「ま、待ってください! 私、やれます!」
とはいえ、明らかに疲労困憊な美華である。浩明の胸の内に宿る善性が、彼女の動きを止めようとした。
「それで死んだらどうするんだ」
「本望でございます」
沈黙が流れる。その間にも医師達は手早く怪我人へ処置を行っていた。
すると、先ほど左腕を元通りにしてもらった怪我人がこ、皇后様! と美華に対して土下座のような体勢を取る。
「おっ、俺は……皇后っ様が死ぬなんて嫌でございます!」
「……ぁ……」
「皇后様にはっ……皇帝陛下といつまでも仲睦まじく暮らしてほしいのです! 世継ぎだなんて贅沢な事は言いませんから!」
涙を流しながら、文字通り必死に頭を下げ続ける怪我人に対し、他の怪我人達からも一斉に声が上がる。
「皇后様! お身体を大事にしてください!」
「俺らなんかの為に死んで欲しくないです!」
「皆さん……」
彼らの顔は、美華には見えていない。波動の力で大まかな凹凸が分かるくらいだ。
でも声音から彼らが必死に美華へ訴えているのがわかる。
「皆さん……その……」
(これじゃ、私……!)
「美華、まずは身体を休めて民達の言う事に従え。まさか民の願いを無視する気はないよな?」
「……は、い……」
美華は女官2人の肩を借りながら鶴龍殿へと向かっていく。
浩明は美華に目もくれず、医師達に指示を出し続けたのだった。そして最終的に虎は捕獲されて山へと帰され、手当てを受けたけが人達は皆無事に帰路に就く事ができたのである。
◇ ◇ ◇
夜。夕食を食べ終えた美華の顔はだいぶ疲労が取れていた。だが、表情は冴えない。
(皆を治せなかった……私が皆を治さないといけないのに……)
「皇后様。雪家のご嫡男様より文が届いておりますが……」
「……机の上に置いておいてください」
雪家のご嫡男様というのは、福勝という名の人物で美華の異母弟にあたる。
今の美華には文は読めないので女官が代読代筆を担っているのだ。
「ふう……だめだめ、元気にならないと」
自らパンパンと両頬を叩いた美華はある考えを思いつく。
「そうだ! よし、明日陛下に相談してみよう……!」
キラキラと白い歯を見せる美華を、女官達はいったい何を思いつかれたんだろう……? と不思議そうに眺めていたのである。
翌朝。さっそく浩明の元に女官が代筆した美華からの文が届いた。
「話がしたいので謁見したいだと?」
「陛下、皇后様からの文でございますか?」
「ああ。正確には女官が代筆したものだが」
「して……それ以外には何が書かれていたのでございますか?」
まるであからさまに浩明の機嫌を伺うような声音をした家臣の言葉に対し、それだけだ。と浩明は答える。
「何の為に謁見を望まれるのでしょうね……皇后であればわざわざ謁見するご必要はないと考えますが」
「俺にもわからん。ろくな事でなければ良いが」
「して、どうされますか?」
「話くらいは聞いてやる」
乗り気ではない表情を浮かべている浩明だが、心の中では美華が一体何を話すのか、気になって仕方ないのだった。
(一体何なんだ……?)
庶民が怪我の手当の為に宮廷に運ばれるという前代未聞の事態に、近くにいた宦官や女官達は皆目を丸くさせながら怪我人と美華を見ていた。
「痛い! 早く助けてくれ!」
「し、死んでしまう……!」
「皆さん、今から助けます……!」
「皇后様が庶民にも手を差し伸べるだなんて……」
食いちぎられた左腕は残っていないという情報を怪我人から聞いた美華は早速欠損した左腕に両手をかざした。すると、欠損した部位がみるみるうちに元に戻っていく。
だが、力の消費がいつもより激しいせいで、美華の顔には汗が浮かびはじめた。
「はあっ……はあ……」
怪我人の顔からは苦しみが少しずつ消え、左腕も元通りになっていくのと対照的に顔の汗が小粒のものから玉のようなものへと変わり更に量が増える。
そして左腕が完全に元通りになった瞬間、糸が切れたかのように美華は倒れ込んでしまった。
(だめだ……動けない。でも、ここで音を上げるわけには)
美華を心配した女官達が慌てて彼女の元へと駆け寄るが、美華は歯を食いしばって起き上がる。
(だめ、諦めちゃだめ。皆治さないと)
「皇后様!」
「ご無理はなさらないでくださいませ!」
「何をしている!」
ここで、家臣から話を聞いた浩明が医師と薬師達を引き連れて美華達の元へと現れた。
「その声は……陛下……」
「美華が怪我人をここまで連れてくるように、指示を出したのか」
美華は息する間もなくはい。と答える。浩明は怪我人とはいえ庶民を宮廷に連れてくるなんて。いや、止めても無駄だろうな。と呆れたが美華の顔に浮かぶ脂汗に気がついたようだ。
「美華、汗がすごいぞ。何があった」
「私は平気でございます……早く治さないと……分け隔てなく助けないと……」
「へ、陛下! 皇后様が左腕を元通りに治してくださいました!」
横たわった怪我人が元通りになった左腕を天へと掲げる最中、美華は両手を地面について四つん這いの体勢で息を切らしながら、彼の右隣にいる怪我人へと近づいていた。
「待て美華!」
浩明の口から、自分でも驚くくらいの大きな声が出る。
「へ、陛下……私は大丈夫です」
「俺にはそうは見えないが。医師と薬師達よ! 手当を!」
「はっ!」
「ま、待ってください! 私、やれます!」
とはいえ、明らかに疲労困憊な美華である。浩明の胸の内に宿る善性が、彼女の動きを止めようとした。
「それで死んだらどうするんだ」
「本望でございます」
沈黙が流れる。その間にも医師達は手早く怪我人へ処置を行っていた。
すると、先ほど左腕を元通りにしてもらった怪我人がこ、皇后様! と美華に対して土下座のような体勢を取る。
「おっ、俺は……皇后っ様が死ぬなんて嫌でございます!」
「……ぁ……」
「皇后様にはっ……皇帝陛下といつまでも仲睦まじく暮らしてほしいのです! 世継ぎだなんて贅沢な事は言いませんから!」
涙を流しながら、文字通り必死に頭を下げ続ける怪我人に対し、他の怪我人達からも一斉に声が上がる。
「皇后様! お身体を大事にしてください!」
「俺らなんかの為に死んで欲しくないです!」
「皆さん……」
彼らの顔は、美華には見えていない。波動の力で大まかな凹凸が分かるくらいだ。
でも声音から彼らが必死に美華へ訴えているのがわかる。
「皆さん……その……」
(これじゃ、私……!)
「美華、まずは身体を休めて民達の言う事に従え。まさか民の願いを無視する気はないよな?」
「……は、い……」
美華は女官2人の肩を借りながら鶴龍殿へと向かっていく。
浩明は美華に目もくれず、医師達に指示を出し続けたのだった。そして最終的に虎は捕獲されて山へと帰され、手当てを受けたけが人達は皆無事に帰路に就く事ができたのである。
◇ ◇ ◇
夜。夕食を食べ終えた美華の顔はだいぶ疲労が取れていた。だが、表情は冴えない。
(皆を治せなかった……私が皆を治さないといけないのに……)
「皇后様。雪家のご嫡男様より文が届いておりますが……」
「……机の上に置いておいてください」
雪家のご嫡男様というのは、福勝という名の人物で美華の異母弟にあたる。
今の美華には文は読めないので女官が代読代筆を担っているのだ。
「ふう……だめだめ、元気にならないと」
自らパンパンと両頬を叩いた美華はある考えを思いつく。
「そうだ! よし、明日陛下に相談してみよう……!」
キラキラと白い歯を見せる美華を、女官達はいったい何を思いつかれたんだろう……? と不思議そうに眺めていたのである。
翌朝。さっそく浩明の元に女官が代筆した美華からの文が届いた。
「話がしたいので謁見したいだと?」
「陛下、皇后様からの文でございますか?」
「ああ。正確には女官が代筆したものだが」
「して……それ以外には何が書かれていたのでございますか?」
まるであからさまに浩明の機嫌を伺うような声音をした家臣の言葉に対し、それだけだ。と浩明は答える。
「何の為に謁見を望まれるのでしょうね……皇后であればわざわざ謁見するご必要はないと考えますが」
「俺にもわからん。ろくな事でなければ良いが」
「して、どうされますか?」
「話くらいは聞いてやる」
乗り気ではない表情を浮かべている浩明だが、心の中では美華が一体何を話すのか、気になって仕方ないのだった。
(一体何なんだ……?)
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