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第17話 浩明の視察
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浩明が治療院へ近づくと、列をなしていた民達が慌てて道を開けながら地面にひれ伏した。家臣達がわざわざ皇帝陛下のお通りであるぞ! と言わなくてもいいくらいの素早い動きに、浩明はふんと鼻を鳴らす。
「入るぞ、美華」
「そのお声は……陛下でございますか」
「そうだ。治療院の中の様子を見たいと思ってな」
「どうぞ! くまなく見ていってくださいませ!」
嬉しそうな美華をよそに、浩明はまず椅子に座る患者へ視線を動かした。患者はまだ子供の少年で美華と同じように顔面には目隠しの布が巻かれている。
「少年。君はどうしてここに来た」
少年のそばにいた母親が、彼の年齢は9歳である事、農作業中にけがを負ってしまい目が見えなくなってしまった事を説明してくれた。
当の少年は時折目を抑えて痛い……。と呟くのを繰り返している。
「それでこの治療院へ来たのだな?」
「はい。そうでございます……。元は別の医者に当たっていたのですが、治らないどころかどんどん治療費が高くなっていって……」
(さてはぼったくりの藪医者だな)
このような藪医者は龍の国にも数多く存在する。大抵このような医者はろくな治療はしないくせに法外な治療費を請求するという美華とは対極の存在にいると言えよう。
「私は藪医者なんかではございません。安心してください」
美華の言葉に頷く親子の様子を腕組みしながら見ていた浩明は、美華が少年の目元に手をかざすのを黙って見ている。
(見ものだな)
すると、少年の口元が開いてきた。母親が目隠しの布を取ると、彼の目には傷跡がいくつもあるのが見えたのだがその傷跡がだんだん薄くなって消えていく。
「い、痛くない……! 目が痛くなくなったよ……!」
「本当に? 目をゆっくり開いてごらん」
「……! すごい! 綺麗に見えるよ! あっあなたが皇后様で、あなたが皇帝陛下でございますか?」
美華と浩明がそろって返事をすると、少年はうわあああっ! と驚きの声を出した。
「すごい! 皇帝陛下と皇后様だ! えっと、僕の目を治したのが皇后様だよね?」
「そうよ、あなたの目を皇后様が治してくださったのよ。ほら、お礼を言わなくちゃ」
「えっと、ありがとうございました……! すごい、綺麗に見えます……!」
「ふふっ、良かったです。また怪我したらいつでもここに来てね」
少年ははいっ! と元気よく答え、母親と手をつないで治療院を後にしていった。
「陛下はいつまでこちらにおりますか?」
「とりあえずもう少しはここで見てやる」
「陛下、人を助けるのはとても良い事でございますね。私は本当にこの為に生きていると感じます」
浩明の脳裏に、以前美華が語っていた言葉がよぎった。
――はい。御仏様からくださったこの力で人々に寄り添い病を癒し……徳を積みたいのでございます。
(こいつは本当に、誰かを治す事に己の人生をかけているのだろうか)
「確かに人助けはよき行いだ。だが、お前はそれに己の人生をかけているのか?」
「勿論でございます。私の存在意義はこれしかないのですから」
人助けしか存在意義は無いという言葉は、すなわち皇后としての存在意義は無いと言っているのも同然である。
確認の為に妃としての存在意義は感じ無いのか? と浩明が尋ねると美華ははい。と控えめに答える。
「私はお飾りの皇后でございますから。でも、それで良いのです」
「お飾りの皇后でも、良いと?」
「はい。お飾りでもこうして使命を全うして生きていけるならいいんです」
にっこりと笑う美華に対し、浩明の胸の中では不思議な感情が芽生え始めていた。もっと美華に寄り添ってみるのもありかもしれない。といったものだ。
「そうか。では次の患者を治すのだ。俺はもう少しここで見ているよ」
「ありがとうございます。どうぞご遠慮なく見ていってくださいませ」
(何だろうな、この感情は……)
浩明は頭をかきながら、美華が患者達へ寄り添い優し声をかけながら波動の力を使っていくのをただ見つめていた。
◇ ◇ ◇
李賢妃達が治療院を荒らして大体一週間後の事。一応美華に仕える女官達の間で犯人捜しをした方が良いのではないか? という声は上がってはいたものの、美華本人には未だ届いていないようだ。
「だって犯人は捜した方が良いわよ! またあんな事されたらたまったもんじゃないわ!」
「皇后様なのだから、注意くらいは出来るはずよ!」
と、犯人捜しをすべきだと周囲に訴えている女官達。その一方で……。
「犯人を突き止めたとしても倍返しされたらどうするのよ……」
「この事が皇帝陛下に知られたら大変だし……」
「皇后様、あの巫女の老婆にそれっぽい事聞かれていたけど、お断りしていたじゃないの」
このように消極的な反応を見せる女官達もいた。
そして当の本人である李賢妃のその女官達は今度はどうすべきかと頭を巡らせていた。ただの嫌がらせは効果が無いとなれば、直接皇后の美華に対してガツンと言うより他ない。という過激な所まで到達していたのである。
(何かいい案はないかしら……陛下からの寵愛を得て世継ぎを産むのはこの私なんだから!)
李賢妃が赤漆に金粉がちりばめられた贅沢な椅子に座って、茉莉花茶を飲んだ時の事だった。
「あ、れ……なんだか、くらくらして……!」
李賢妃は茉莉花を机に置いたのと同時に、椅子から床へと滑り落ちていったのである。
「李賢妃様!」
「李賢妃様! しっかりなさいませ……!」
「入るぞ、美華」
「そのお声は……陛下でございますか」
「そうだ。治療院の中の様子を見たいと思ってな」
「どうぞ! くまなく見ていってくださいませ!」
嬉しそうな美華をよそに、浩明はまず椅子に座る患者へ視線を動かした。患者はまだ子供の少年で美華と同じように顔面には目隠しの布が巻かれている。
「少年。君はどうしてここに来た」
少年のそばにいた母親が、彼の年齢は9歳である事、農作業中にけがを負ってしまい目が見えなくなってしまった事を説明してくれた。
当の少年は時折目を抑えて痛い……。と呟くのを繰り返している。
「それでこの治療院へ来たのだな?」
「はい。そうでございます……。元は別の医者に当たっていたのですが、治らないどころかどんどん治療費が高くなっていって……」
(さてはぼったくりの藪医者だな)
このような藪医者は龍の国にも数多く存在する。大抵このような医者はろくな治療はしないくせに法外な治療費を請求するという美華とは対極の存在にいると言えよう。
「私は藪医者なんかではございません。安心してください」
美華の言葉に頷く親子の様子を腕組みしながら見ていた浩明は、美華が少年の目元に手をかざすのを黙って見ている。
(見ものだな)
すると、少年の口元が開いてきた。母親が目隠しの布を取ると、彼の目には傷跡がいくつもあるのが見えたのだがその傷跡がだんだん薄くなって消えていく。
「い、痛くない……! 目が痛くなくなったよ……!」
「本当に? 目をゆっくり開いてごらん」
「……! すごい! 綺麗に見えるよ! あっあなたが皇后様で、あなたが皇帝陛下でございますか?」
美華と浩明がそろって返事をすると、少年はうわあああっ! と驚きの声を出した。
「すごい! 皇帝陛下と皇后様だ! えっと、僕の目を治したのが皇后様だよね?」
「そうよ、あなたの目を皇后様が治してくださったのよ。ほら、お礼を言わなくちゃ」
「えっと、ありがとうございました……! すごい、綺麗に見えます……!」
「ふふっ、良かったです。また怪我したらいつでもここに来てね」
少年ははいっ! と元気よく答え、母親と手をつないで治療院を後にしていった。
「陛下はいつまでこちらにおりますか?」
「とりあえずもう少しはここで見てやる」
「陛下、人を助けるのはとても良い事でございますね。私は本当にこの為に生きていると感じます」
浩明の脳裏に、以前美華が語っていた言葉がよぎった。
――はい。御仏様からくださったこの力で人々に寄り添い病を癒し……徳を積みたいのでございます。
(こいつは本当に、誰かを治す事に己の人生をかけているのだろうか)
「確かに人助けはよき行いだ。だが、お前はそれに己の人生をかけているのか?」
「勿論でございます。私の存在意義はこれしかないのですから」
人助けしか存在意義は無いという言葉は、すなわち皇后としての存在意義は無いと言っているのも同然である。
確認の為に妃としての存在意義は感じ無いのか? と浩明が尋ねると美華ははい。と控えめに答える。
「私はお飾りの皇后でございますから。でも、それで良いのです」
「お飾りの皇后でも、良いと?」
「はい。お飾りでもこうして使命を全うして生きていけるならいいんです」
にっこりと笑う美華に対し、浩明の胸の中では不思議な感情が芽生え始めていた。もっと美華に寄り添ってみるのもありかもしれない。といったものだ。
「そうか。では次の患者を治すのだ。俺はもう少しここで見ているよ」
「ありがとうございます。どうぞご遠慮なく見ていってくださいませ」
(何だろうな、この感情は……)
浩明は頭をかきながら、美華が患者達へ寄り添い優し声をかけながら波動の力を使っていくのをただ見つめていた。
◇ ◇ ◇
李賢妃達が治療院を荒らして大体一週間後の事。一応美華に仕える女官達の間で犯人捜しをした方が良いのではないか? という声は上がってはいたものの、美華本人には未だ届いていないようだ。
「だって犯人は捜した方が良いわよ! またあんな事されたらたまったもんじゃないわ!」
「皇后様なのだから、注意くらいは出来るはずよ!」
と、犯人捜しをすべきだと周囲に訴えている女官達。その一方で……。
「犯人を突き止めたとしても倍返しされたらどうするのよ……」
「この事が皇帝陛下に知られたら大変だし……」
「皇后様、あの巫女の老婆にそれっぽい事聞かれていたけど、お断りしていたじゃないの」
このように消極的な反応を見せる女官達もいた。
そして当の本人である李賢妃のその女官達は今度はどうすべきかと頭を巡らせていた。ただの嫌がらせは効果が無いとなれば、直接皇后の美華に対してガツンと言うより他ない。という過激な所まで到達していたのである。
(何かいい案はないかしら……陛下からの寵愛を得て世継ぎを産むのはこの私なんだから!)
李賢妃が赤漆に金粉がちりばめられた贅沢な椅子に座って、茉莉花茶を飲んだ時の事だった。
「あ、れ……なんだか、くらくらして……!」
李賢妃は茉莉花を机に置いたのと同時に、椅子から床へと滑り落ちていったのである。
「李賢妃様!」
「李賢妃様! しっかりなさいませ……!」
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