後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第31話 四夫人との恋愛談義

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「眠れない、でございますか」
「睡眠薬をご用意いたしましょうか?」
「いや、多分これは……薬を飲んでも治らないものだと思うのです」

 美華は自身の胸の内を全て女官に吐き出した。女官達は薄暗闇の中で互いに顔を見合わせる。

「ああ……こういう話ですか。私は経験が無いのでどなたかお願いします」
「私も恋愛事は……」

 という具合に擦り付け合いが始まったので美華は相談に乗れないならいいですよ……と告げると女官達はいや、待ってください! と美華をなだめる。

「……ここはいっそ、他の妃の方々にお聞きするのはいかがでございましょうか?」
「妃の方々ですか」
「劉貴妃様ですとか、李賢妃様とか」
「ほうほう……ちょっと今日はもうこんな時間ですし、明日の治療院での仕事が終わりましたらお食事にお誘いしてみましょうか」

◇ ◇ ◇

 次の日の日没。治療院が閉められたあと、四夫人の位の妃達が鶴龍殿へと訪れた。ちなみに本来は劉貴妃と李賢妃が誘われたのだがあたしもいきたい! という玉成淑妃とそんな玉成淑妃が何かやらかさないか心配で監視するために周徳妃も参加を決めた事で、四夫人全員が集結する事となったのである。

「わあ! 賑やかでいいね!」

 早速玉成淑妃が架子床の上で飛び跳ね始めるので周徳妃が慌てて止めに入る。

「やめてください! 架子床が壊れたら大変ですから!」
「後宮の架子床なんだよ? 簡単に壊れないって! 美華ちゃんも遊ぼうよ」

 きらきらと笑いながらしゃべる玉成淑妃に、美華の顔が少し晴れやかになるのを李賢妃は見逃していなかった。

「皇后様、なんだか晴れやかな表情になりましたね」 「あっ……玉成淑妃様が元気だからですかね」
「なるほど。確かに玉成淑妃様は朗らかですものね」 

 周徳妃が皆様、話をしていきましょう。と語りかけた所で本題に入る。
 女官らが夕食を運んで来る中、改めて美華が説明すると、劉貴妃はこういう時は話あるのみです。と答える。

「でも、劉貴妃様。なんてお話をすれば……」
「陛下は唯一無二の存在だとお伝えすれば良いのですわ」

 劉貴妃の手元にあるのは恋愛小説。頁をぺらりと捲りながら、いつものように黒い布で目隠しされた美華を見つめる。

「でも、平等でないと……」
「順位付けしようとしておりませんか? 皇后様」
「劉貴妃様……」
「逆に順位付け出来ないくらい特別な存在だと答えれば良いかと思いますわ」

 しかし、美華には浩明が特別だとは思えなかった。
 その事を正直に劉貴妃に伝えると、彼女はなるほどそうでしたか……。と呟く。

「そもそも皇后様は、陛下に恋愛感情が無いのでは?」
「周徳妃様……恋愛感情ってどんなのですか?」
「恋愛感情がどのような感じか……それは難しいですね……」
「恋でしょ? 好きって事じゃないの?」

 玉成淑妃の言葉に李賢妃がちょっと違いますねと答える。

「そうなの?」
「はい。恋をする相手というのは、要はかけがえの無い存在なのですよ」

 この人なら、自分の全てを預け、さらけ出せる。あなたの中を私で満たしたい……。そういう感情が恋愛感情であると持論を展開した。

「なんか怖いね」
「玉成淑妃様!?」
「私も……玉成淑妃様に賛成でございます」
「周徳妃様まで!?」

 2人から引かれて驚く李賢妃。美華は情熱という事なのだろうか? と考えていた。

「とにかく、心が動かされるというのが恋愛だと私は考えます」 
「その感情を陛下にお向けになっているの?」
「はい、劉貴妃様」
「やっぱり怖いね……」

 まだ玉成淑妃にドン引きされている李賢妃をよそに周徳妃は美華に考え方を変えるのはすぐには難しいのではないですか? と語りかけた。

「周徳妃様……」 
「人は変化するのは難しいものだと思いますよ」
「でも、どうすれば……」
「少しずつ陛下を知りたい。こう答えるのはだめですか?」

 美華は己に問う。浩明の事を知りたいと考えているのか否かを。

(……もっと話してはみたいかも)

 考えた事を周徳妃に伝えると、周徳妃は穏やかに微笑んだ。

「それでよろしいと思いますよ」
「そうですか? 周徳妃様」
「はい。皆様はどうお考えになりますか? 奇譚のない意見をお願いします」

 劉貴妃と李賢妃、玉成淑妃は共に問題ない事を示した。

「少しずつ相手を知れば良いのですよ」
「でも、うかうかしていたら私が掻っ攫いますよ?」

 敢えて挑発してみせた李賢妃はなおも続ける。

「陛下はそれだけ皇后様の事を大事に思っているのですから、こちらもうかうかしてはいられません」
「李賢妃様」
「私はまだ、世継ぎを産む事を諦めた訳ではございませんから」

 いじわるな笑みにはにつかわない優しい声音に美華はふふっと笑うと李賢妃は、どうして笑うのですかと不満げに口にした。

「いや、なんだか胸にあったつかえが取れた気がしたので」
「そうですか、それなら……良かったのですかね」

 こうして、四夫人と美華の恋愛談義は夕食後も続いたのである。
 
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