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第36話 雪福勝
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お堂では被災者達が互いに身を寄せ合って恐怖から逃れようとしていたが、浩明らの姿を見るとすぐに歓声を挙げて喜びをふるわせた。
「皆! 陛下がおられるなら大丈夫だ!」
「ああ、陛下と皇后様がいらっしゃる……!」
「おふたりとも、大丈夫でございますか?! 濡れておりますし、早くあたためるものを……!」
「俺は大丈夫だ。心配ない。美華にどうか温かいものを」
美華が私は大丈夫ですよ。と丁重に断る。それでも被災者と僧侶達は気を遣ってお湯を持ってきた。
「美華、湯はいるか?」
「私は大丈夫です。皆さんや陛下こそ……」
「俺も大丈夫だ。ここは皆に分け与えたい」
お湯は被災者や僧侶、宦官らに分け与えられる。そして夜明けまで浩明は美華を抱きしめたまま過ごした。
夜明けが来てもなお嵐は続く。ほんの少し明るくはなったが、それでも暗いのには変わりはない。
「この調子では、身動きが取りにくいな……」
「そうですね……」
「だが、無闇矢鱈に動いたらそれこそ嵐の思うつぼだ」
すると風と雨が止み始めてきたので、僧侶らがゆっくりと動き出す。それを見た宦官らや被災者達もよし今のうちだと言わんばかりに厠などへ動き始めた。
「皆さん、どうぞ」
しばらくして僧侶が持ってきたのは、おかゆだった。浩明は立ち上がり自ら被災者らへ素朴な木製のお椀に入ったおかゆを渡す。
もちろん美華へも渡すと、皆、おかゆは行き届いたか? と尋ねた。
「全員行き届いているようでございます」
「分かった。ではいただこう」
美華は木の匙でおかゆを少量掬い、口に運ぶ。
「温かいですね……」
お米と菜っ葉の欠片が入った、どちらかといえば粗末なつくり。皇帝や皇后が口にするような代物ではない。
だが、美華からすればこの程度のものはむしろ食べ慣れている。
「やはり、おかゆは美味しいですね」
「美華?」
「ああ、失礼しました。このようなおかゆはよく食べていたもので」
彼女の言葉に引っかかる浩明だが、今それを問い出す気にはなれなかった。
皆がおかゆを食べ終わった頃、雨はほぼ無な小雨になったので美華達はさっそく現場へと向かう。
「……崩れているな」
山の一部が崩れ落ち、土砂が家や田畑の一部を押しつぶしている。美華もそれをざっくりとではあるが波動で感じ取っていた。
「やってみます」
美華が両手の手のひらを土砂崩れの現場に向ける。
「おおっ!?」
土砂が宙に浮き、元あった山へと帰っていく。崩れた家々の柱も元の形に戻っていくのだ。
「家が……元通りになっていく……!」
美華達の後ろで見ていた被災者達が、自分達の家々が時を戻していくように戻る様を、目に焼き付けている。
「ああ、奇跡だ。これは奇跡だ……!」
「信じられない……!」
「これは……御仏の行いか……?」
建物や崩れた山の全てが元に戻ると、被災者達からは大歓声があがった。その大歓声に覆われるような美華を浩明は誇らしげに見ていたのである。
「あっ」
ここで波動の力を使いすぎたのか、美華が足元から崩れるようにしてふらついた瞬間浩明が抱きとめる。
「力の影響か?」
「おそらく……でも大丈夫です。すぐに治りますから」
「わかった。無理はするなよ」
「お気遣いありがとうございます」
2人がそっと抱き合う姿を宦官らは穏やかに見つめている。その後ろで、被災者達は両手を天に突き上げたり小躍りしたりして、喜びを爆発させていた。
「皆様の喜びが伝わってまいりますね」
「そうだな。美華、ありがとう」
「いえ、私はやるべき事をしたまでです。でも陛下からの感謝の言葉、光栄に思います」
その後。美華は嵐で被害を受けた寺の建物も直した。被災者達はお堂から元に戻った家へと戻っていったが、ほぼ全員が浩明達を見送りに来てくれたのである。
「陛下! 皇后様! ありがとうございます!」
「皆様ありがとうございました!」
彼らは浩明の姿が見えなくなるまで手を振り続ける。こうして公務は無事に終わり、美華はまた治療院での仕事を再開したのだった。
◇ ◇ ◇
「……誰かいるか?」
午前中の謁見が終わった後、浩明の呼びかけに応じた家臣3人が、浩明の前に馳せ参じる。
「はっ、いかがなさいましたでしょうか、陛下」
「……雪福勝を呼べ」
「かしこまりました」
雪福勝。美華の異母弟で雪家の嫡男。浩明はかねてより抱いていた美華への疑問を、福勝に聞いてみる事にしたのである。
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
「雪福勝か」
「はい。そうでございます。陛下」
福勝の顔つきは美華と似ており地味な見た目だ。背も浩明よりは低い。また、どこか猫背気味な姿勢にも見える。
「そなたに、美華について尋ねたくてここに呼んだのだ」
「……!」
「……話してくれるな?」
「……はい。全てお話しします」
覚悟を決めた顔つきを見せる福勝を、浩明は玉座から睨むようにして見下ろしていた。
「皆! 陛下がおられるなら大丈夫だ!」
「ああ、陛下と皇后様がいらっしゃる……!」
「おふたりとも、大丈夫でございますか?! 濡れておりますし、早くあたためるものを……!」
「俺は大丈夫だ。心配ない。美華にどうか温かいものを」
美華が私は大丈夫ですよ。と丁重に断る。それでも被災者と僧侶達は気を遣ってお湯を持ってきた。
「美華、湯はいるか?」
「私は大丈夫です。皆さんや陛下こそ……」
「俺も大丈夫だ。ここは皆に分け与えたい」
お湯は被災者や僧侶、宦官らに分け与えられる。そして夜明けまで浩明は美華を抱きしめたまま過ごした。
夜明けが来てもなお嵐は続く。ほんの少し明るくはなったが、それでも暗いのには変わりはない。
「この調子では、身動きが取りにくいな……」
「そうですね……」
「だが、無闇矢鱈に動いたらそれこそ嵐の思うつぼだ」
すると風と雨が止み始めてきたので、僧侶らがゆっくりと動き出す。それを見た宦官らや被災者達もよし今のうちだと言わんばかりに厠などへ動き始めた。
「皆さん、どうぞ」
しばらくして僧侶が持ってきたのは、おかゆだった。浩明は立ち上がり自ら被災者らへ素朴な木製のお椀に入ったおかゆを渡す。
もちろん美華へも渡すと、皆、おかゆは行き届いたか? と尋ねた。
「全員行き届いているようでございます」
「分かった。ではいただこう」
美華は木の匙でおかゆを少量掬い、口に運ぶ。
「温かいですね……」
お米と菜っ葉の欠片が入った、どちらかといえば粗末なつくり。皇帝や皇后が口にするような代物ではない。
だが、美華からすればこの程度のものはむしろ食べ慣れている。
「やはり、おかゆは美味しいですね」
「美華?」
「ああ、失礼しました。このようなおかゆはよく食べていたもので」
彼女の言葉に引っかかる浩明だが、今それを問い出す気にはなれなかった。
皆がおかゆを食べ終わった頃、雨はほぼ無な小雨になったので美華達はさっそく現場へと向かう。
「……崩れているな」
山の一部が崩れ落ち、土砂が家や田畑の一部を押しつぶしている。美華もそれをざっくりとではあるが波動で感じ取っていた。
「やってみます」
美華が両手の手のひらを土砂崩れの現場に向ける。
「おおっ!?」
土砂が宙に浮き、元あった山へと帰っていく。崩れた家々の柱も元の形に戻っていくのだ。
「家が……元通りになっていく……!」
美華達の後ろで見ていた被災者達が、自分達の家々が時を戻していくように戻る様を、目に焼き付けている。
「ああ、奇跡だ。これは奇跡だ……!」
「信じられない……!」
「これは……御仏の行いか……?」
建物や崩れた山の全てが元に戻ると、被災者達からは大歓声があがった。その大歓声に覆われるような美華を浩明は誇らしげに見ていたのである。
「あっ」
ここで波動の力を使いすぎたのか、美華が足元から崩れるようにしてふらついた瞬間浩明が抱きとめる。
「力の影響か?」
「おそらく……でも大丈夫です。すぐに治りますから」
「わかった。無理はするなよ」
「お気遣いありがとうございます」
2人がそっと抱き合う姿を宦官らは穏やかに見つめている。その後ろで、被災者達は両手を天に突き上げたり小躍りしたりして、喜びを爆発させていた。
「皆様の喜びが伝わってまいりますね」
「そうだな。美華、ありがとう」
「いえ、私はやるべき事をしたまでです。でも陛下からの感謝の言葉、光栄に思います」
その後。美華は嵐で被害を受けた寺の建物も直した。被災者達はお堂から元に戻った家へと戻っていったが、ほぼ全員が浩明達を見送りに来てくれたのである。
「陛下! 皇后様! ありがとうございます!」
「皆様ありがとうございました!」
彼らは浩明の姿が見えなくなるまで手を振り続ける。こうして公務は無事に終わり、美華はまた治療院での仕事を再開したのだった。
◇ ◇ ◇
「……誰かいるか?」
午前中の謁見が終わった後、浩明の呼びかけに応じた家臣3人が、浩明の前に馳せ参じる。
「はっ、いかがなさいましたでしょうか、陛下」
「……雪福勝を呼べ」
「かしこまりました」
雪福勝。美華の異母弟で雪家の嫡男。浩明はかねてより抱いていた美華への疑問を、福勝に聞いてみる事にしたのである。
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
「雪福勝か」
「はい。そうでございます。陛下」
福勝の顔つきは美華と似ており地味な見た目だ。背も浩明よりは低い。また、どこか猫背気味な姿勢にも見える。
「そなたに、美華について尋ねたくてここに呼んだのだ」
「……!」
「……話してくれるな?」
「……はい。全てお話しします」
覚悟を決めた顔つきを見せる福勝を、浩明は玉座から睨むようにして見下ろしていた。
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