後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

文字の大きさ
66 / 88

第65話 大地震

しおりを挟む
※今話には地震の描写がございます。
苦手な方はご注意を。





「もしも、もしもでございますよ? あなた方が留守にしている間、悪徳商人が家にやって来たとします。あなた方の奥様方が文字の読み書きができなければどうなると思いますか?!」

 声を荒げるヴィンセドールス侯爵夫人へ、反対派の家臣団は虫の息のような声で、騙されてしまいます……と返す。

「聞こえませんね?!」
「だ、騙されてしまうと……思います……!」
「そうでしょうそうでしょう。それで、あなた方は妻のせいにするのですか?」
「うっ……!」

 痛い所を突かれた反対派の家臣団は何も言い返せない。ぐぬぬ……と唇をかむ者もいれば、そうだ。確かに夫人の言う通りだ……。とがっくりと肩を落とす者もいる。

「陛下。という訳でこの計画は進めるべきでございます」
「わかった。ヴィンセドールス侯爵夫人の説教、素晴らしかったぞ」
「お褒めに預かり、恐悦至極にございます」

 服の両裾を手で掴んで広げ、ぺこりと西洋式のお辞儀をする彼女の顔には、笑みが浮かんでいた。

「では、そのように計画を進めていく! 万事良いな!」
「はっ仰せのままに!」

 その後も教育や医療について浩明と美華はミハイル夫妻と意見交換しつつ、家臣団からの意見も聞いているとあっという間に時間が経つ。

「……食事をするのを忘れていたな」

 浩明の周囲に並ぶ品々は全て冷めきっていた。ミハイル夫妻を見送った後、浩明は机に並ぶ料理の数々に目を配る。

「すまないが温め直してくれ。また夕食時に頂く」
「かしこまりました、陛下」
(すべてを破棄するなんてもったいないしな……)

 すると美華が浩明の元にとことこと近寄って来た。

「余ったものは私がいただきましょうか?」
「美華……だが結構余っているぞ?」

 それなら女官と分けましょうか。と美華が答えると浩明はそれでいいのか? と気にする質問をする。

「だって……手は付けていないとはいえ、残り物ではあるし」
「あ、そうでした……そこを考えていませんでした。では、陛下と私のふたりでいただきますか」
「そうだな。せっかくだ。ふたりっきりで食べながら話さないか?」

 という事で夕食は個室にて昼食会にて余った食材を温め直して食べる事になった。狭めの個室で食事をする美華の口元は子供のようにほころんでいる。

「やはり宮廷での食事はおいしゅうございますね」

 牛肉と野菜の煮込み料理を頬張りながら笑顔を見せる美華に浩明の胸が高鳴った。

「そうだな。宮廷の料理は好きだ」
「私もです。……食べ過ぎには注意しないとですね」

 2人があっという間に食べ終わり、お茶をすすっている時だった。

「……ん?」

 足元が小さく左右に揺れ動いたのを浩明が知覚した瞬間、轟音とともに大地が大きく揺れ動き始めた。

「わあああああああああ!」
「っ陛下!」

 茶器が飛んで中のお茶が全てぶちまかれ、椅子から投げ出されるように崩れ落ちた2人は急いで机の下に身を隠す。

「美華! しっかり捕まってろ!」
「は、はい! 陛下!」
「揺れが落ち着くまで手を離すな!」

 必死に地震をやり過ごすが、地震の力は兎にも角にもすさまじい。
 あちこちから轟音や悲鳴が沸き起こる。

「美華、美華! 手を離すな!」
「はい!」

 必死に地震に耐える2人だが、机の柱がバキッと折れた。

「っ!」
「美華!」

 美華は無意識のうちに、浩明の背中の上へと覆い被さる。その華奢な背中に折れた机や倒れてきた家具などが倒れてきた。
 揺れが引き、浩明が目を覚ます。

「美華……?」

 自身の背中の上に、庇うようにして美華が倒れ込んでいた。

「……美華! 美華!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。 彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。 毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。 はたして、己は何者なのか――。 これは記憶の断片と毒をめぐる物語。 ※年齢制限は保険です ※数日くらいで完結予定

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。内容も少し変更しておりますので、あわせてお楽しみください。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...