後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第82話 どす黒い感情

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 美華は両手を前へと掲げ、波動の力を出した。すると波動の力は黒い泥ではなく美華の身体の周りを覆い始める。

「ん? いつもと手ごたえが違いますね……」
「美華、今はあなたの身を守るべくそうさせていただきました」
「あっ御仏様の仕業だったのですか」

 手ごたえが違った理由を理解した美華。黒い泥は絶えず美華に襲いかかっているが、波動の力が泡のように全身を包んでいてくれているおかげで、全く当たらない。

「あと少しです。美華」
「わかりました……うわ、大きいなあ……」

 距離が近くなり、幽霊と死体まですぐそこ。となった地点で邪龍の幽霊は大きな咆哮をあげる。

「わああっ」

 耳をつんざく容赦のない咆哮に美華はたまらず両手で耳をふさいだ。すると御仏が波動の力を出すようにと美華の脳内に直接問いかける。

「わっわかりました!」

 すると波動が咆哮を上書きするかのような形となり、咆哮の音量ははっきりと小さくなった。

「これなら大丈夫ですね、もっと近づいて……まずは対話を行わないと」
(なんだか心の中まで拒絶感というか……どす黒い感情が突き刺さって来るような感じだ……)

 ぴりぴりもやもやとした何かを敏感に感じ取り始めていた美華に、後宮入りする前の記憶が突如湧いて出て来る。

 ――あんな奴の娘をどうして私が見なきゃいけないのよ!
 ――この役立たず!

 雪家当主の正妻に虐げられていた過去で頭と胸の中がいっぱいになる。美華は頭を振ってその記憶を飛ばそうとしても飛んでくれない。

「……やめて……」
「今、やめてといったか?」
「?」

 いきなり聞こえてきた男性の声。浩明のものよりも低く、雑音が紛れている。

「その声、邪龍さんですか?」

 直感でそう信じた美華からの問いに、声の主である邪龍の幽霊はそうだ。と答えた。

「どうやら貴様にもつらい過去があるようだな」
「……人は生きていたら誰だって、それくらいあると思います」
「ほう。ふん、小娘だと思っていたら……強がりか?」
「強がりなんですかね?」

 俺に聞くんじゃない。とかつて浩明が見せていたかのような呆れた様子を出した邪龍の幽霊に、美華はふふっ。と笑う。

「どうして笑った」
「なんだか……陛下と似ていたので」
「お前が一番愛している男か」

 ふうん……と面白くないように鼻を鳴らすと、まあいい。と何か言おうとして止めた邪龍の幽霊。美華はどうかしたのですか? と問うと彼は知りたいのか? と切り出した。

「私はあなたと話すべきだと思ったので」
「そうか。俺の話を全部聞いてくれるのか?」
「はい。私、話を聞くのは好きなので」

 美華がそう返すと、邪龍の幽霊はくくくっとあくどい笑みを浮かべた。

「では……あいつらが成した悪事を話してやろう」
 
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