後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第83話 過去①

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 美華の暗闇に覆われた視界に白いモヤがあふれ出した。白いモヤは徐々に晴れていき、草原と青空だけの世界に移り変わる。草原にはよく見ると色とりどりの小さな花が咲き乱れていた。

「わあ……何にもない世界ね……」
「そうだろう?」

 目の前に、邪龍が現れた。大きさは浩明くらいに小さくなっている。
 4つの足を動かしながら草を踏み分けて、美華の元に近づいてきた。

「邪龍さん」
「ここはな、俺がかつていた世界だ」
「……龍の国が生まれる前の世界ですか?」
「そうだ。そして貴様らおろかな人間が生まれる前の世界でもある」

 すると邪龍の後ろ、遠くに2頭の龍が姿を現す。姿形は邪龍とよく似ていたが角の形状など細かい部分には違いも見受けられた。

「あの龍は……」
「俺と近い種族だ」
「近い種族?」

 邪龍曰く、龍は幾つかの種族で分かれておりそれぞれ見た目が違うのだとか。

「梅と桃と桜みたいなもんと考えてくれたらいい」
「確かに……3つとも桃色の花を咲かせますもんね」
「そういう事だ」
「あの方達はどうなったんですか?」

 いつもと変わらぬ口調で美華が尋ねると、邪龍は鋭いな。とぼそりと呟く。

「人間どもによって絶滅されたんだ」
「ぜ、絶滅……!」
「あなたは知らないのですね……」

 美華が後ろを振り返ると、そこには御仏の姿があった。

「おい、また俺の邪魔をしにきたのか?」

 邪龍は御仏を睨みつけた。彼の行動を事前に読み取っていたのか、御仏は目線を下に落としながらいいえ。と返す。

「美華には真実を知る権利があると考えたのです」
「権利も何も、最初から教えるつもりだよ。こいつは雪家の女だからな」
「まあ、ご存知でしたか」
「そんなおっとりして言うんじゃねぇよ。調子狂うな……」

 はあ。とため息をつく邪龍に美華は真実とは? と語りかける。

「脇道にそれたな。じゃあ話すとするか」

 龍の国が生まれる前。龍達はここでのんびりと暮らしていた。様々な種族の龍達は時には小さな諍いを起こしたりはしたが、それでも大規模な戦いはなく日々を過ごしていたのである。 

「だが今から1万年くらい前か。状況は一変した」
「何が起こったんです?」
「人間だ。お前の先祖が来たんだよ」

 人間は龍を見つけると、次々に食料として狩り始めた。当時の龍は図体こそ山のように大きいが、賢く物量作戦で攻めてくる人間にはなすすべが無かったのである。

「それにあいつらは俺達に病を持ち込んできたんだ」

 病の勢いは深刻で龍は一気に数を減らした。しかも人間の中には龍へ呪いをもたらす者もいたらしい。

「鈴蘭さんみたいな呪術師でしょうか」
「そうだな。自分らの住まいに俺達が入って来ないように、呪いをかけやがってきた」
「それで……どうしたんですか?」

 邪龍は仲間達が病や呪いで苦しんだり、人間に狩られたりして数を減らしていくのを黙って見ていた。

(このまま俺達は……滅ぶのを待つしかないのか!?)

 そして今から2000年前の時。ある1頭の龍が行動に出る事になる。

「私は……人間の所で住もうと思います」
「はあ!? なんでだよ!?」

 邪龍が止めるのも聞かず、その金色の角と白い毛に覆われた龍は流れ星に祈った所、龍は姿を変えたのである。

「御仏。お前はあん時から変わってないな」
「……」
「え、御仏様は……龍だったのですか?」
「ああ、そうだよ。色は違うが同種族だ」

 御仏は邪龍と同じ種族の龍だった。その事実に美華は驚きを隠せない。

「えっ……龍が……龍から、御仏様に……でも、どうして邪龍さんを……?」

 そう。御仏は邪龍を倒した側の者。どうして2人の運命はわかれてしまったのだろうか。

「私は、自分のあり方に疑問を持っていました」
「疑問?」
「確かに元いたのは私達龍です。しかし、人間と共生する道もあり得たのではないかと」
「また言ってるのかよ? 共生は無理なんだよ諦めろって」

 人間は龍に悪影響をもたらし続けた。病を振りまいたのは悪気がある訳では無いとはいえ、呪いをかけたり龍を食料としたのはまさしく過ちと言える。

「私は……種族の中で違う見た目をしていたのでよくいじめられておりました」
「御仏様?」

 ここでもたらされた御仏からの突然の告白に美華は目を丸くさせる。

「白変種と言うそうですが、こんな派手な見た目、嫌でした」
「……」
「ですが、邪龍もまた、私と同じように虐げられておりました」
「……私と同じですね」

 邪龍は美華から顔を背ける。反対に御仏は美華の背中をしっかりと見つめていた。

「そんな中、私はひとりの人間の少女と出会いましてね。彼女に傷を癒してもらったんです」

 その人間の少女は美華とよく似た容姿をしていたそうで、周りの大人の目を盗んで薬草を届けてくれていたりしていたが、しばらくするうちに見なくなった。

「その女の子は……どうなったんです?」
「俺が殺した」
「は?」

 邪龍の言葉に、美華は息を呑んだまま言葉を紡ぐ事が出来ない。

「一応言っておくが、俺は殺そうと思って殺した訳じゃねぇからな。不可抗力ってやつだ」
「ふ、不可抗力……?」
「俺は悪くない。俺を虐めたやつらが悪いんだ」

 恨み言を吐く邪龍の声は更に、低くなった。
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