後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第84話 過去②

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 邪龍は当時、同種族の者達から暴力を受けていたようだ。御仏共々人間が現れるより前はそんな事は無かったと語る。

「理由はいつも俺が気に食わねぇとかそんなんしか言わねぇ」
「人間が現れてから……あの者達は変わった。私達のせいで仲間がやられた。とも言われましたね」
(なんだか、あの人と同じだな……あの人は嫉妬や憎しみもあったんだろうけど)

 美華は邪龍を雪家の正妻と重ねる。そして邪龍が落ちた先にはなんと薬草を取っていた少女がいたのだ。

「あいつは運悪く、落ちた俺の下敷きになっちまったんだ。ぺしゃんこにな」

 御仏は穏やかな表情こそ崩さないが、唇には苦々しさが表れている。

「そして全てを知った御仏様は今の姿に変わり、出ていったと」
「そうです。天が私を仏に変えてくれました」
「そんでそいつがいなくなった後の事だ。俺はある行動に出たんだ」

 それは、仲間達を食い殺し力を奪う事だった。

「最初は俺を虐げてきたやつのひとりが、人間に怪我を負わされて弱ったからだった。今ならイケるんじゃね? って」

 そしたら俺は……あっさりとあいつらを食い殺せたんだ! と目をかっと見開き、息を荒くさせ興奮しながら邪龍は語る。

「それからはあっという間だったさ。仲間達が少なくなっていくよりも、復讐の方が気持ちよかったんだ」
「邪龍さん……」
「あながち、御仏の言う事は間違いじゃなかった。こんなクソみてぇなやつらなんて、滅びて当然だったなって」

 邪龍は復讐の共食いに飽き足らず、人間にも危害を与えるようになった。
 だが、その復讐は後に邪龍の首を絞める事になる。

「共食いのおかげで俺は力を増した。口から瘴気を吐き出したりな」
「……」
「美華、だまりこんでしまったかぁ? あとは波動の力を使ったりなぁ」
「私と同じ力……?」

 ここで御仏は、あなたの力は私由来です。と美華に語った。

「御仏様はいつから波動の力を?」
「ごく簡単なのは龍の時からありました。己限定ですが」

 波動の力は今の姿となってから得たも同然と語る御仏に、邪龍はケッ。と漏らす。

「自分で治せないものは、あいつに治してもらってたんだよな」
「そうですね……あの少女には感謝しきれませんね」
「御仏様……怒らないんですね」
「そんな感情はもうありませんから」

 おい、話を戻すぞ。と邪龍が2人に告げる。2人はわかりました。と返すと邪龍は小さく舌打ちをした。

「まあいい。俺は己の欲のまま暴れたんだ。そしたら美華。お前のご先祖様とそいつの出番て訳だ」

 なお、この頃には龍は己以外見かけなくなったと邪龍は語る。

「まあ、もしかしたら生き残りがいたかもしれんがな」
(生き残り……)
「そして俺は倒され、龍の国が生まれたというわけだな。めでたしめでたし」
「……それで全てですか?」

 美華からの問いかけに、邪龍は勘の良いやつだな。と諦め気味に返す。

「あいつらからすれば俺は悪の化身だったよ」

 確かに邪龍は共食いをしてきた。でもそれは己を虐げてきたやつだけだ。と語る。

「だって人間も悪いじゃねえか! 勝手に俺らの場所に入ってきやがって!」

 人間がいなければ御仏は御仏にならずに済んだし己が虐げられるのも少しはマシになっていたはずだ。と邪龍は怒りのままに自論を展開する。

「人間が、いなければ……」
「……龍は、仲間が倒された理由を私達に押し付けていたりもしていました」
「だから龍は滅びて正解ってか? まあ、そうなんだろうけどよ……完全に認めたかねンだよ」

 邪龍と御仏の話は平行線のまま、交わろうとはしない。

(互いの言い分も理解できる……そして邪龍さんは御仏様が御仏様になり、立場が変わったのも許せないんだ)

 何か良い方法は無いのか。美華は必死に考えているとある考えに行き着く。

「……あなた達のズレを、治したいです」
「ズレを治すだと? 何いってんだ?」
「あなた方がこうなってしまったのを、元に戻したいんです」
「美華……あなたの言う事はそれ即ち……人間の滅亡を意味しますよ?」

 そう。美華の考えは人間が来る前の龍の国に直そうというものだ。しかし、そこまで直してしまうと美華含めて人間は滅亡する。

「……人間の滅亡……」
「あなたの理念とも反してしまいます。よろしいのですか?」
「……」
(人間も……龍も……分け隔てなく助けたい……! その為には……)

 美華はぐっと拳を握りしめる。今から彼女が言おうとしている事は最大級の無茶振りだからだ。

「殺されたりした龍を全て元に治します」
「はあ!? お前……バカだな! それでも皇后かよ!」
(そうか、私は皇后! という事は……)
「私は皇后です! あなた達を治して人と龍が共生出来るような国にします!」

 龍を復活させ、人と共生する国にする。美華の考えを聞いた御仏は静かに彼女の元に近づいた。

「確認ですが、龍と人間が共に暮らせると思っているのですか?」
「はい。無理だと考える人はいるでしょう。それでも私は……」
「助ける、ですね。誰であろうが関係なく」
「はい、御仏様」

 はっ、無理な事を言うんじゃねぇよ! と叫ぶ邪龍に美華はゆっくりと歩み寄った。

「な、なんだよ……」
「私はあなたを見捨てたりしません」
「今更なんだよ! まず死んだ龍を復活させるなんて無理だろ!」
「やってみないと、わかりませんよ?」

 美華はいつもと変わらぬ穏やかな笑みを、邪龍に向けた。
 
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