世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん

文字の大きさ
1 / 3

第1話 山ごもり薬師

しおりを挟む
 ここは夏場でもひんやりとしていて、大事な薬草が腐らないから本当に便利な土地だ。
 エルドランド王国は四方を山で囲まれた小国で、私クララ・シャープリゼが住まう国境沿いの辺境・シャクラ山脈は古来より手つかずの自然にあふれた地だ。

「クララおはよう! ハーブを買いに来たわよぉ!」

 聞きなれた声に対してはぁい! と間延びした返事を送りながら、読んでいた古本の表紙をそっと閉じた。
 リビングから早歩きで移動し玄関の姿見を見つつ髪を束ねる。黄色と茶色の衣服に白いエプロンには汚れはなし。瞳の色と同じこげ茶色のうねった長髪は後頭部でお団子にしてまとめ、派手なほつれ毛はないかをさっと確認してから扉に手を掛けた。
 扉を開けると、タタおばあさんが白樺の木でつくられた杖をついて立っている。真っ白な髪を後ろで三つ編みにしている彼女の顔は、ふくふくと穏やかそうな笑みに彩られていた。
 足元にはタタおばあさんの飼い猫である黒猫のルルシーも一緒だ。

「タタおばあさん! おはようございます! あとお久しぶりです。お元気ですか?」

 タタおばあさんは占い師の渡り人。各地を巡り、占いで生計を立てている。占いの技術は本人が言うには百発百中だとか。
 占いにはあれこれ道具が必要らしく、そのうちのひとつであるハーブを買いに、タタおばあさんは約半年に一度のペースでここへやって来る。私にとっては唯一と言っていい客人だ。

「元気そうで何よりよ。おぬしさてはまだ朝ご飯を食べ取らんな?」
「あっ、そうです。言い当てられちゃいました……」
「すまんのぅ。よかったらこれ、美味しく食べとくれ。口に合うか分からんが……」
 
 タタおばあさんの目線はルルシーが咥えているバスケット。彼女に近づいてバスケットを受け取ると中には深い青色をしたベリーが数種類、握りこぶしくらいのガラス瓶の中に詰められていた。
 コトコト煮詰めたらソテーソースやジャムに加工できそうだし、このまま食べても美味しそう!

「ありがとうございます! わあ、綺麗……!」
「ほほ、そうじゃろう。さっき見かけたんで採ってきた新鮮なものじゃ。ささ、全部受け取ると良い」
「はい! ありがたく受け取ります! えっと、いつもの占いで使うハーブですよね……! ちょっと待っててください……!」

 リビングの奥にある工房から、占術用のハーブを粉末にしたものを白い紙袋に入れる。そしてルルシーのバスケットの中に収めた。

「これでよし、と……。全部で100フォクアになります」
「ほい。これでぴったり100フォクアじゃ」
「ありがとうございます。これからタタおばあさんはどちらに?」
「ここから南の果てにある、サラマンドの港まで行こうかと思っておる。そなたはまだこの山にこもっておるのか?」

 はい。とすぐに答えると、タタおばあさんはほっほっほ……! と目を細めて大きく笑った。

「「山ごもり薬師」らしいのぉ。シャクラの地はエルドランド王国の中では最も神秘が宿る地じゃ。独り占めできるクララがうらやましい」
「山で暮らすのは悪くないですよ。静かですし、鳥の鳴き声や色とりどりの花々を見ていると癒されますから」

 山ごもりとはいっても年がら年中ずっといる訳ではない。薬師である以上、招集が下ればふもとの病院か娼館まで降りなきゃいけないのだ。正直移動とか面倒な部分はあるけど、症例を集めたり研究がはかどる点はしっかりあるから一長一短だろう。

「ほほ。ではもうしばらく豊かなシャクラの自然を楽しんでから行こうとするかの。ではまた。ほれ、ルルシー行くぞい」

 100フォクア分の金貨をぎゅっと握りしめてタタおばあさんとルルシーの背中を見送る。ごまのように小さくなってから私は家に戻って朝食づくりに取り掛かる事にした。
 かまどに火をつけ、鍋に昨日採った山野菜と保存しておいたベーコンを入れてスープを作る。ぼこぼこと泡を立てて沸騰している鍋を見つめていると、エリおばあちゃんがよく火から目を逸らしてはいけないよ。と言われていたのを思い出した。

◇ ◇ ◇

 私は生まれる前に父親を戦争で亡くし、生まれて数年後に母親も病気でこの世を去った。物心がつく前に孤独の身となった私を引き取ってくれたのは、シャクラ山脈の北側に立地しているこの家に住まう祖父母だった。
 父親については軍の医者だったという点しか知らない。母親の記憶もほぼ無いので、私にとって祖父母はもはや実の両親同然の存在と言えるだろう。

 祖父母はどちらも穏やかで優しい人物だった。祖父のクワイおじいちゃんは猟師としてほぼ毎日仕留めた魔獣を山の麓で食肉として売りさばいていた。祖母のエリおばあちゃんは私と同じ薬師で、私が薬師を目指したいと考えるようになったきっかけのひとりでもある。

 私はそんな彼らの元で文字の読み書きと魔法薬の作り方を筆頭に様々な知識を吸収していった。
 編み物に、シャクラ山脈に住まう魔獣達の種類と彼らとのコミュニケーションの取り方、後は炊事洗濯……この地で生きていくのに欠かせないモノは一通り習ったと思う。
 その中で私が最も興味を抱いたのは魔法薬の研究だった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?

梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。 そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。 何で!? しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に? 堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」 酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。 ​「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。 ​ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。 「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」 ​これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました

小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。 幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。 ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー

処理中です...