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第1話 山ごもり薬師
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ここは夏場でもひんやりとしていて、大事な薬草が腐らないから本当に便利な土地だ。
エルドランド王国は四方を山で囲まれた小国で、私クララ・シャープリゼが住まう国境沿いの辺境・シャクラ山脈は古来より手つかずの自然にあふれた地だ。
「クララおはよう! ハーブを買いに来たわよぉ!」
聞きなれた声に対してはぁい! と間延びした返事を送りながら、読んでいた古本の表紙をそっと閉じた。
リビングから早歩きで移動し玄関の姿見を見つつ髪を束ねる。黄色と茶色の衣服に白いエプロンには汚れはなし。瞳の色と同じこげ茶色のうねった長髪は後頭部でお団子にしてまとめ、派手なほつれ毛はないかをさっと確認してから扉に手を掛けた。
扉を開けると、タタおばあさんが白樺の木でつくられた杖をついて立っている。真っ白な髪を後ろで三つ編みにしている彼女の顔は、ふくふくと穏やかそうな笑みに彩られていた。
足元にはタタおばあさんの飼い猫である黒猫のルルシーも一緒だ。
「タタおばあさん! おはようございます! あとお久しぶりです。お元気ですか?」
タタおばあさんは占い師の渡り人。各地を巡り、占いで生計を立てている。占いの技術は本人が言うには百発百中だとか。
占いにはあれこれ道具が必要らしく、そのうちのひとつであるハーブを買いに、タタおばあさんは約半年に一度のペースでここへやって来る。私にとっては唯一と言っていい客人だ。
「元気そうで何よりよ。おぬしさてはまだ朝ご飯を食べ取らんな?」
「あっ、そうです。言い当てられちゃいました……」
「すまんのぅ。よかったらこれ、美味しく食べとくれ。口に合うか分からんが……」
タタおばあさんの目線はルルシーが咥えているバスケット。彼女に近づいてバスケットを受け取ると中には深い青色をしたベリーが数種類、握りこぶしくらいのガラス瓶の中に詰められていた。
コトコト煮詰めたらソテーソースやジャムに加工できそうだし、このまま食べても美味しそう!
「ありがとうございます! わあ、綺麗……!」
「ほほ、そうじゃろう。さっき見かけたんで採ってきた新鮮なものじゃ。ささ、全部受け取ると良い」
「はい! ありがたく受け取ります! えっと、いつもの占いで使うハーブですよね……! ちょっと待っててください……!」
リビングの奥にある工房から、占術用のハーブを粉末にしたものを白い紙袋に入れる。そしてルルシーのバスケットの中に収めた。
「これでよし、と……。全部で100フォクアになります」
「ほい。これでぴったり100フォクアじゃ」
「ありがとうございます。これからタタおばあさんはどちらに?」
「ここから南の果てにある、サラマンドの港まで行こうかと思っておる。そなたはまだこの山にこもっておるのか?」
はい。とすぐに答えると、タタおばあさんはほっほっほ……! と目を細めて大きく笑った。
「「山ごもり薬師」らしいのぉ。シャクラの地はエルドランド王国の中では最も神秘が宿る地じゃ。独り占めできるクララがうらやましい」
「山で暮らすのは悪くないですよ。静かですし、鳥の鳴き声や色とりどりの花々を見ていると癒されますから」
山ごもりとはいっても年がら年中ずっといる訳ではない。薬師である以上、招集が下ればふもとの病院か娼館まで降りなきゃいけないのだ。正直移動とか面倒な部分はあるけど、症例を集めたり研究がはかどる点はしっかりあるから一長一短だろう。
「ほほ。ではもうしばらく豊かなシャクラの自然を楽しんでから行こうとするかの。ではまた。ほれ、ルルシー行くぞい」
100フォクア分の金貨をぎゅっと握りしめてタタおばあさんとルルシーの背中を見送る。ごまのように小さくなってから私は家に戻って朝食づくりに取り掛かる事にした。
かまどに火をつけ、鍋に昨日採った山野菜と保存しておいたベーコンを入れてスープを作る。ぼこぼこと泡を立てて沸騰している鍋を見つめていると、エリおばあちゃんがよく火から目を逸らしてはいけないよ。と言われていたのを思い出した。
◇ ◇ ◇
私は生まれる前に父親を戦争で亡くし、生まれて数年後に母親も病気でこの世を去った。物心がつく前に孤独の身となった私を引き取ってくれたのは、シャクラ山脈の北側に立地しているこの家に住まう祖父母だった。
父親については軍の医者だったという点しか知らない。母親の記憶もほぼ無いので、私にとって祖父母はもはや実の両親同然の存在と言えるだろう。
祖父母はどちらも穏やかで優しい人物だった。祖父のクワイおじいちゃんは猟師としてほぼ毎日仕留めた魔獣を山の麓で食肉として売りさばいていた。祖母のエリおばあちゃんは私と同じ薬師で、私が薬師を目指したいと考えるようになったきっかけのひとりでもある。
私はそんな彼らの元で文字の読み書きと魔法薬の作り方を筆頭に様々な知識を吸収していった。
編み物に、シャクラ山脈に住まう魔獣達の種類と彼らとのコミュニケーションの取り方、後は炊事洗濯……この地で生きていくのに欠かせないモノは一通り習ったと思う。
その中で私が最も興味を抱いたのは魔法薬の研究だった。
エルドランド王国は四方を山で囲まれた小国で、私クララ・シャープリゼが住まう国境沿いの辺境・シャクラ山脈は古来より手つかずの自然にあふれた地だ。
「クララおはよう! ハーブを買いに来たわよぉ!」
聞きなれた声に対してはぁい! と間延びした返事を送りながら、読んでいた古本の表紙をそっと閉じた。
リビングから早歩きで移動し玄関の姿見を見つつ髪を束ねる。黄色と茶色の衣服に白いエプロンには汚れはなし。瞳の色と同じこげ茶色のうねった長髪は後頭部でお団子にしてまとめ、派手なほつれ毛はないかをさっと確認してから扉に手を掛けた。
扉を開けると、タタおばあさんが白樺の木でつくられた杖をついて立っている。真っ白な髪を後ろで三つ編みにしている彼女の顔は、ふくふくと穏やかそうな笑みに彩られていた。
足元にはタタおばあさんの飼い猫である黒猫のルルシーも一緒だ。
「タタおばあさん! おはようございます! あとお久しぶりです。お元気ですか?」
タタおばあさんは占い師の渡り人。各地を巡り、占いで生計を立てている。占いの技術は本人が言うには百発百中だとか。
占いにはあれこれ道具が必要らしく、そのうちのひとつであるハーブを買いに、タタおばあさんは約半年に一度のペースでここへやって来る。私にとっては唯一と言っていい客人だ。
「元気そうで何よりよ。おぬしさてはまだ朝ご飯を食べ取らんな?」
「あっ、そうです。言い当てられちゃいました……」
「すまんのぅ。よかったらこれ、美味しく食べとくれ。口に合うか分からんが……」
タタおばあさんの目線はルルシーが咥えているバスケット。彼女に近づいてバスケットを受け取ると中には深い青色をしたベリーが数種類、握りこぶしくらいのガラス瓶の中に詰められていた。
コトコト煮詰めたらソテーソースやジャムに加工できそうだし、このまま食べても美味しそう!
「ありがとうございます! わあ、綺麗……!」
「ほほ、そうじゃろう。さっき見かけたんで採ってきた新鮮なものじゃ。ささ、全部受け取ると良い」
「はい! ありがたく受け取ります! えっと、いつもの占いで使うハーブですよね……! ちょっと待っててください……!」
リビングの奥にある工房から、占術用のハーブを粉末にしたものを白い紙袋に入れる。そしてルルシーのバスケットの中に収めた。
「これでよし、と……。全部で100フォクアになります」
「ほい。これでぴったり100フォクアじゃ」
「ありがとうございます。これからタタおばあさんはどちらに?」
「ここから南の果てにある、サラマンドの港まで行こうかと思っておる。そなたはまだこの山にこもっておるのか?」
はい。とすぐに答えると、タタおばあさんはほっほっほ……! と目を細めて大きく笑った。
「「山ごもり薬師」らしいのぉ。シャクラの地はエルドランド王国の中では最も神秘が宿る地じゃ。独り占めできるクララがうらやましい」
「山で暮らすのは悪くないですよ。静かですし、鳥の鳴き声や色とりどりの花々を見ていると癒されますから」
山ごもりとはいっても年がら年中ずっといる訳ではない。薬師である以上、招集が下ればふもとの病院か娼館まで降りなきゃいけないのだ。正直移動とか面倒な部分はあるけど、症例を集めたり研究がはかどる点はしっかりあるから一長一短だろう。
「ほほ。ではもうしばらく豊かなシャクラの自然を楽しんでから行こうとするかの。ではまた。ほれ、ルルシー行くぞい」
100フォクア分の金貨をぎゅっと握りしめてタタおばあさんとルルシーの背中を見送る。ごまのように小さくなってから私は家に戻って朝食づくりに取り掛かる事にした。
かまどに火をつけ、鍋に昨日採った山野菜と保存しておいたベーコンを入れてスープを作る。ぼこぼこと泡を立てて沸騰している鍋を見つめていると、エリおばあちゃんがよく火から目を逸らしてはいけないよ。と言われていたのを思い出した。
◇ ◇ ◇
私は生まれる前に父親を戦争で亡くし、生まれて数年後に母親も病気でこの世を去った。物心がつく前に孤独の身となった私を引き取ってくれたのは、シャクラ山脈の北側に立地しているこの家に住まう祖父母だった。
父親については軍の医者だったという点しか知らない。母親の記憶もほぼ無いので、私にとって祖父母はもはや実の両親同然の存在と言えるだろう。
祖父母はどちらも穏やかで優しい人物だった。祖父のクワイおじいちゃんは猟師としてほぼ毎日仕留めた魔獣を山の麓で食肉として売りさばいていた。祖母のエリおばあちゃんは私と同じ薬師で、私が薬師を目指したいと考えるようになったきっかけのひとりでもある。
私はそんな彼らの元で文字の読み書きと魔法薬の作り方を筆頭に様々な知識を吸収していった。
編み物に、シャクラ山脈に住まう魔獣達の種類と彼らとのコミュニケーションの取り方、後は炊事洗濯……この地で生きていくのに欠かせないモノは一通り習ったと思う。
その中で私が最も興味を抱いたのは魔法薬の研究だった。
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