Marry Me?

美凪ましろ

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Vol.1.疲れたあたしに降り注ぐときめき。

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「はーっ。つっかれたぁー」
 バッグを放り出してベッドにダイブする。化粧を落とす余裕なんかあってたまるか。一日中たちっぱで笑顔で接客して、あたしは、くったくたなのだ。休息をくれ。

 こんなときに限って。彼氏にメッセしても既読つかないし。お互い忙しいのは分かっているけれど。こうも、すれ違いじゃあなぁ……。

 疲れたからだを起こし、バッグのなかを探り、携帯を取り出す。待ち受けは、彼の実家の猫。可愛いからって彼が待ち受けにしてて、お揃いにしてるんだよね……白猫だからミルクって名前つけてて。単純で、あたしは笑った。

 スマホをタップしてあたしはふーっ、とため息を吐く。「声が、聞きたいなぁ……」

 最後に会ったのなんか一ヶ月も前だよ。こんなに暑くなる前で。……状況が状況なもので。お互い気を遣って。手を握るだけで……でも。近所に緑の豊かな公園があるから。あの木、あなたよりも背が高いね、って、あなたの隣で見上げるだけで幸せだった。なのに……。

 ぼーっとふたりで撮った写真眺めていると、唐突に、玄関のチャイムが鳴った。……こんな時間に誰だ?

 女の一人暮らしなので警戒必須。今日日、こんな夜分に新聞の勧誘なんか来るはずないのに。

 立地を優先したゆえ、いまは、学生が住むようなボロいアパートに住んでいる。いまどき学生の方がもっとリッチなマンション住んでるか。駅近で、七万の物件は、この界隈でそうは見つからない。というわけで、忍び足で、玄関に、向かう、のだが……。

「もしもーし。おれー」

「っ……大樹《だいき》っ!?」ノックの音に続いて、あの穏やかな声がしたので、あたしは慌ててドアを開いた。

 すると、彼は、白いマスクをしたまま、重たそうなエコバッグを顔の高さにまで掲げて笑い、

「……疲れてるだろ。飯、作ってやんよ」

 * * *

「……来るなら来るって言ってよ。びっくりするじゃん」

「はは」と紺色のエプロンをきびきびと締めて彼は笑う。「ごめんなー。でもさー。美紗の、びっくりした顔、見たかったんだよ……」
 
 お互い仕事は忙しい。休日が合わず……あたしは接客業で、彼は会社員だから。彼が土日が休みであたしが平日が休み。一緒にお休みを取れるのかなんて、一ヶ月に一回か二回の頻度で。……とはいえ、このご時世。仕事があるだけ、ありがたいと思っている。

 うちの店が入るビルのテナントが次々入れ替わっている。短縮営業、倒産……なんて話も珍しくはない。

 この状況下で、お客様がいらしてくださるだけありがたいのだ。お客様が経済を動かしている。……微力ながらも、わたしも。

 大樹は狭いキッチンでてきぱきと食材を冷蔵庫にしまい、あたしを振り返ると、

「風呂、入ってきな。飯、その間に作っておくから」

「……でも」とあたしは抗う。「大樹だって、最近、新規のプロジェクトリーダーになって大変だ、って言ってたじゃん。帰って休みなよ」

 すると彼は、じゃがいもを掴みかけた手を離すとふっ、と笑い、

「大丈夫。おれ、からだだけは頑丈に出来てるから。……今日、なんか、珍しく早く帰れるって感じがしたから、美紗んとこ行って、美紗に美味い飯食わせてやりてえって、急に思いついたの。おれの好きにさせて?」

「……大樹……」

 じーんとして動けなくなったあたしに、大樹はゆっくりと近づくと、いたずらに笑い、

「……ひとりで入れる?」

「入れるに決まってるでしょっ!」

「ははは」わしゃわしゃ、と、せっかくセットした髪をその大きな手でかき回すのほんとやめて欲しい。でも。

 大好き……。

 大樹は、長身を屈め、目の高さを合わせるとあたしの頬を挟み込み、

「おれが変な気ぃ起こす前に入っておいで。ごゆっくり」

 * * *

「ご馳走様でした」

 食事を終え、手を合わせる。おかずは、あたしの大好きな肉じゃがだった。めんつゆを使った甘めのお味。地方によってどっちの肉を使うかは違うのだが、関西が豚で、関東が牛。あたしは実は牛肉派で。奮発しちゃった、なんて言って、大樹は、国産の牛肉で肉じゃがを作った。

 ちょっと不安げに大樹は上目遣いで、「……美味かった? 気ぃ、遣ってない?」

「全然。すごい上手だよ。大樹、料理しないのになんで? 美味すぎてびっくりした」

「実は、練習したの。美紗に会えない間、こっそり」

 え? とあたしが問いかけると、大樹は手をあたしのほうへと伸ばし、頭を撫でて笑い、

「――おまえといつ結婚しても美味い飯作れるように」

 *
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