Marry Me?

美凪ましろ

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Vol.14.with you

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「美紗。あのさ……仕事前に言うことじゃないかもだけど」

「なぁに」翌朝。あたしが、彼の作ってくれたフレンチトーストを頬張っていると、

「一緒に、暮らさないか……」

 思ってもみない一言に、小さく咳をする。すると、即座にあたしの横に回り込んで、背中をさすってくれる大樹の……誠実さを信じられるくらいには、信頼している。

「ごめんね。急で。……ずっと、考えていたことなんだ……」大樹はあたしの頭をぽんぽんすると、目を細め、「本当は……あの。ちゃんとしたプロポーズしたいな、とは思ったんだけど……美紗のなかに、迷いがあるかもしれないし。一緒に暮らしてみないと、分からないことってあるだろう? 深崎泰斗がジャッジしたからって、必ずしも、彼の物の見方が正しいとは……限らない。

 篠崎泰斗の前で見せるぼくと、美紗の前でのぼく。が、必ずしも一致するとは、限らないだろう」

 どこまでも店長を意識している。……引き合わせたのは失敗だったか。

 ともあれ。あたしは、彼の弁に、耳を傾ける。

 彼は悟ったらしく。あたしの目線を受け止め、そっとあたしの肩を抱くと、

「……こんなに華奢なんだな。美紗って。折れちまいそうだ……」

 切なそうに目を細める。……なんだろうこの感覚。胸の奥が、きゅうっ、と締まる……こんな感覚、味わうのは彼が初めてだ。

「おれは、美紗を、大切にしたいし……美紗の環境も大切にしたい。大切にしているものを、尊重したいし、そのためなら、どんなことだって出来る。……したい。

 なんとなく、一緒に過ごす時間自体は短くても、分かったよ。この、花見町って場所が、美紗にとって、とにかく大切なんだってことが。

 ……とはいえ、おれは、忙しいし。在宅勤務もやってるから、……迷惑かけるかもしれない。

 美紗とは、朝晩顔合わせるだけの、すれ違いの毎日かもしれない。……でも、こんなのもう、……耐えられないんだ。

 おれは、美紗と、一緒に、いたい……。

 生活を、共に、したい……」

 感極まり、なんだか泣きそうになっているあなたの頬をそっと包み込んだ。「あたしも、……同じ」

 電球が灯ったかのように、ぱっ、と大樹の目が輝く。「……本当?」

「ほんとにほんとにほんとにら、い、お、んだーっ。よっ。……大樹。なんならいますぐうち来ていいよ?」

「や……」視線を泳がせる大樹。何故だろう。自分から提案したのに。「問題がいくつか……。ここ、ワンルームだから。おれ、電話会議とかするから、結構うるさいよ。……美紗が、安らげないかもしれない。パソコンも持ち込まなきゃだし」

「パソコンなら窓際に置いてもらって……。うん。ぎりぎりかもだけど……。大樹って、物、多いほう?」

「そんなでは」

「じゃあ。今日からもう、……おいでよ」

「……そんな」大樹はちょっと、困ったように、笑った。「おれ、……離れてるから我慢出来た部分はあるのに。

 正直、この部屋に暮らして、美紗を目にしたら、……がっつかない自信が持てない」

 ふふんとあたしは笑った。「これでも、……体力には自信がありますのよ。ほほほ」

 白鳥麗子を見習って高笑いなんかをしてみたら、手首を捕まれ――やさしく押し倒されていた。

「もう無理」顔を赤くした大樹が、「暴力的なまでに、……きみが、好きだよ。美紗……」

 予想通り、ほんわかした朝食はそっとのけで、あたしは出勤時間ぎりぎりまで、大樹に、求められる結果となった。

 * * *

「……美紗さん。なんか、半端なく幸せオーラ漂っているんですけど。なにか……ありました?」

「あっうん。今日から同棲開始」

「ど、うせ……イィイ!」

「しっ。声が大きい」人差し指を立てて唇に当て、周囲を見回す。……あらまあ。深崎店長と、和泉くんと視線がかち合った。

 もろばれだ。

 ネタバレだ。

 本誌派と、コミックス派が、毎回のように、ネタバレを食らって激おこぷんすかしているが、……まあ、どっちの論理も、分からなくはない。本誌派は、本誌派同士で盛り上がりたいし、コミックス派は、ネタバレなんか食らいたくないわけで……。禪院直哉ぁの一句ぅウウゥ……。

「詳しくはまた今度話すね」と、あたしは須賀ちゃんのうるうるした目に、笑顔で応じる。「まあ、あの……将来を一緒に過ごしたい、って意志が互いにあるのは事実……」

「はぁーっ」感涙して息を吐く須賀ちゃんは、すっかり、あたしたちカップルの虜らしい。「……け。結婚式には呼んでください、ね……ッ」

 ふふ、とあたしは笑った。「……先の話になるかもだけど。考えておくね」

 * * *

 帰宅すると、大樹がちょうど、あたしのアパートで、パソコンのセッティングをしている最中だった。どうやら、ミニテーブルを買ってきたらしい。窓際に小さなテーブルにででんと、ノーパソが鎮座している。その横に、小さな赤い花のついたサボテンが置かれているのが、なんだか彼らしかった。

「おかえりー」と、タイピングの手を止める大樹。「あ。ごめん。ご飯は作った。風呂、湧いてるから、入っておいで。おれのほうは、もうちょっとでこれ、終わりそう」

 台所のほうを見れば、なにやらいい匂いが。「……ビーフシチュー……?」

 振り返った大樹は笑った。「教えなーい」

「じゃーお風呂行く途中で見ちゃうもんねー」

「こら」怒ってもない調子で、大樹が笑い、腰を浮かせる。「ほんじゃあ。おれのお姫様を、お風呂に連行しなきゃ、だな……」

 言って大樹はこっちに迫り、ひょい、と、軽々あたしを抱き上げる。……って。

「よく、……平気だよね」

「ん?」と大樹の喉仏が動く。あたしは、彼の、削げた頬にそっと触れながら、

「……初めて出会ったときも、こうしてくれたよね……。あれ、嬉しくって。

 それで。職場にいる須賀ちゃん……あ、ピンクの髪したロリ寄りの女の子ね……須賀ちゃんと姫抱きごっこしてみたんだけど。

『腕がぁ。腕がぁー』……ってなって。

 勿論」くすくすとわたしは笑う。「須賀ちゃんのほうが、小さいんだから。あたしを姫抱きにするなんて無茶な話なのにね。

 それでも、須賀ちゃんは、痩せてて、体重が軽いほうなのに……。
 
 ちょっと姫抱きにしただけで、腕の前側がね。もう、ずしーん、と来て。

 改めて、篠田大樹のすごさが、分かったってわけで……」

 そこで、バスルームの前にたどり着いた。ぽん、と大樹はあたしの頭にを置くと、「……疲れてる?」

「疲れてはいるけど」あたしは、素直に、認めた。「……大樹と。いちゃいちゃするくらいの余裕は、……あるよ」

「そっか。じゃ、……洗ったげる。全部」

 そういうと大樹は、あたしの服に手をかけた。

 *
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