Marry Me?

美凪ましろ

文字の大きさ
20 / 34

Vol.20.病的なまでに

しおりを挟む
 ――時々、大樹との会話を振り返って噴き出してしまうことがある。例えば、こんなとき。

 お昼休みに、サンドイッチを片手に、携帯でメッセなんかチェックしていると――

『おれの美紗。こんにチワワン』
『おつかれサマンサ♪』
『今回のコーデも超絶美味だナンタコス』
『うめえ。美紗の美味さが画面からひしひしと伝わルンバ』
『おまえはおれをどんだけ悩殺すれば気が済むんだーいし』
『暴力的なまでに綺麗なんだけドーナツ』
『ここまで来ると美の暴力だ戦慄く』
『じゃ。美の下僕は仕事に戻るワッショイ』
『今夜のおかずを当てたら舐めてやルルルン♪』
『ところでおまえが〇パン履いてるの気づかないとでも思うな用事』
『桜色の、ふりっふりの、おリボンついたあれな』

『えっろ』

『おれに、ほどかせろよ』

『絶対な』

 ……仕事中は、必要なとき以外は一切携帯を見ないので。休憩時間などにこれらのメッセを一気に読むことになり、正直、サンドイッチを吹きそうになる。そのタイミングで、和泉くんが入ってきた。在庫整理だ。棚から服を取り出しながら、和泉くんは、

「……美紗さん。相変わらず、彼氏さんと、ラッブラブなんすねえ」

 なんとなくアプリを閉じてあたしは答える。「……なんで分かるの」

「美紗さん」得意げに和泉くんが言う。「彼氏さんのこと考えてるとき、鼻の穴、膨らむんすよ。……自覚しといたほうがいいっすよ」

 あー。なー〇……。下ネタ厳禁。全年齢。

 なるほどなるほど。ふふん、と鼻を鳴らしてあたしは応じる。「ご心配なく。マスクを外すのは、食事以外なら、彼と一緒のときだけだから。鼻の穴なんか膨らみ放題にございますの」

 なんなら他の穴も、と付け足そうと思ったが自粛自粛。セクハラだ。

「まー……。上手くいっているようで何よりす。……ご両親に会ったりとか、されてるんすか? 秒読み段階だったりして」

「あーうん」あたしは、トマトジュースのパックをストローでちゅーちゅーすすり、「この状況下なので。うちの親はZOOM面談かな。……んで、彼のご両親は、近距離なもので。……PCR検査受けたうえで、いずれご挨拶に伺おうかと……」

 にやり、と、マスク越しでも分かるくらいに、和泉くんは振り返ると、大きく笑った。「――緊張、してます?」

「掃除機」YES、とあたしは首肯した。「ダイ〇ンの掃除機って重ためだね。ドライヤーはクオリティが高くて好きなんだけど。……彼氏の親に会うなんて初めてだし、どんな格好したらいいのやら……はてさて……」

 ふはっ、と和泉くんが破顔した。「……天下のカリスマ店員、ミサミサ69♪ さまがなにを仰いますか。……こちらの新作など、いかがです?」

「……あ」

 和泉くんが手に取るのは、夏の新作。紫色で、袖が膨らみ、ウエストは高い部分でシェイプ。斜めにフリルの入った、ドレッシーなサマードレスだ。……おおお。これ、関東限定カラーで、一目惚れだったんだよね。勿論買いました。買いましたとも。

「……派手過ぎない?」と上目遣いであたしが聞いてみれば、「この服着て好感度抱かないわけないじゃないですか。自信持ってくださいよ」と和泉くんは言う。

「ほんじゃー、ごゆっくり美紗さん。おれ、戻ります。……なんかまた相談事でもあったら、容赦なく言ってくださいね」

 あたしは苦笑いを漏らした。「……なんで大樹の口癖が職場に浸透しているんですか」

「……それだけ美紗さんが、うちの店で愛されているっつうことですよ。……お先です」

「うん。……お疲れ」

 手を振り、支度にかかる和泉くんを見送る。……彼も、シュッとしてて、スタイルがいいんだよね。やー。CD買ったことないって言ってたからおねえさんびっくらぽんだったわ。ぎりぎりあたしの世代で、レンタルか、どうにかお小遣いの範囲内で買ってたもん。もんね。みのもんた。お嬢さん。……どんな年齢の女性が相手でも、必ず相手を『お嬢さん』呼ばわりする彼の真性は、かつて、『BOSS』シーズン2ご出演時に、我らが女神天海祐希さまを『お嬢さん』扱いした古谷一行さまの紳士っぷりに通じるものがある。個人的にあれは神回だったわ。……志田未来がクレバーなJKでぶっ壊れてく回もたまんなかったけど。毎回脚本の林宏司さまが戸田恵梨香さまをいじり倒す……シーズン2でもその性癖は健在で。なにかの掛け持ちでフルで出られなかった戸田恵梨香さまをしっかりイジり倒すのは流石だったわ。さっすが林さん。絶対ドSだわ林さん。大みそかに月亭方正をいじり倒す蝶野さまに通じる鬼畜っぷりだわ。ガッ……デム!!

 さて。

 ひとり、部屋の片隅で、再び、彼のメッセを読み返す。……うっふふ。うふふ。うふふ……。きゅふふ……っ。
 
 ってこんなエモポエミーメッセ喜ぶあたり、あたしも変態? 変態だよ。変態でごわんす。変態上等ッ! 奇跡の四段活用☆彡

「――ふぅ」

 あーむらむらする。大樹としたい。……などと考えている場合ではなく。

 げふん、と咳払いをする。……性欲と食欲が比例すると例えたのは誰だったか。フロイトあたりか。……確かに。食欲のある人間は性欲も強――

 と、考えたところでまたも、咳ばらいをする。……どうにも、大樹と出会ったせいで、完全にエロ成分が開発されまくって、どうにも、いちいちそっち方向で考えてしまう性癖がある。なんなら、サンドイッチを貪る自分の唇がいやらしくさえ思える。……ってまじ、これ、重症だわさ。

 ともあれ。――性も欲も超えたところで、深く――繋がりあえている。

 そんな、自信を持てる相手は、勿論、大樹が初めてだった。……彼に会うたび、あたしは、恋をしている。

 こうして、狭い七畳ばかりの部屋で、愛を、あたためあい……。いずれ、こんな日々が、懐かしく思える日も来るだろう。

 気前のいい、大樹のお父さんは、『人生は、思い出作り』だと言う。名言だ。……大樹は、いつも、いつ、なにが起こっても後悔がないように。極端な話、明日死んでも後悔のないように、……行動しているそうだ。

 それで。あの、唐突なお姫様抱っこ……に繋がったそうな。

 しかし。あたしは、覚えている。出会ったあのとき。彼は、あたしの靴を取り返し、あたしにパンプスを履かせると、くるりと背を向けたではないか。……あれは、別れのサイン? あたしが、もし、声をかけなかったら、どうなっていたか。

 つん、と画面のなかの大樹に指先で触れ、ひとり、つぶやく。

「……考えるだけ、無意味かな」

 それとも、大樹のことだから。わざと、押しを強くしといて引いたのかな。彼、策略家だから。

 なーんてことを思いながら、彼のメッセを何度も何度も読み返し、むふふとほくそ笑むほどにはあたしは――

 病的なまでに、彼に、恋をしている。

 *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり
恋愛
【まじめ侍女と、小悪魔系王子、無自覚系ツンデレ王子、寡黙ぼんやり系王子、三人の甘党王子様たちによるラブコメ】 王宮侍女ロアナは、あるとき思いがけない断罪にみまわれた。 彼女がつくった菓子が原因で、美貌の第五王子が害されたという。 しかしロアナには、顔も知らない王子様に、自分の菓子が渡った理由がわからない。 けれども敬愛する主には迷惑がかけられず… 処罰を受けいれるしかないと覚悟したとき。そんな彼女を救ったのは、面識がないはずの美貌の王子様で…? 王宮が舞台の身分差恋物語。 勘違いと嫉妬をふりまく、のんきなラブコメ(にしていきたい)です。 残念不憫な王子様発生中。 ※他サイトさんにも投稿予定

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

処理中です...