Marry Me?

美凪ましろ

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Vol.27.何気ない日常のなかに

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「はー。つっかれたぁー」

 はー、と、開く前にため息を吐いてから鍵でドアを開く。……疲れた顔なんか見せらんないもん。ミサミサ69♪ ……篠田大樹の彼女としての意地を見せよ。

「おかえり」にこやかに答える大樹は……大き目の紺のエプロン姿で台所に立っている。仕事着に重ねてるのが萌え。萌えるぅ……。萌えきゅん。山口もえきゅん。

 手洗い諸々を済ませてから、あたしは、後ろから大樹に抱きつく。「……先にお風呂入ってていいって言ってるのに……」

「おれがそうしたいだけだから」と、彼のお腹の前で組み合わせたあたしの手に、自分の手を重ねる大樹。「飯の準備とか。買い出しって、案外、時間かかるもんなんだな。……おれ、美紗と付き合うようになって初めて、自分の母親とか……世の中の女性が、どれだけ大変なのか。ちょっぴりだけれど、分かった気がする……」

「大樹のお母さん、お料理上手だもんね」

「うん」言ってあたしのおでこに頬をすりすりする大樹は、「風呂あがったころに飯出来るようにしとくから。……ゆっくり入っておいで?」

「ありがとう。じゃあ、お言葉にあまえて……」

「……キス」

 ほっぺをあたしに押し付けていた大樹が、顔を離すと笑い、「……好き。キス、して……」

 不敵な感じであたしは笑った。「任せとけ」

 そうして、背伸びをし、彼に、ありったけの愛を与えてしまうと、もう――

 足が、宙を浮いた。初めて出会ったときと同じく、姫抱きにされている――と認識していたときには、既に、ベッドに連行されており、伸し掛かる大樹に、深い――口づけを与えられていた。

「ったく。美紗は。んとに、もう……」あたしの前髪を撫で上げる大樹は、体重を預けるようにし、ぴったりとあたしを抱き寄せる。「なんで……こんなにどきどきするんだろう……参ったな……」

「……名案があるんだけど」

 ちょん、と大樹の鼻を、指の腹でつついた。ん? と応じる大樹に、

「……一緒にお風呂入って。えっちなこと、しちゃおっか……大樹、大変なことになってるじゃない」

「言うなよそれ」彼は、照れたように笑うんだ。「……女の子って割と、男と風呂入るのやーがる子、多いじゃない。……美紗のほうから、誘ってくれるとは、思ってもみなかったよ……」

「だってあたし」ずい、と彼に顔を近づけ、「大樹のこと、……はむはむしたくなっちゃった。どうにかしてよ」

 あたしの髪を撫でて、小さく大樹は笑った。「お任せください。お姫様」

 * * *

「ぱ。パエリヤなんて食べるの、あたし、人生初かも……」

「そか」ミトンを嵌めた手で、鍋を鍋敷きの上に置く大樹。「でも。意外と手順は簡単だったぞ。ちょうど一時間で出来るからさぁ」

 ごくん、とあたしは喉を鳴らした。「……美味しそう……」

「美紗はさぁ」くしゃっ、といつものように、目尻にしわを寄せて笑うあなたは、小皿を取り、あたしのぶんから取り分ける。ジェントルマン。「物欲しそうにするときの顔が……あのときと同じで。えっろいんだよなあ……」

 あたしは呆れた風を装い、「――あんなに貪られたのに。まだ、足りないの?」

 すると大樹は頭を掻き、「おっかしいなぁ。おれ、……んなにがっつくタイプじゃなかったのに……」

「嘘をつけこの性欲大魔神。いったいあなたったら何度も何度も――」

「どぞ。ぼちぼちこの話題から撤退しましょうぞ――」こほん、と咳払いをする大樹。「さぁて。あたたかいうちに、食べようか。……一口だけ、ワイン、飲もうか」

「あっうん。……お願いしていい?」

「勿論」きびきびと動く彼。明らかに、体幹が鍛えられている。「こないだ買った、おそろのグラスをデビュー……させようか」

「うん」

 そうして彼がキッチンに行くのを見送った――はずが。

「わ」

「……風呂上がりの美紗は……煽情的だ」後ろから抱き着く大樹。熱い――呼吸。「うなじなんか、べろべろしちまいたいくらいに……白くって……頭がおかしくなっちまいそうだ……」

「――っ、の、……大樹……」

「敏感だよな」背後から触れて彼は言う。「敏感で……感覚が鋭敏な、美紗のことが、おれは、……大好きだよ」

 短く、きつく、吸血鬼のように、あたしの首筋を吸い上げた彼は――言うだけ言って、台所へと消えた。……まったく。ご飯を前に、大変なことになってしまったではないか。後で、きっちり責任を取って貰わなくては。

 少しの間があり、ことり、と、ローテーブルにグラスが置かれた。と、思いきや。

「……どしたの」

 目の前には、花束が。名前の分からない花だが、黄色や、白の薔薇など、とてもあざやかだ。ミニ花束、といったところか。

 座るあたしに合わせて、低い位置で花束を見せたあなたは、あたしが振り返ると、「なんか美紗っぽいなと思ったから。急に、買いたくなった」

「なにそれ」くすくすと笑うものの、あたしのこころは、あったかいものに満たされていた。「記念日でもないのに」

 すると大樹は、花束をあたしに持たせると、あたしを、ひょいっ、と抱き上げ、頬に――口づける。

 頬を赤らめているに違いない、あたしを見つめ返すと、彼は、

「……おれにとっては毎日が記念日だよ。

 大好きだよ。……美紗。

 愛している……」

 * * *

 はあ、と息を吐き、ベッドのなかで、大樹のからだを抱き寄せる。汗ばんだ肌の感触が、心地よい。……大樹とこういう関係になるまで。裸で眠ることなんて、なかったのに……。

 欲も愛も深く、毎日がしたいことにあふれている。そもそも仕事は、『しなければならないもの』であるから。

 ゆえに、あたしは、瞼を下ろし――コットンでお化粧をふき取る大樹に、されるがままになっている。それから、

「だからそこ――触っちゃ……あっ……」

「いい感じ」大樹の口許が笑っている。――ああ。また、このひとは、あたしを、愛しこむおつもりだ。眠る寸前まで求められることを欲すこのからだは、思った以上にマゾヒストなのかもしれない。あたしの真性。

 きっかり、日付が変わる前には、ベッドに入るところなんか憎らしいくらいで。憎らしいほどに、このからだはみずみずしく――愛を、乞うている。

 あたしのなかに――大樹が入ってきて、そして、泳いだ。彼の愛が、あたしのなかで、荒れ狂う。その――息遣いも。眩暈を起こしそうな威力に口づけも。あなたの、あたしに対する肌の触れ方も。手つきも。全部全部――愛している……。

 互いに荒れ狂うほどの愛を吐き出したのちに、どちらからともなく、目を閉じ、そして――静寂の世界へと身を投じる。曖昧な生と死の境界のなかで、あなたの存在だけが、ただ――光り輝いていた。

 *
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