花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

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eat your answer(2)

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 紙の書類さえ出してしまえばどうとでもなる。後は、怪我なんかさえしなければ。

 わたくしたちの運命を蹂躙した大人たちを許さなかった。これは、ほんのすこしの反抗なのです。

 初めて対面した恋生は、年の割に小さくて、わたくしよりも身長が低かった。女の子のほうが成長が早いというのは本当だ。

「初めまして。恋乃……」

 骨ばった手を握る感触。華奢に見えても明らかに、ごつごつとした、骨の太い手は男のそれで、見た目はほとんど変わらないわたくしたちなのに、ありありと違いを感じさせたのです。

 駅で待ち合わせて、別々にトイレに入り、服を交換した。

 ちょっとした冒険だった。

 いままでのわたくしの人生というものは、それはそれは、大人に従い、ただ流されるだけで自分の意志などなかった。これは、わたくしにとって初めての挑戦だったのです。

 五尻禅雨になりきると面白いものでした。わたくしはそれまで、男子トイレに入った経験などないものですから、個室に入るんだよと恋生に教えて貰ったのです。男は個室に入るとばれるから気まずいんだと。そんなことを知るはずのなかったわたくしは声を立てて笑いましたの。初めてちゃんと目にした恋生が言うのは、なんと、お手洗いのこと。しかも下のことでしたから……。

 考えました。ずっと恋生と一緒にいられたらどんなに幸せだったろう。わたくしは恋生で、恋生はわたくし。ほんのすこし、ボタンを掛け違えただけで、このように運命は残酷に酷薄に変わりうるのです。

 お友達の住むペンションに遊びに行く、と裏で恋生と示し合わせておりました。車で駅まで送って貰えれば、後はどうとでもなる。

 大人の知らないところで歯向かったわたくしたちは、顔を見合わせて笑いましたの。ころころと、鈴が鳴るように。

 まだ恋生は変声期を迎えておらず、ちょうどよかったのです。恋生は、存国理生となり、ボーイッシュな女の子になりきった。わたくしは緑の帽子。そうでもしないと、わたくしたちはあまりに似ており、大人からすると困ったことになります。下手に、わたくしたちの関係が露見してもよろしくはない。ですので、わたくしは眼鏡をかけましたの。女の子であれば、髪型を変えれば多少は雰囲気は変わりますけども、男の子がまさかスカートを履くわけにはいきますまい。わたくしたちの試みを成功させるために、恋生は生まれて初めてスカートを履き、まつげをビューラーであげて、それはそれは。美しい女の子へと変身しましたの。わたくしよりもずっとずっと、恋生は女であることが似合いで、いっそこのまま、入れ替わってしまえたらと考えてしまったくらいですの。

 それでもそう……それは恋生の人生を狂わせてしまうことになりますから。わたくしの望む道ではございませんでした。恋生は、恋生らしく、与えられた人生をまっとうして欲しい……それが、血を分けて離れ離れになった、わたくしのたったひとつの願い。恋生さえ幸せに生きて暮らせるのならば、わたくしの人生などどうだっていい。そう思えるほどに、わたくしたちは分かり合っていたのです。

 ――あなたが現れるまでは。

 *

「あなたは五尻禅雨として、恋生は、存国理生として振る舞った。あなたは、自分たちの関係が大人に分からぬように、眼鏡をかけた。わたしが恋をしたのは、眼鏡をかけていなかった、女の子のふりをしていた恋生のほうだった」

 目に鮮やかな、青の帽子。それは、恋生のイメージと重なる。

 目の前でソファに座る、池水恋乃は、黙って私の話に耳を傾ける。優雅にカップの紅茶なんか飲んだりして。

「それで。どこまで思い出せましたの?」

「まだ……肝心なところまでは」とため息を吐いた。「私はその後ちょっとしたアクシデントに見舞われまして、あの頃の記憶がほとんどありません。……ですが、手掛かりをもとに、ある結論へと辿り着きました」

「それは、――なに? 是非、お聞かせ願いたいわ」

 小さく息を吐き、微笑み返す恋乃は、

「あなたと恋生が、血を分けた双子の兄妹であるのにも関わらず、あなたは生まれて間もなくして京都の池水家へと引き取られた。……その運命を、あなたは、憎んでいた」

 悠然と微笑んでいる池水恋生の、愛するひとに瓜二つの顔が、なにかの感情にさざなみを立てたように見えた。

 *

 何故。どうして。

 それが……わたくしが真実を知ったときの嘘偽りない感情にございました。

 双子の片割れ。からだの一部たる実の双子の兄が、無事、神宮寺家にてすくすくと育っているのに対し、わたくしは……。

 母の実家である池水の宅には当時孫がおらず。不憫に思った母がわたくしを実家へと預けた。

 ほんの数日のつもりだったはずが、一ヶ月一年と時は伸び、いつしか、池水の宅にいるのが、わたくしにとっての日常となった。双子の兄が安全に平和に神宮寺の宅で暮らしているのにも関わらず。

 許せなかった。

 後から生まれてさえいなければ。わたくしが男であれば、きっと、もっと違った運命が待っていたはず。

 母の妹夫婦がたまたま子に恵まれず祖父の意向もありわたくしを引き取った。それから叔母は子を三人も授かるが、わたくしは、どこか、池水にいても、自分が自分らしくいられない、居心地の悪さを感じておりましたの。やはり、……三人の妹がみな、叔母によく似ていて、自分だけ、浮いているような感じがございましたの。

 自分が母の実の子ではないというのは、いつからか、敏感に感じ取っておりました。妹たちはたっぷりと母の愛を受けて育ちました。わたくしも両親や家族から愛を授かった。けど、どこか……ここが本当の自分の居場所ではないような、違和感が常に、喉の奥に引っかかった小骨のように存在しておりました。

 恋乃ちゃんのお父さんとお母さんは本当のお父さんお母さんじゃないのよね。

 幼稚園でお友達に言われた言葉が忘れられません。そのとき、はっとして、わたくしは、……自分が何者であるのかが、妙に、気になり始めました。

 父と母と妹たちは仲良く水のように馴染んでおりますのに、わたくしだけなにか、異国の血の混ざった人間でもおるかのような、違和感がつきまとっておりましたから。

 三歳の誕生日を迎えたときに、初めて、手紙を受け取りました。

『はじめまして。ぼくは きみにはあったことがないけれど きみにとってぼくは とくべつなひとだとおもう』

 三歳にしてはいやに達筆な文字でした。上質な紙に万年筆を走らせる、三歳の恋生を想像しようとしてもちっともうまくいきません。恋生といったら肝心なことはなにひとつ打ち明けず、本当のことを伏せて、わたくしに手紙を送り付けてきましたの。

 そこから、わたくしたちの秘密の交流が始まりました。運命に抗い、戦うための、反撃の狼煙をあげましたの。

 *
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