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「恋乃《れの》さま。来客ですが、いかがなさいますか」
画面から目をあげずにわたくしは答える。「お断りして」
「いえあの……」珍しく秘書のアケミが当惑する声を出す。「どうしても、と強く仰っていまして……」
ワイヤレスイヤホンを外す。
「神宮寺恋生の婚約者、と言えば、恋乃さまには分かる、とのことでして……」
「そう? ならお通しして」
会うのは十五年ぶりか。相変わらず、つんとした空気を放つ。生意気で、いけすかない。
「お忙しいところお時間を頂き、恐れ入ります。……こちら、よろしければ」
「あら。そんなものはよかったのに……」紅茶の缶か。悪くはないチョイスだ。「アケミ、お預かりして」
「かしこまりました」
社長室にふたりきりとなる。革張りのソファーに目をやる川瀬花子は、就活生の着るような黒スーツを着ているようだった。ふん。それで挑むつもりか。
まぁいい答えをよこせ。わたくしを納得しうるものでなければ許さない。
天下の神宮寺財閥の御曹司を捕まえたからには、それなりの見返りをよこせ。
でなければ貴様をいますぐ、このビルの谷の下に叩き落してやる。
挑むような川瀬花子の立ち姿から情熱的なオーラが漂う。
あの頃とは違う、リップの塗られた質感のある唇が動く。「……それにしても、あのときとはまるで別人ですね。禅雨」
*
「なぜ、その名を……」
いかにも経営者らしい妖艶な笑みを浮かべる神宮寺恋乃。いや、池水恋乃。
「立ち話もなんですので。失礼しますね」と先に座る私。近づき、私の正面に座る、いかにも高級なオーダーメイドのスーツを着こなす恋乃。体にフィットして着心地がよさそうだ。スーツで自身を武装しているように見える。「あなたは、……私と出会う前から恋生と連絡を取り合っており、大人の知らないところで、ちょっとしたいたずらをしかけた」
肩にかけていたショルダーバッグから手帳とペンを取り出す。私たちの間のテーブルにこう書きこむ。
ZINGUJI REO。
「これを並び替えると……」
GOJIRI ZENU。五尻禅雨。
「一方、神宮寺恋乃を並び替えると……」
ZINGUJI RENO。
ZONGUNI RIJE。存国理生。
「いかにもいたずらな子どもらしい仕掛けですね。……私、理由を考えてみたんです。なぜ、あなたが、神宮寺の名にこだわるのか。もし、私が、あなただとしたら……恋生と小さな頃から秘密を分かち合っており、知っていたとしたら、どうするだろう、と」
黙って答えを待つその瞳を見据える。この瞳に見覚えがある。
「簡単です」す、と人差し指を立てると注意を引きつけ、
「理不尽な運命に抗うために、私だったら、緑の帽子を被った恋生……禅雨になりきる」
*
画面から目をあげずにわたくしは答える。「お断りして」
「いえあの……」珍しく秘書のアケミが当惑する声を出す。「どうしても、と強く仰っていまして……」
ワイヤレスイヤホンを外す。
「神宮寺恋生の婚約者、と言えば、恋乃さまには分かる、とのことでして……」
「そう? ならお通しして」
会うのは十五年ぶりか。相変わらず、つんとした空気を放つ。生意気で、いけすかない。
「お忙しいところお時間を頂き、恐れ入ります。……こちら、よろしければ」
「あら。そんなものはよかったのに……」紅茶の缶か。悪くはないチョイスだ。「アケミ、お預かりして」
「かしこまりました」
社長室にふたりきりとなる。革張りのソファーに目をやる川瀬花子は、就活生の着るような黒スーツを着ているようだった。ふん。それで挑むつもりか。
まぁいい答えをよこせ。わたくしを納得しうるものでなければ許さない。
天下の神宮寺財閥の御曹司を捕まえたからには、それなりの見返りをよこせ。
でなければ貴様をいますぐ、このビルの谷の下に叩き落してやる。
挑むような川瀬花子の立ち姿から情熱的なオーラが漂う。
あの頃とは違う、リップの塗られた質感のある唇が動く。「……それにしても、あのときとはまるで別人ですね。禅雨」
*
「なぜ、その名を……」
いかにも経営者らしい妖艶な笑みを浮かべる神宮寺恋乃。いや、池水恋乃。
「立ち話もなんですので。失礼しますね」と先に座る私。近づき、私の正面に座る、いかにも高級なオーダーメイドのスーツを着こなす恋乃。体にフィットして着心地がよさそうだ。スーツで自身を武装しているように見える。「あなたは、……私と出会う前から恋生と連絡を取り合っており、大人の知らないところで、ちょっとしたいたずらをしかけた」
肩にかけていたショルダーバッグから手帳とペンを取り出す。私たちの間のテーブルにこう書きこむ。
ZINGUJI REO。
「これを並び替えると……」
GOJIRI ZENU。五尻禅雨。
「一方、神宮寺恋乃を並び替えると……」
ZINGUJI RENO。
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「いかにもいたずらな子どもらしい仕掛けですね。……私、理由を考えてみたんです。なぜ、あなたが、神宮寺の名にこだわるのか。もし、私が、あなただとしたら……恋生と小さな頃から秘密を分かち合っており、知っていたとしたら、どうするだろう、と」
黙って答えを待つその瞳を見据える。この瞳に見覚えがある。
「簡単です」す、と人差し指を立てると注意を引きつけ、
「理不尽な運命に抗うために、私だったら、緑の帽子を被った恋生……禅雨になりきる」
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