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studying abroad and being myself(1)
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朝、目が覚めると、ああ自分は日本にいないんだなと実感する。
いくらマンドリルクラブの会員が裕福だからといって、僕の実家である邸宅には及ばない。
起こしてくれるひとが必ずいるし、ふかふかのベッド。この十倍以上ある広い部屋で寝ていた。
恵まれているんだなとこんなときに感じる。七時。アメリカのビジネスパーソンは朝が早く、dadは既に家を出ている時間だ。下手をするとホストマザーでさえも。
一階に降りるとやっぱりひとの気配がなく。実家と違って朝食は用意されない。黙ってキッチン近くの戸棚を開き、シリアルの巨大な箱を取り出し、それから、食器棚からシリアルボウルを取り出し、一旦キッチンカウンターに置き、無造作にシリアルの中身をシリアルボウルに注いでから、refrigerator(冷蔵庫)から容器に入った牛乳を取り出し、牛乳を注ぐ。引き出しからスプーンを取り出しその場でばくばく食べる。
神宮寺の宅にいた頃は許されなかったこんな行動もいまは自由だ。朝からシリアルの立ち食いなんて。母が見たら卒倒してしまうだろう。
二分程度でシリアルを食べ終えて続いて僕がすること。うすーくカットされたパンの袋があるので、そこから四枚取り出し、おもむろに取ったまな板の上に置き、冷蔵庫からジャムと、ターキーとスライスチーズ、戸棚からピーナッツバターを用意する。こっちのピーナツバターは日本のと違って味が全然しなくて、単なるピーナツバター。あまみがちっとも感じられないから、ピーナツバターのサンドイッチを作るときは、パンにピーナツバターを塗ってからベリー系のジャムを塗るのが通例だ。Peanut butter and jellyと呼ぶ。甘いほうを用意してから、もうひとつのペアにターキーとスライスチーズを挟んで重ねて半分にカットする。キッチンの手前に引く引き出しからラップを取り出し包む。それらを、そこら辺にある茶色い袋に突っ込み、最後に、冷蔵庫からスモールアップルを取り出して入れて袋の口を丸めてぐちゃぐちゃにする、ここまでがルーティンである。
アメリカではBentoなんて概念は一切存在せず、中学くらいになると朝は自分でシリアルを用意して食べて、昼は、カフェテリアで二ドルで売られているピザを食べるか、節約のために大半の学生が自作サンドイッチとりんごを持ってきて食べるかのいずれかだ。日本みたいに、高校と提携しているパン屋さんがあって購買部担当がまとめて注文してお昼には焼き立ての美味しいパンが食べられる、……なんてことも一切ない。このシステムに、留学して一ヶ月経ったいまでも毎日驚きを覚えるし、日本の育児の負荷がいかに、お母さん方に偏っているのかをまざまざと知らされる。うちは使用人が全部やってくれてはいるが、それでも、母は乳母を雇わず、まぁ、シッターさん程度は。五人の子ども全員に授乳していたし、酒も我慢してかなり大変な産後を送っていたはずだ。
改めて分かる。母の偉大さを。
牛乳も、日本で売っている紙パックタイプのではなく、脱脂粉乳? のような味の極端にうっすーい、水みたいな牛乳が透明の袋入りで売られていて、こっちでは、それを入れる専用の容器があって、それにぶっこむ。牛乳がなくなればまた袋の口を開いてぶっこむ。このルーティンにも慣れた。牛乳の味があまりにも違うので、本気で水なのではないかといまも疑っている。
ランチのセットを持って部屋に戻り、分厚い教科書がひとまず全部リュックサックに入っていることを確認し、急いで身支度を整え(顔なんてぱぱっと洗う程度だ)、飼い犬のアンディを軽く撫でてから急ぎホストファミリー宅を出て鍵をかける。
通学は、決まった場所からスクールバスが出ているから、絶対に遅れるわけにはいかないのだ。
ボストンは、地下鉄はあるが、通学手段は基本車かスクールバスのみ。自分で中古車を運転して通学する強者もいる。アメリカでは十六歳で免許が取れるので、親の車か、中古で買った手ごろな車でみんな運転する。水を飲むように簡単に運転するものだから驚いた。
ただ、基本留学生はスクールバスを利用する。ホストファミリーは多忙なひとが多く、ホストマザーもファザーもそれぞれ車を持っており、それぞれ別の場所に行って働くものだから、余っている車などないし、留学生に運転は禁止されている。リスクが高いからだ。
スクールバスはドラマでよく見る黄色いアレだ。アレに乗ると自分がアメドラの主人公になれた気分になれる――現実は大きく違えども。
いくらマンドリルクラブの会員が裕福だからといって、僕の実家である邸宅には及ばない。
起こしてくれるひとが必ずいるし、ふかふかのベッド。この十倍以上ある広い部屋で寝ていた。
恵まれているんだなとこんなときに感じる。七時。アメリカのビジネスパーソンは朝が早く、dadは既に家を出ている時間だ。下手をするとホストマザーでさえも。
一階に降りるとやっぱりひとの気配がなく。実家と違って朝食は用意されない。黙ってキッチン近くの戸棚を開き、シリアルの巨大な箱を取り出し、それから、食器棚からシリアルボウルを取り出し、一旦キッチンカウンターに置き、無造作にシリアルの中身をシリアルボウルに注いでから、refrigerator(冷蔵庫)から容器に入った牛乳を取り出し、牛乳を注ぐ。引き出しからスプーンを取り出しその場でばくばく食べる。
神宮寺の宅にいた頃は許されなかったこんな行動もいまは自由だ。朝からシリアルの立ち食いなんて。母が見たら卒倒してしまうだろう。
二分程度でシリアルを食べ終えて続いて僕がすること。うすーくカットされたパンの袋があるので、そこから四枚取り出し、おもむろに取ったまな板の上に置き、冷蔵庫からジャムと、ターキーとスライスチーズ、戸棚からピーナッツバターを用意する。こっちのピーナツバターは日本のと違って味が全然しなくて、単なるピーナツバター。あまみがちっとも感じられないから、ピーナツバターのサンドイッチを作るときは、パンにピーナツバターを塗ってからベリー系のジャムを塗るのが通例だ。Peanut butter and jellyと呼ぶ。甘いほうを用意してから、もうひとつのペアにターキーとスライスチーズを挟んで重ねて半分にカットする。キッチンの手前に引く引き出しからラップを取り出し包む。それらを、そこら辺にある茶色い袋に突っ込み、最後に、冷蔵庫からスモールアップルを取り出して入れて袋の口を丸めてぐちゃぐちゃにする、ここまでがルーティンである。
アメリカではBentoなんて概念は一切存在せず、中学くらいになると朝は自分でシリアルを用意して食べて、昼は、カフェテリアで二ドルで売られているピザを食べるか、節約のために大半の学生が自作サンドイッチとりんごを持ってきて食べるかのいずれかだ。日本みたいに、高校と提携しているパン屋さんがあって購買部担当がまとめて注文してお昼には焼き立ての美味しいパンが食べられる、……なんてことも一切ない。このシステムに、留学して一ヶ月経ったいまでも毎日驚きを覚えるし、日本の育児の負荷がいかに、お母さん方に偏っているのかをまざまざと知らされる。うちは使用人が全部やってくれてはいるが、それでも、母は乳母を雇わず、まぁ、シッターさん程度は。五人の子ども全員に授乳していたし、酒も我慢してかなり大変な産後を送っていたはずだ。
改めて分かる。母の偉大さを。
牛乳も、日本で売っている紙パックタイプのではなく、脱脂粉乳? のような味の極端にうっすーい、水みたいな牛乳が透明の袋入りで売られていて、こっちでは、それを入れる専用の容器があって、それにぶっこむ。牛乳がなくなればまた袋の口を開いてぶっこむ。このルーティンにも慣れた。牛乳の味があまりにも違うので、本気で水なのではないかといまも疑っている。
ランチのセットを持って部屋に戻り、分厚い教科書がひとまず全部リュックサックに入っていることを確認し、急いで身支度を整え(顔なんてぱぱっと洗う程度だ)、飼い犬のアンディを軽く撫でてから急ぎホストファミリー宅を出て鍵をかける。
通学は、決まった場所からスクールバスが出ているから、絶対に遅れるわけにはいかないのだ。
ボストンは、地下鉄はあるが、通学手段は基本車かスクールバスのみ。自分で中古車を運転して通学する強者もいる。アメリカでは十六歳で免許が取れるので、親の車か、中古で買った手ごろな車でみんな運転する。水を飲むように簡単に運転するものだから驚いた。
ただ、基本留学生はスクールバスを利用する。ホストファミリーは多忙なひとが多く、ホストマザーもファザーもそれぞれ車を持っており、それぞれ別の場所に行って働くものだから、余っている車などないし、留学生に運転は禁止されている。リスクが高いからだ。
スクールバスはドラマでよく見る黄色いアレだ。アレに乗ると自分がアメドラの主人公になれた気分になれる――現実は大きく違えども。
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