花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

美凪ましろ

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眩しい影(4)

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 羽田空港に二人揃って現れたことから、理解した。

 無駄とまでは言わないが、おまえが俺の望む結論を出さなかったということが。

「実家に電話したら今日の便で発つって聞いてたから。……ごめん。いろいろありがとう」

 上質なベージュの光沢のあるスーツに身を包むおまえ。まるで都会の女だ。

「海我のアドバイスもあって、ちゃんと……そうだね。せっかく身に着けたスキルを活かす仕事に転職することに決めたんだ。来月から働くの」

 力になれたのならばよかった。

 願わくば――おまえと同じ未来を描きたかったが。斜め後ろに立つ、オーダーメイドのスーツに身を包む精悍な男がそれを許さない。

「彼の会社で……。ごめん。なんか、ひとりで行こうかとか考えたんだけど彼……嫉妬しいだから……」

「あはは。この通り、花はぼくが幸せにしますのでご心配なく。結婚式には是非お越しください」

「喜んで招待に預かりますよ。……花、いま、幸せか?」

「うん。すっごい」

 ならば、それでよかった。

 俺の手で咲かせられる花ではなく、おまえは、自分でその道を選ぶんだ。

「じゃあな。もう、他の男の前でなんか泣くなよ。というか、神宮寺さん、もう、彼女を泣かさないでくださいよ」

「約束します」

「じゃあね、海我」

「ああ。……向こう戻ることがあれば連絡しろよ」

「うん。ありがとう……」

 並んで手を振るおまえたちはあまりにも眩しかった。地元にいた頃の芋っぽくあどけない素直さを残しつつも、おまえは俺の知らない世界でもっともっと成長して、輝いていくんだ。……ああ。

 帰ったら卒業アルバムを抱いて泣こう。おまえを選ばなかったことを後悔してめそめそしてやる……そんな夜だってあっていいじゃないか。

 *

「行っちゃったね……」

 もうあの飛行機で旅立った。海我を見送るということはつまり、過去の自分と決別するということ。それから……。

「本当によかったの?」と私の顔を覗き込むあなたは茶目っ気たっぷりに、「同郷だとなにかと分かり合えることがあるでしょう? ふたりで喋るときは方言、それとも標準語? ……僕様の知らない花をあいつは知っている?」

「知らない。もう、後悔なんてしていないよ」

 風の冷たくなってきた初秋の頃。すこし、背伸びをしてあなたの……、

「私、あなたが一番なんだから。理生」

 あの頃よりも精悍で男らしい顔つきになったあなたの頬にそっと口づける。それが私の答えだった。

 *

「お父さん。寒くなってきたさけ、鍋にしますわ」

 畳に寝っ転がっている夫を見て思うことはあれど、日々が戦いだ。

 子育ての責務からは逃れられた。だが、被災地で生きるこの現実と日々向き合わなければならない。

 台所に入って鍋に湯を沸かし、その隙にお手洗いに行こうとすると、原稿用紙が散らばっていることに気づく。

「うふふ。お父さん、まだまだ諦めておらんのね」

 照れ隠しでか背を向けた夫が尻を掻いた。

 *

「緑川塗の素晴らしさは世界で通用するものだと思っています。……ええ、いいお話が出来てよかったです」

 わざわざ緑川を訪れてくれた顧客に礼を言う。この現状を見せて、そして、戦うのだ。

 出口までお見送りをする際にふっと、花の香りが鼻をかすめた。……春が近づいている。この真冬に春を感じられる、それは、なによりも、ひとびとが幸せであることの証拠だ。

「ありがとうございました。是非、前向きにご検討ください」

 車が去るまでを深々と礼をして見送る。……さて。

「そういや、おまえから文が届いてたな……」

 *

「ねえ。もう、招待客とかもっと絞ってよ! 入りきらないじゃない……!」

 百人以上を呼ぼうとするあなたに呆れた。あなたと違って私は友達が少ない。うう。

「仕方ないじゃないか。仕事上の付き合いとかいろいろあるんだし……」

「もう! やっぱやめる! 神宮寺財閥の御曹司と結婚するなんて面倒くさいことやめる! 法事とか集まりとかどうせいぃっぱいあるんだし、お歳暮お中元とかとんでもない数になるんでしょう! 私が全部手で文を書いてよこすんでしょう! 私字に自信なんてないののに……うぅ」

 笑ってあなたは私の肩を抱く。「今日日、財閥はそんなでもないよ? 定期的な集まりといったら、クリスマスくらいのものだし、……祖父母の代があまりに大変だったからさ。うちの親の代から、そういうのはやめようって言っているんだよ。お歳暮お中元は社内で処理するし、きみに負担はかけない。

 そうだ。……花」

 既に日取りも決まっていて会場も抑えているのに。

 実に、魅力的に私の、極上の、僕様貴公子はあでやかに笑って言うのだ。

「結婚式なんてとりやめちゃって、いまからパリに行こう。ふたりきりで、教会式なんてどうかなぁ?」

「なに言ってんの! もう招待状出しちゃったじゃない!」

 ぺろりと舌なめずりをするあなたは、

「追加で写真送り付けてやればいいよ。挙げましたー、って言ってさ。ぼくの花をみんなに見せつけてやるんだ。ぼくたちのあっつあつぶりをさぁ……」と私を抱いて引き寄せるあなたは、片手で器用にスマートフォンを操作し、「うし。ホテルはおさえた。じゃ、行こう」

 年末年始になに言ってるんですかあなた。言っていることがめちゃくちゃですよ。

 でも、――そんなあなたに着いていく。

「分かった。じゃあ、教会で、とびきりゴージャスなドレスを着させて?

 私を世界一幸せな花嫁にして」

「勿論。――ぼくの永遠の女神」

 キスをして笑いあって急いでパッキングをして神宮寺専用の飛行機に乗って花の都パリへと旅立つ。胸のなかで夢が揺れている。いつまでも私を離さないで。

 飛行機の窓からダイヤモンドを散らしたかのようなきらびやかな都を眺め、うっとりと、あなたに寄りかかる。幸せな日々はまだ始まったばかりだ。
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