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Smile Abroad(2)
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「まぁねー。便利なツールだけれど、大事なことは対面で、ってのはうちは徹底しているから。
かといって、全部が全部で対面で、話を聞けばまとまるってものでもないし。
誰にだって、ちょっと、ひとりになりたいときとか、手軽にチャットだけで終わらせたいときもあるよね。分かる分かる」
わたしの夫はこのように言ってくれているのだ。
ちなみに結局披露宴は行わず、限られたひとのみを招待したパーティーを行い、わたしと恋生の関係はSmile Abroadでは公開されていない。秘密にしているわけでもないが、積極的に開示していないというだけだ。
わたしが入社する前に恋生は会長職を退いた。わたしがいずれ入社することも想定してそこまで準備をしていたのかと思うと彼の慧眼に舌を巻く。
大切にしているはずの自分の会社であっても、婚約者のわたしのために手放してくれる……。
器が大きいということはこういうことなんだなと、あなたを見て感じるよ。恋生。
「まぁ……」と彼は味噌汁の椀を置くといつもするように目を眇め、「花が触れて欲しくないってときはだいたい分かるし。話さなくても分かっているつもりだよ花のことは」
自信家なあなたが――好き。
「そう? じゃ、わたしがいまなにを考えているのか、当ててみて?」
「うーん」とあなたは晴れやかに笑い、「明日の夕飯のおかずをなににするのか……とか?」
「ぶー。不正解でーす」
わたしが口をとがらせるのあなたは綺麗な歯並びを見せて笑う。頬杖をついて、わたしの目を覗き込み、
「じゃあ、なんだろうね? ……落ちた食欲をもとに戻す方法」
「違いまーす」
「花。最近痩せたよね? 大丈夫? 食欲すこし落ちているみたいだし……仕事のストレスとか? あったら遠慮なく吐き出して?」
「神宮寺恋生の作り上げた会社は完璧そのもの。……快適に過ごせています」
「じゃあ、……なに?」
あなたの目の奥にはっきりと感情が宿っているのを感じているんだよ。
わたしが好きで好きでたまらない、そんな熱情を宿したうす茶色いあなたの瞳が。
もう、――わたしを捕らえて離さない。一生一生。
だから、……わたしはね……。
「そういや、最後に花の生理来たのいつだっけ。……あれ、……ってまさか――」
答えに辿り着いたあなたを見て笑った。
「ぬか喜びさせたら悪いなと思って午後半休取って確かめたの。……これがエコー写真」
目を見開き、わたしの差し出した写真に見入るあなたの瞳を一生忘れたくはないよ。
思い出せないことに泣いた夜もあった。
ひとりで苦しんだ夜を重ねた。……けど。
どんなときも、あなたは寄り添ってくれていたんだね。あの頃からずっと……。
「わたしね。あなたと出会えてとっても幸せ。……だからね、笑顔でもっともっと、幸せを増やしていきたい……」
「花……」綺麗な涙があなたの頬を伝う。
もう、夕食どころの騒ぎではない。
立ち上がり、感動を分かち合う。ずっとずっと、言いたくてたまらなかった。
「花ってば。水臭いなぁ。黙って病院に行くなんて。んもう」わたしの口癖が移ったあなたは、「これからは、全部全部僕様に言いなよ? つわりが辛い、白いご飯が駄目、酸っぱいものが欲しいとかなんだって……ぼくに言うんだよ?」
天下の一流ビジネスパーソンなのに、保育園の先生のような砕けた話し方をする。――わたしの最愛の男……。
「恋生。愛している」
「ぼくも。大好きだ……花」
あまく切ないキスを交わす。しっとりとした感触の余韻に浸っているとあなたはすこしだけ、わたしを抱き締める力を強くする。
「花。愛している……ごめん。好きで好きでたまらない……」
誰だって立ち上がれない夜を味わう。
これから来る未来がもっともっと残酷で厳しいものなのかもしれない。
けれど、どんな未来が訪れようとも、あなたとなら乗り越えられると思うんだよ――恋生。
あなたの命を宿したこのわたしだからこそ出来ることがあるはず。
「わたしも……恋生のことをめちゃくちゃに可愛がってやりたいな」
「そりゃあ、歓迎だけれども……無理はしないでね?」
そう言いながらも、わたしを姫抱きにして天蓋つきのベッドへと連れていくあなたは、どこからどう見ても物語に出てくる王子様。圧倒的なヒーロー。
重なり合って、幸せのあまり、ため息をこぼす。そうして、伝ったわたしの涙はあなたのやさしい指が拭ってくれる。
「花。永遠に、一緒だよ……」
神が気まぐれで作り上げたかのような造形が光る空間のなかで互いの愛を確かめ合う。言葉の余韻が切れた頃に、今宵見た月の鮮やかさが脳裏を過ぎる。あなたのように美しく……気高くて、永遠のもの。手を伸ばすとあなたはそれに気づいてわたしの指を含んで弄んでいたずらに笑う。永遠のわたしの男。永遠に――愛していく。
かといって、全部が全部で対面で、話を聞けばまとまるってものでもないし。
誰にだって、ちょっと、ひとりになりたいときとか、手軽にチャットだけで終わらせたいときもあるよね。分かる分かる」
わたしの夫はこのように言ってくれているのだ。
ちなみに結局披露宴は行わず、限られたひとのみを招待したパーティーを行い、わたしと恋生の関係はSmile Abroadでは公開されていない。秘密にしているわけでもないが、積極的に開示していないというだけだ。
わたしが入社する前に恋生は会長職を退いた。わたしがいずれ入社することも想定してそこまで準備をしていたのかと思うと彼の慧眼に舌を巻く。
大切にしているはずの自分の会社であっても、婚約者のわたしのために手放してくれる……。
器が大きいということはこういうことなんだなと、あなたを見て感じるよ。恋生。
「まぁ……」と彼は味噌汁の椀を置くといつもするように目を眇め、「花が触れて欲しくないってときはだいたい分かるし。話さなくても分かっているつもりだよ花のことは」
自信家なあなたが――好き。
「そう? じゃ、わたしがいまなにを考えているのか、当ててみて?」
「うーん」とあなたは晴れやかに笑い、「明日の夕飯のおかずをなににするのか……とか?」
「ぶー。不正解でーす」
わたしが口をとがらせるのあなたは綺麗な歯並びを見せて笑う。頬杖をついて、わたしの目を覗き込み、
「じゃあ、なんだろうね? ……落ちた食欲をもとに戻す方法」
「違いまーす」
「花。最近痩せたよね? 大丈夫? 食欲すこし落ちているみたいだし……仕事のストレスとか? あったら遠慮なく吐き出して?」
「神宮寺恋生の作り上げた会社は完璧そのもの。……快適に過ごせています」
「じゃあ、……なに?」
あなたの目の奥にはっきりと感情が宿っているのを感じているんだよ。
わたしが好きで好きでたまらない、そんな熱情を宿したうす茶色いあなたの瞳が。
もう、――わたしを捕らえて離さない。一生一生。
だから、……わたしはね……。
「そういや、最後に花の生理来たのいつだっけ。……あれ、……ってまさか――」
答えに辿り着いたあなたを見て笑った。
「ぬか喜びさせたら悪いなと思って午後半休取って確かめたの。……これがエコー写真」
目を見開き、わたしの差し出した写真に見入るあなたの瞳を一生忘れたくはないよ。
思い出せないことに泣いた夜もあった。
ひとりで苦しんだ夜を重ねた。……けど。
どんなときも、あなたは寄り添ってくれていたんだね。あの頃からずっと……。
「わたしね。あなたと出会えてとっても幸せ。……だからね、笑顔でもっともっと、幸せを増やしていきたい……」
「花……」綺麗な涙があなたの頬を伝う。
もう、夕食どころの騒ぎではない。
立ち上がり、感動を分かち合う。ずっとずっと、言いたくてたまらなかった。
「花ってば。水臭いなぁ。黙って病院に行くなんて。んもう」わたしの口癖が移ったあなたは、「これからは、全部全部僕様に言いなよ? つわりが辛い、白いご飯が駄目、酸っぱいものが欲しいとかなんだって……ぼくに言うんだよ?」
天下の一流ビジネスパーソンなのに、保育園の先生のような砕けた話し方をする。――わたしの最愛の男……。
「恋生。愛している」
「ぼくも。大好きだ……花」
あまく切ないキスを交わす。しっとりとした感触の余韻に浸っているとあなたはすこしだけ、わたしを抱き締める力を強くする。
「花。愛している……ごめん。好きで好きでたまらない……」
誰だって立ち上がれない夜を味わう。
これから来る未来がもっともっと残酷で厳しいものなのかもしれない。
けれど、どんな未来が訪れようとも、あなたとなら乗り越えられると思うんだよ――恋生。
あなたの命を宿したこのわたしだからこそ出来ることがあるはず。
「わたしも……恋生のことをめちゃくちゃに可愛がってやりたいな」
「そりゃあ、歓迎だけれども……無理はしないでね?」
そう言いながらも、わたしを姫抱きにして天蓋つきのベッドへと連れていくあなたは、どこからどう見ても物語に出てくる王子様。圧倒的なヒーロー。
重なり合って、幸せのあまり、ため息をこぼす。そうして、伝ったわたしの涙はあなたのやさしい指が拭ってくれる。
「花。永遠に、一緒だよ……」
神が気まぐれで作り上げたかのような造形が光る空間のなかで互いの愛を確かめ合う。言葉の余韻が切れた頃に、今宵見た月の鮮やかさが脳裏を過ぎる。あなたのように美しく……気高くて、永遠のもの。手を伸ばすとあなたはそれに気づいてわたしの指を含んで弄んでいたずらに笑う。永遠のわたしの男。永遠に――愛していく。
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