トキメキは突然に

氷室龍

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恋人編~蒼虎の狩り~

ゲス男現る

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新展開突入です。

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ゲス男現る

連休明けすぐにあのゲス男中川博史うち営業三課に現れた。

「はじめまして。
 中川物産の中川博史と申します。」

そういってヤツは私に名刺を差し出してきた。
いかにもって感じの笑みとともに。

(ふ~ん、営業本部長か、荷の勝ち過ぎたポストを与えるとは…。
 中川社長も所詮はその程度の男だったという訳か。
 それにしても、私のことに気付かないとはどんだけ阿呆なんだ、この男…。)

それでも私も人の上に立つ身。
しっかり営業スマイルで名刺交換に応じる。

「へぇ、女性で営業課長とは恐れ入ります。」
「うちは女性も能力に応じて任せれるものは任せる。
 そういうスタンスでやってます。
 勿論、それ相当の努力はしました。
 中川さんと違って何の後ろ盾もありませんから。」
「そ、そうですか…。」

強烈な嫌味をかましてやったわ。
流石に引きつってやがる。
そこへ相楽さんがお茶を持ってくる。
美しい所作。うむ、いつ見ても惚れ惚れするわ。
流石、雅之さんの姪っ子。
そんな彼女を舐めるように見上げるこのゲス男をマジでどうしてくれようかと思う。

「おや、随分と美しい方がいらっしゃるのですね。」
「ああ、彼女は私の補佐をさせている相楽春香です。」
「相楽です。
 と言っても、先日結婚しましてので今は山中ですが。」
「山中?
 ああ、そう言えばうちの山中と結婚したんでしたね。
 社内報で結婚式の写真、拝見しましたよ。」
「ありがとうございます。
 夫がお世話になると思いますがよろしくお願いします。」

相楽さんの社交辞令を真に受けてるっぽいゲス男。
ここは私が牽制掛けて引きはがすしかあるまい。

「ごめんなさいね、旧姓で通させちゃって。
 手続きにあんなに時間がかかるなんて知らんかったから。
 人事部の的場部長には私から急いでもらうように言っておくわ。」

が、あまり効果がなかったらしくまだ相楽さんのことを舐め回すように視線を這わせてる。

(この阿呆はヤルことしか考えてないな。
 なら、私が狩っても問題ないか…。
 その時のあちら中川社長の顔が楽しみだわ。)

この日は顔合わせということもあって、ビジネスの話は特になく雑談でお帰り願った。

「「はぁ…。」」

相楽さんと二人で深いため息をつく。

「課長の弟さんお話通りでしたね。」
「うん、雅紀はゲス男の監視役だから。
 恐らく職権乱用であなたの旦那さんを長期出張させると思う。」
「課長…。」
「心配しなくていいわよ。 私に考えがあるから。」
「そ、そうですか…。」
「あなたにはちょっと危ない橋を渡ってもらうことになるけどごめんね。」
「いえ、あんなのを野放しにしておくより何倍もマシです。」
「アイツは私が何者か気づいてないし…。」
「課長?」
「今は話せないけど、いずれわかることになるから…。」
「分かりました。 私は課長を信じてます。」

そこへ内線が鳴る。
そろそろお声がかかる頃だと思っていたが、案の定社長からだった。

「相楽さん、悪いんだけど社長に呼び出し食らったからあとお願いね。」
「はい、わかりました。」

私は社長室にやってきた。
一つ、深呼吸してからノックする。

「失礼します。 営業三課の一之瀬です。」
「入りたまえ。」

私はゆっくりとドアをあける。

そこにいたのは社長の三浦儀一、社長秘書の榊志穂、専務の大垣慶介、そして常務の雅之さん。

(この面子はどういうことかな?)

「いきなり、呼び出して悪かったな。
 まずはかけたまえ。」
「はい。 それより何故大垣専務や梶原常務まで…。」
「中川社長直々にプレゼンがあったのだよ。」
「中川社長が?」
「榊、一之瀬君にアレを…。」

榊さんが私の前に一組の資料を差し出した。
それは中川物産が提示した新たな輸入事業に関するプレゼンだった。

「一之瀬君、単刀直入に聞く。 このプレゼンをどう見る?」
「どう、とは?」
「勿論、会社の利益たり得るかどうかだ。」

私はもう一度書類に目を通す。
だが、すぐにそれをテーブルに戻した。
どうやら社長はそれだけで私の言いたいことを察してくれたようだ。

「やはりな。 そろそろあちら中川物産も気づいてもよさそうなものだがな。」
「社長、よろしいのですか?」
「構わん。 一之瀬君の見立ては間違いない。
 大垣、悪いがあちらに断りを入れてくれ。」
「分かりました。」

大垣専務は一連の資料とともに社長室を出て行った。
扉が閉まるのを確認したところで、社長はソファに体を深く沈めた。

「社長?」
「まったく、よりにもよって中川物産の仕事を持ってくるとは…。」
「今回の件、大垣専務からもたらされのです。」
「大垣専務が?」
「中川社長と縁続きだからな、大垣は…。」
「ところで、社長。 そろそろ『本題』に入りませんか?」
「やれやれ…、君は父親に似てせっかちだね。」
「だって、中川とのビジネスの話なら、まさ、梶原常務をここにお呼びする必要はないでしょう?」
「佳織、ここからはオフレコだ。 役職で呼ぶ必要はない。」
「儀一伯父さん…。」
「え?」
「梶原君に話してなかったのか?」
「えっと、まだ付き合い始めたばかりで…。」
「その割には一緒に住んでるんでしょ。」
「志穂、何で知ってる、って愚問か…。
 どうせ雅紀に聞いたんでしょ?」
「ご名答!」
「すまないが最初から話してもらえないか?」

雅之さんが混乱してるのがわかる。
儀一伯父さんも志穂もニヤニヤ笑っている。
あぁ、はいはい、私から説明すればいいんでしょ!

「えっと、三浦儀一社長は私の父・一之瀬和也いちのせかずなりの姉の旦那さん。
 つまり伯父さん。
 で、志穂は弟・雅紀の嫁で、義妹なの。」
「え? えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

いや、雅之さん、そんなに驚かなくていいから。
あなただって『O.T.C.ホールディング社長の弟』って肩書あるじゃん。

「そんなに驚かなくても…。」
「いや、その、野田専務に『親族のコネは使いたくないから』って言ってなかったか?」
「佳織が私のことを知ったのは入社して数年経ってからだ。」
「そ、そうなんですか?」
「勿論、私の方から根回しはしてはいたがね。」

そうなのだ。
この伯父は実は私の恩師の幼馴染らしい。
恩師の勧めでここの入社試験を受けて三次面接までやってようやく入社できたのだ。
まずは総務で鍛えられてその後営業に移動。
ようやく独り立ちできたと思ったころ、父に事の真相を聞かされたのだ。
してやられた感は半端なかったなぁ。

「種明かしをした時の佳織の激怒ぶりは語り草だな。」
「やめてください。 というか、今すぐ消去デリートしてください。」
「まぁ、いいんじゃないですか? お義姉さんおねえさん。」
「私は忘れたいの。」

志穂は悪戯っぽい笑みを浮かべてる。
まったく、似た者夫婦だよ。
私を翻弄してばっかりだ。
因みに志穂は私が社長秘書に推薦した。
管理栄養士の資格を持ってるので、暴飲暴食気味な伯父を止めるためだ。
なんでこんな女がいいのか、雅紀の趣味がわからんわ。

「さて、本題に入ろう。」
「そうしてください。」
「で、中川物産のことだが…。」
「あのゲス男呼び戻すのにいくら使ったんですか?」
「3億。」
「はぁ、馬鹿だ、馬鹿だとは思っていましたが、ここまでとは…。」
「身も蓋もないな。」
「そんなものあの親子にあったらこんなことになってないでしょう。」
「佳織さん、容赦ないです。」
「5年前、あの事件を揉み消すのにかかった費用いくらだと思ってるの?」
「1億?」
「そんなわけあるか!
 相手はあの佐竹義彦氏の御令嬢で、その婚約者は相馬貞胤。」
「佐竹に相馬か。 それはまた随分な相手にちょっかい出したもんだな。」
「あの勘違いゲス男のせいでI.N.ファンドは信用失いかけた。」
「もしかして、お前が処理したのか?」
「指示は父さんが出したけどね。」

私は怒りを抑えるために目の前に用意されたハーブティーに口をつける。
相変わらず趣味がいいな、志穂は。
一口飲んだだけなのに心が凪いでいく。
ふと、視線を動かすと雅之さんが茫然としている。
あ、そっか、ちゃんと話してなかったな。

「雅之さん?」
「す、すまん。 話についていけなくて…。」
「ごめん。 私ちゃんと話してなかった。」
「何だ?」
「私、10年前から5年間I.N.ファンドに出向してたの。」
「出向?」
「うん、元カレの別れ方がちょっと派手だったから。
 頭を冷やして来いって言われて…。」

10年前、私はそれはそれは派手にバトルって別れた。
結婚まで考えてたその彼はあっさり若い部下の女の子に乗り換えたのだ。
調べて分かったが、アイツ二股掛けてた。
ある日、予定より早く仕事が終わったから彼のマンションに行った。
そしたら、玄関には見慣れぬヒールが脱ぎ捨てられてるわ、点々と服は脱ぎ散らしてるわでもうそれはヤッてるであろうとわかる状況で。
んで、案の定寝室でよろしくヤッてたわけである。
現れる筈のない私が現れたもんだから、相手の部下の子可哀想なくらい顔面蒼白だったっけ。
即その場で合鍵返して、別れを突き付けてやった。
それでも怒りが収まらなかったので雅紀に頼んで彼を海外赴任させるように仕向けてもらった。
それも夫人同伴が必須という変な条件まで付けてやった。
そしたら彼私にプロポーズしてきたのよ。
怒りを通り越して笑えたわ。

「アンタみたいな男を『厚顔無恥』っていうのよ。
 そんな男、こっちから願い下げ。」

そう啖呵切って捨ててやった。
あの時ほど、自分の男の見る目のなさを痛感したことはなかったわ。
まぁ、結局部下の子の妊娠が発覚して彼女とともに海外赴任していったけどね。
大変だったのはそのあとか…。

「う~ん、私自身は大丈夫って思ってたんだけどねぇ。」
「アレのどこが大丈夫なの?」
「今思うと酷かったと思う。」

そうなのだ。私のダメージは思いの外大きくてかなり弱ってた。
それで、雅之さんに相談したりとかしたんだよねぇ。
で、儀一伯父さんがまずいと思ったらしく、携わってたプロジェクトが一段落したところで父さんのところに出向になったのだ。

「ああ、それであの後佳織の姿を見なくなったのか…。」
「うぅ、ごめんなさい。」
「いや、謝らなくていい。
 そんなことがあった後でお前とどうにかなったとしてもつ続かなかっただろう。
 俺たちのタイミングは『今』だったんだよ。」
「雅之さん…。」

雅之さんが私の手をやさしく包んでくれる。
思わず見つめ合っちゃう。
自然と顔が近づくわけで…。

「スットーーーープ!!!」

そう言って、私たちの間にファイルを差し込んで止める志穂。
雅之さんが忌々しげに睨んでる。
が、それを超える絶対零度な志穂の瞳にシュンとなってしまう。
うん、男の御しかた心得てるよね。
流石、上辺の付き合いばかりしてきた雅紀の心をガッツリ掴んで離さず、結婚に持ち込んだだけのことはある。
ハーレムかっていうほど女の子引き連れてたアイツがピタッと女遊びやめて、志穂一筋になったんだもんね。
この娘には絶対勝てないと思う。

「お二人とも、そう言うのはプライベートでお願いします。」
「「はい。」」
「ははは、梶原君も佳織も形無しだな。」
「すいませんね。」
「で、どうする? あのバカ息子は何か企んでそうだぞ。」
「とりあえず、再起不能にします。」
「相変わらず辛辣しんらつだな。」
「私はあの時言いましたから。 『次はない』って。」
「そうか。」
「とはいえ、しばらくは泳がせておきます。」
「大丈夫なのか?」
「中川物産の内情を把握するまでの間です。」
「そうか、ならお手並み拝見といこうか。」
「大丈夫ですよ。
 今回は『蒼虎ツァンフーだけじゃなく紅龍ホンロンもいます。
 何よりイスタンブールの『黒獅子』が動いてます。」
「『黒獅子』だと?」
「雅紀の話ではどうやら本腰入れて在日法人を立ち上げるようです。」
「なるほど…。」
「そのための『媒体』が必要ですから、中川物産は手ごろなのでしょう。」
「彼らしいやり方だな。」
「それを決定的にする『材料』としてあのゲス男を使おうかと…。」
「なるほど、在日法人を立ち上げる裏であの親子を葬るのか。」
「そういうことです。」

あ、また雅之さんがドン引きしてる。
うん、儀一伯父さんと私の会話ってある種非道だからねぇ。
とは言え、一之瀬一族ではごく一般的な対応なんだけど。
その辺は追々ね。

「あ、雅紀の方には私から連絡しときます。」
「そうだな。 では今日はこれで解散にしよう。」

私と雅之さんも社長室を後にした。
でも、私はすぐには営業三課には戻らず、常務室まで付き添ってあげる。
甘い雰囲気邪魔されちゃったから、慰めてあげないとね。
とりあえず、どうやって慰めるか色々考えながら常務室の扉を閉め、内側から鍵を掛けた。


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佳織の慰めは…。
いつものアレです。
慰めるふりしてガッツリ頂くのかも?
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