レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
29 / 1,557
第四章 通過儀礼としての事件

たどり着いたアジト

しおりを挟む
 押さえつけられた姿のままで、車が何度となく加速したり止まったりすることを感じながら、誠はじっとしていた。車の頻繁な加減速から、誠は豊川の田舎町から東都の都心部に連れてこられたのかと、まるで他人事のように考えていた。

「着いたぞ。とりあえずしっかりと目隠しをさせてもらうぞ」 

 先ほどの男はそういう誠の顔にさらに布の袋をかぶせた。

『このまま見殺しかよ』 

 そんな言葉が脳裏に浮かんでは消えた。

 空調の効いた車内から袋を頭にかぶせられたまま誠は降ろされた。生ぬるい空気と耳に響く喧騒。東都の都心部のどこかと言うことは推測ができた。跳ね返りの熱で全身から汗が噴出す。そんな誠に声をかける人はいない。

 初めて誠は恐怖と言うものを心の奥から感じた。

 彼等は自分を殺すのだろうか?さっきの口振りでは、すぐに殺すということはないはずだ。そう思う誠はとりあえず状況を確認しようとするが、布でさえぎられた視野のため、足元の崩れかけた階段以外誠の目に入ってくるものはない。男達は誠を両脇で挟みつけたまま、時折小声でやり取りをしながら誠を小突きつつ階段を登った。

 男達の誠を前へ進めるために小突く動作が止まった。袋をかぶされて見えないが、建物のドアを空けようと言うらしい。

 開いたドアから冷気が漏れる。空調は効いているらしい。誠が後ろで扉が閉まるのを感じたところで袋が頭からはずされた。

 廃墟のようなビルだった。埃だらけのフロアー。階段の隣に割れたスナックの看板が残っているところから見て、かつては雑居ビルだった廃墟に連れ込まれたことはわかった。

「お客さんだ。頼むぜ」 

 背広の男が奥に向かって怒鳴ると、腰に拳銃をつるした若いポロシャツの男と紫のワイシャツに紺色のスラックスをはいた中年の男が、手錠を持って部屋から現れた。

「しばらくここでじっとしていてくれよ」 

 初めに誠に拳銃を突きつけた男が、銃口を誠に向けたまま二人に誠を押さえさせる。男達はにやけた笑いを浮かべながら誠の両腕を後ろに回して手錠をかけて、階段に向けて誠を突き飛ばした。

「そのまま上がれよ」

 そう言われて誠はアロハの若い男に続いて階段を登る。

「なんでこんな俺が野郎の世話しなきゃならないんすか?」 

 ポロシャツの男はそう言いながら二階に上がったところで誠のふくらはぎを蹴飛ばした。

 誠はそのままバランスを崩すが、今度は髪の毛を紫のワイシャツの男に引っ張られて直立させられる。誠が古びた全面ガラスのかつてのスナックのドアの中を見ると、男達がテーブルの上に酒瓶を並べて談笑しているのが見えた。

「ちょろちょろよそ見するんじゃねえよ」 

 再びポロシャツの男が誠の襟元をつかむと三階に向かう階段に誠を引き立てていく。急に冷気が薄くなり、コンクリートの熱せられた香りが誠の鼻をついた。

 人気の無い三階のフロアーを素通りして四階に向かう階段に誠は引き立てられる。

 四階は事務所の跡のようで廊下に連れ込まれた誠の前に三つの扉が目に入った。銃を突きつけている背広の男はそのまま一番奥のドアを開けて、中に誠を蹴りこんだ。

 誠は転がされたまま静かに周りを見回した。

 小さな小窓から日差しが入っているところから見て、それほど時間がたっているわけではないようだった。遠くで車の走る音がすることが、少しばかり誠に安心感を与えた。そしてじっと室内を見る。

 古びた壁のしみや、天井の壊れた電灯が誠の目を引いた。東都生まれの誠には、こんなビルが並んでいる地区はいくつか心当たりがあった。

 かつてこの遼州星系では大きな戦いが幾つもあった。

 第二次遼州戦争、遼南内戦、大麗革命、胡州動乱、外惑星紛争。

 中立路線と抜きん出た経済力により誠の生まれたこの国『東和共和国』は、どの戦争にも直接参戦することはなかった。しかし何百万と言う難民が、この平和なことがとりえの東都にも押し寄せ、東和の沖の埋立地に住み着いてスラムのようなものを作った。それが『東都租界』と呼ばれた島である。そしてその対岸の湾岸地区は密入国者とそれを手引きするブローカーがたむろすることになった。そして治安の悪化に耐えかねて出て行く旧住民の残した廃墟が並ぶとても東和とは思えない海浜地域と呼ばれる不法地帯が生まれた。

 そんな地区は東都生まれの誠でも足を踏み入れることが避けられた魔窟となり、シンジケート同士の衝突、世に言う『東都戦争』と呼ばれたシンジケート同士のの抗争劇の舞台となった。

 たぶんそんな地区の一つに、今、自分はいるんだ。誠はそう認識できる程度の心の余裕はあった。

「どうなるんだろうなあ?」 

 誠は不安を紛らわすために、自分で声を出してそう言った。

 司法局実働部隊の隊員の誘拐略取。それなりの武装をしている彼等は、自分達で今すぐ誠をどうこうするつもりは無いようだった。

 誠の誘拐を依頼した『クライアント』に誠の身を引き渡すまで護衛してくれるだろう。それまでは自分の命がなくなることない。それから先は……、誠は考えるのをやめた。その方が賢明だろうというくらいの理性は、まだ彼に残っていた。

 手錠が手首に食い込んで痛む。そんな彼を無視するかのように、誠を監視している男の鼻歌が誠の耳にも届いていた。

 部屋に転がっている体を起こした。そして自分が誘拐される理由を考えてみた。司法局への意趣返しの線はなかった。それならそのまま車を山沿いにでも向けて林道で誠を殺していることだろう。その方が証拠が残らずに済む。

 『クライアント』がテロリストや非合法の武装組織ならば、東和の司法組織に身柄を拘束された同志の解放を求める為という線も無いではないが、同盟直属のまだ実績の無い司法機関の隊員を交換のカードに使う意味が誠にはわからなかった。

 誠はそこまで考えてみたが結論は出ない。そのまま高い格子戸からさしてくる光を見ながら誠はとりあえず体を休めようと横になろうとした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...