レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第十一章 司法局実働部隊運用艦『高雄』

徒手空拳での善戦

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 しかし、そこで誠は自分が致命的なミスをしていることを悟った。

 デブリの散らばっている範囲が狭いのだ。

 ここから出ればほぼ確実に明華の狙撃に逢う。

 かと言ってそう広くない範囲を動き回っていれば、ほぼ特定された場所の周りを飛んでいるアイシャの襲撃にあう。

「とりあえず、囮なんだ。時間さえ、時間さえ稼げれば!」 

 そう言いきかせるものの、体は次第に緊張のあまり硬直を始める。

 とりあえずアイシャ機が突入をしてこない所から見て、まだこちらの正確な位置は確認されてはいないのが唯一の救いだった。

「マリアさん!早くしてください!これじゃあ支えきれません!」 

 誠は心の中でそんなことを思いながらデブリ帯の中心で機体を安定させる。

 呼吸はかなり乱れている。心拍数が上がる。額からの汗もかなりの量だ。

 再びロックオンされたことを示す警報が鳴る。

 機体を振り回しにかかった時、あることに気がついた。

 東和軍本部で05式のシュミレーターをやったときに比べて、明らかに機体の動きがいいのだ。

 実際ここまで狭い範囲に追い詰められたら白旗を揚げるところだが、機体をランダムに動かしているだけでロックオンされても脱出できた。

「この機体……。いけるかもしれない!」 

 誠はそう思うとデブリの入り口でワザとゆっくりと機体を前進させてみた。

 アイシャは乗ってきた。

 警報が鳴るが、誠にはかわせる自信があった。

 レールガンの連射速度はそれほど速くない。

 デブリに機体を沈めるだけで、すぐにアイシャの射界から脱出できる。

 消えた誠機を探すべく、アイシャが機体の速度を緩めた。

「今なら!」 

 誠がデブリから飛び出したとたん、アイシャとは別の方向からロックオンされた警報が鳴った。

「許大佐か!」 

 誠が一瞬自分の未熟さを後悔するが、回避行動に移りかけた瞬間にアイシャ機が背中からの狙撃を受けて撃墜された。 

「マリアさんが間に合ったのか!」 

 誠はすぐさま明華の待機地点と思われる戦艦の残骸の後ろからやってくる友軍機を見つけた。

『今ならいける!』

 別に何も根拠は無かったが、誠は最大出力で先ほど当たりをつけたデブリ帯に突撃をかけた。

『牽制するから一気に距離を詰めろ!』 

 通信ウィンドウが開き、マリアの声が響く。

 一発、明華機の重力波ライフルが掠めるが、マリア機と挟まれているだけあって照準は正確さを欠いており、楽にかわしてさらに距離を詰める。

「いける!」 

 長い重力波ライフルの銃身が予想をつけたデブリの端から見える。

 誠は読みが当たったこともあり、先ほどまで自分を縛っていた縄が解けたような感じで思ったように機体が動いているのが分かる。

『悪いけど私がいただく!』 

 マリアの声が響き、明華機が身を翻して射界からの脱出を図っているのが見える。

 誠の機体に飛び道具が無いことを知っている分、誠側からの攻撃が遅いと知っての行動だろう。

 しかし、ほとんどマリア機に神経を集中している明華の機体が大きく見え始めるにつれ、誠は口元に笑みが浮かんでくるのを抑え切れなかった。

「もらった!」

 そう誠が叫んだ時、シミュレーターの画面いっぱいに、パーラの顔が映った。

『許大佐!隊長から出港命令が出ました』

 誠の体から不意に力が抜ける。同時に宇宙を映していた全天周囲モニターがシミュレーションルームのそれに切り替わる。

 それまで止まっていた汗が、再び滲み始める。

 しかし、マリアは少し息を漏らしただけで、特に残念がる様子も見えなかった。 

『出航ということはエンジンを見ろということね……とりあえず今回はこれで終わりってとこね』 

 明華の言葉に合わせてシミュレーターの電源が落ちる。

 ハッチが開き、誠は明華とマリアがこちらの方を見つめているのを感じた。

「明華。言ったとおりだろ?神前は結構やれるって」 

「そうね、まあこっちとしてはアイシャが誤算だったけど」 

「酷いですよ!大佐!あそこまで粘られたら打つ手無いじゃないですか!」 

 明華に責められてアイシャは頬を膨らます。

「じゃあブリッジ上がるから!後、ヨロシクね!」

「私は機関室に向かうからな」 

 そう言うとアイシャと明華は早足で部屋を出て行く。誠はぴりぴりした感じの印象しかないマリアと二人きりにされた。

「神前。冷静に状況を判断できるのはパイロットとしては重要なことだ。特にカウラとかなめは二人とも頭に血が上りやすい性質だから、結構いいチームになれるかもしれないな」 

 誠はなんとなく未だどこかに殺気は感じるものの、表情の明るいマリアに笑い返した。

「でも、今すぐ出港ってことは、隊長の描いたプランの最悪の展開になりそうだな」 

 そんな言葉を吐いた瞬間にはもうマリアの顔には笑顔は消えていた。

「最悪のシナリオって……?」 

 誠は暗い視線で天井を仰ぎ見ているマリアにそうたずねた。

「胡州軍部が近藤中佐に決起の口実を与えるようなことをしてしまったようだ」 

 マリアが言葉を選びながら話す。誠は頭の中でその言葉を何回か繰り返しているうちに、事態の重要さをじわじわと感じてきて、自然と額の汗が冷たくなっていくような感覚に襲われた。
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