レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第二十五章 どんちゃん騒ぎ

みつどもえ

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「何してんだ?お前って……カウラ!」 

 コンロを抱えたかなめに二人は見つかった。誠は思わずかなめから目をそらした。

「カウラ……テメエ、また何か企んでるな?」 

「私が何を企んでいると言うんだ?」 

「だってそうじゃないか。人がこうして汗を流して宴会の準備をしているのに……」 

「それは許大佐の指示だろ?」 

「う……」 

 腐っても軍と同等の指揮命令系統である。上官の名前を出されたら逆らえるはずも無い。

「それにまだ誠の体調は本調子ではない、小隊長として彼を見守る義務がある」 

 筋が通っているものの何故か納得できない、かなめはそんな表情を浮かべた。

「それとも何か?代わってもらいたいとでも言うのか?理由によっては聞いてやらんこともないぞ?」 

 カウラの一言。かなめの顔が急に赤くなる。

「馬鹿野郎!何でアタシがそんなことしなきゃならねえんだ!」 

「そうか。じゃあ消えろ」 

 淡々とかなめをあしらうカウラに、かなめはさらに切れそうになる。

「西園寺さん後ろがつかえてるんですけど」 

 幼い顔の二等兵、西高志(にしたかし)がいつ切れてもおかしくないとでも言うような表情のかなめに声をかける。

「うるせえ!餓鬼!これ持ってハンガー行け!」 

 西は既に椅子を持っている上にかなめからコンロを持たされてよろける。隣の兵長が気を利かせてコンロを受け取ってエレベータに乗り込む。

「おい、カウラ!前からオメエのことが気に入らなかったんだけどな。今回のことで分かったよ。アタシはテメエのことが気にくわねえ!」 

「ほう。奇遇だな。私も西園寺の態度が非常に劣悪であると言う認識を持っているわけだが」

「面白れえじゃねえか!勝負はなんにする?飲み比べじゃあアタシが勝つのは決まってるから止めといてやるよ」 

「そういう風にすぐ熱くなって喧嘩を売る隊員は私の小隊には不要だ。ちょうどまもなく胡州の領域を通過する。そのまま実家に帰っておとなしくしてろ」 

「何だと!」 

 いつでも殴りかかれると言う状態で叫び続けるかなめ、それを受け流しつつ明らかに反撃の機会を覗うカウラ。誠は自分が原因である以上どうにかすべきだと思ってはいたが、ニヤつきながら遠巻きに見ている技術部員とブリッジクルーの生暖かい視線を感じながら黙り込んでいた。

「はいはーい!どいてくださいよ!先生。お席のほうが出来ましたのでご案内します!」 

 そこにいつの間にか現れて、誠をさらっていこうとするのはアイシャだった。

「おい!いつの間に湧いたんだ!」 

「卑怯者!誠の担当は私だ!」 

 かなめとカウラが飄然と現れたアイシャに噛み付く。

「だって二人ともこれから決闘するんでしょ?じゃあ先生はお邪魔じゃない。だからこうして迎えに来てあげたってわけ」 

『そんな理屈が通用するか!』 

 二人は大声でエレベータに向かおうとするアイシャを怒鳴りつける。

「クラウゼ大尉!三人で連れてってやったらどうです?」 

「西園寺さん!良いじゃないですか!」 

「酷いよねえ。神前君って三人の心をもてあそんで」 

「そう言うなよ。戻ったら菰田さんにつけ狙われるんだから。それまで楽しんでろよ」 

「新入りの分際で!」 

 周りのブリッジクルーの女性陣、技術部の男性部員が口々に茶々を入れてくる。

「黙れー!」 

 瞬間湯沸かし器、かなめが大声で怒鳴りつける。

「じゃあ、行くとするか。西園寺、アイシャ。ついて来い。大丈夫か誠。一人で立てるか?」

 誠はすさまじく居辛い雰囲気と、明らかに批判的なギャラリーの視線に耐えながらエレベータに乗り込む。

「それにしても初出撃でエースってすごいわよねえ。これじゃあさっきのニュースも当然よね」 

「何があった?」 

 相変わらず機嫌の悪いかなめがアイシャに問いただす。

「同盟会議なんだけど。そこで先生みたいな法術師の軍の前線任務からの引き上げが決まったのよ。アメリカ、ロシアはこれに同調する動きを見せているわ。まああんなの見せられたらさもありなんというところかしら」 

「その大国は既にこの状況を予想していた。言って見れば当事者みたいなものだからなその動きは当然だ。しかし他の国が黙っていないだろうな」 

 カウラはヨハンの話を聞きある程度予想したその政治的な結末を淡々と受け入れた。

「一番頭にきてるのはアラブ連盟ね。西モスリムが同盟会議の声明文に連名で名を連ねているものだから、クライアントとしては騙されたとでも言うつもりでしょう。金は出したのに何でこんなおいしい情報をよこさなかったのか……ってね。それとフランスとドイツが黙殺を宣言したし、インド、ブラジル、南アフリカ、イスラエルもヨーロッパ諸国の動きに同調するみたいよ」 

「まるで核兵器開発時の地球のパワーゲームみたいだな。もっとも今度のは下手な核兵器よりも製造が簡単で、持ち運ぶも何も足が生えてて勝手に歩き回るからな」 

 アイシャの解説を聞いて、かなめはようやく冷静に現状分析を始めた。かなめの表情が険しくなる。同じくカウラも複雑な表情を浮かべた。

「でも……こいつがか?」 

 そう言うとかなめはまじまじと誠の顔を眺める。

『先輩達はエロいって言うけど、かなめさんのタレ目もかわいいものだな』

 不謹慎にも誠はそう思う。さらにマリアと並ぶ胸のボリュームに自然と視線が流れる。

「アタシもさあ。実際、間近で見てて凄いなあと驚いたんだけど。こうしてみるとただの草野球マニアのオタクじゃん」 

「オタクなのは先生の趣味を知ってるからでしょ?知らなきゃただの英雄よ」 

「まあそうなんだけど。こいつが叔父貴と同類の法術師?信じられねえよなあ」 

 かなめはさらにじろじろと誠の全身を観察し始める。

「西園寺!イヤラシイ目で神前を見るな!」 

「誰がイヤラシイ目で見てるって?お前がそう見てるからアタシも同じ目で見てると妄想するんだろ?」 

 苛立つカウラをかなめは難なくかわして見せた。そしてそのままハンガーへ向かう通路を歩き続けた。
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