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第2章 朝の実働部隊
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広い店内。広がる世界はこの工場が野球場が10個も入る巨大なもので、そこで働く人々の数が万に届くものであることをシャムにも思い知らしめた。だがシャムはすぐに笑顔になるとそのままかごを片手に歩き始める。目指すのは惣菜コーナー。今の時間は出勤している職員が多いので品揃えも多くシャムのお気に入りのメニューが簡単に手に入った。
「あ……」
惣菜コーナーに群がる工場の従業員の群れの中に一人浅黒い顔の男が立っていてすぐにシャムの存在に気づいて振り返った。
「あれ?先生?」
それは司法局実働部隊医務局の医師ドム・ヘン・タン大尉だった。見つかったとわかるとドムはそのまま逃げるように立ち去ろうとする。そこに少しばかり思いやりがあれば見逃してくれるところだったが、シャムにはそういうことに気を回すデリカシーはかけらもなかった。
「逃げるな!」
「ひ!」
目の前に立ちはだかるシャム。驚くドム。二人はにらみ合い、そしてドムはうなだれた。
「お弁当!いつも奥さんの奴があるじゃないの!太るよ!」
そこまで言ってようやくシャムはドムの異変に気づいた。手にはたっぷりおかずとご飯の幕の内弁当。手にしていたかばんにはいつもの愛妻弁当の姿はなかった。
「いいだろ……俺の勝手だろ……」
「もしかして……」
「は?」
立ち上がったドムに泣き出さんばかりの表情で見つめるシャム。それを見てドムは呆然とするしかなかった。
「逃げられたのね!奥さんに!」
シャムの叫び声が響く。惣菜売り場で昼の食事や夜勤明けの朝食を探していた職員達の視線がシャムとドムに集中する。
「なっ……何を言い出すんだ!君は!」
「でもいつもの愛妻弁当じゃないじゃん」
「意味もわからず愛妻弁当とか言うんじゃない!」
「でも奥さんにいつもお弁当作ってもらってるじゃん」
そこまでシャムが言ったところでドムは幕の内弁当をかごに入れてため息をついてうつむいた。
「どうしたの?先生らしくもないよ」
シャムになだめられているという現実をまざまざと見せ付けられてドムはうつむいて再びため息をついた。
「それがね……」
「うん」
明らかにしょげているドム。それを興味津々の目でシャムは見つめていた。浅黒い色の小太りの男と小さな女の子がしゃべっている光景。工場の中とは思えない組み合わせに回りにギャラリーが集まり始める。
「明石君に誘われて行った東都銀座の店のマッチをコートの中に入れてたら見つかってさあ……」
「なんだ、別居じゃないんだ」
「おいおい!そんな大事にしないでくれよ。今朝だって怒ってたからカップ麺で朝食だったし」
「あれ?先生の子供さんはどうしたの?」
「ああ、昨日は俺抜きでピザを取って食べてたから。それの残りを食べて出かけてったよ」
「ふーん」
一通り話し終えて我に返ったドムの周りに人垣ができていた。急にドムの表情はあせりに満ちたものへと変質した。
「それじゃあ!」
シャムに何も言わせずに弁当を手にレジへと急ぐドム。シャムはその後姿をにやにや笑いながら眺めていた。
「ああ、アタシも買お!」
ドムへと視線を向ける野次馬達を無視してシャムは惣菜売り場に足を向けた。
「朝のおやつには……」
そうつぶやきながらシャムが手にしたのは天丼弁当だった。それを当然のように二つかごに入れてレジへと向かう。
くたびれた顔の作業着姿の従業員のならぶレジ。シャムはとりあえずカードで買い物を済ませるとそのままグレゴリウス16世の待つ駐輪場へと向かった。そこには当然のように座っているグレゴリウス16世とその首を撫でて和んでいるアイシャの姿があった。
「シャムちゃん、ドム先生に会った?」
「うん。落ち込んでたね」
「もしかして奥さんに逃げられたのかな」
「違うって……普通の喧嘩」
「ふーん」
アイシャは話が犬も食わない話題だったと知ると飽きたというようにグレゴリウスの頭をトンと叩いて立ち上がった。
「じゃあ行きましょ」
アイシャの言葉にシャムは大きくうなづいた。
周りでは相変わらずシャムとグレゴリウス16世の様子を写真に収める女性職員の群れが見えている。だがそれもいつものことなのでグレゴリウス16世は黙って先頭を歩くシャムに付き従った。
「それにしても寒いわね」
「冬は寒いもんだよ」
「わかってはいるんだけど……シャムちゃんは寒くないの?」
アイシャに改めてそう言われてシャムは自分の姿を見た。厚手のジャンパーに綿の入ったズボン。かつて遼南の山に隠れ住んでいたときに比べれば遥かに暖かく、そして気候も遥かにすごしやすい。
「寒くないよ」
そう言いながらシャムは押しボタン信号のボタンを押した。
「それならいいんだけど……あれ?」
答えたアイシャの目の前で四輪駆動車が止まる。その運転席と助手席には見慣れた顔があった。
「あれ、アイシャじゃないの」
運転していたピンク色の長髪の髪の女性がアイシャに声をかけた。その髪の色が彼女がかつての大戦で人工的に戦闘用に作られた人造人間、『ラスト・バタリオン』であることを示していた。そんなパーラ・ラビロフ中尉はアイシャの同期で、今はアイシャの補佐を担当する部隊の運用艦『高雄』のブリッジ要員の一人だった。
「もしかして乗せてくれるの?」
喜びかけたアイシャだが、パーラの表情は硬い。それはアイシャの隣に立つシャムとグレゴリウスを無理して後部座席に詰め込むことになりかねないということを心配しているからだった。
「いいわよ、パーラ。私が降りて歩くから……」
赤いショートヘアーの女性がそう言って助手席から降りた。彼女もアイシャと同期のサラ・グリファン少尉。アイシャ達と同じく人工的に作られた戦闘用の女性兵士だった。
「まあそう言うなら……先行くわよ」
安堵の表情を浮かべながら窓を閉めるパーラ。シャム達はニコニコ笑いながら走り去っていく大型の四輪駆動車を見送った。
「シャムちゃんはおやつを買ったの?」
サラの言葉に大きくうなづくシャム。そしてグレゴリウスもうれしそうに信号が青に変わった横断歩道を歩き始めた。
「でも本当にグレゴリウス君は大人気ね」
サラの何気ない一言にシャムは後ろを振り返った。そこにはカメラや携帯端末を構えた女子職員が群れを成していた。
「元気だからね!あとでまた鮭を食べようね」
「わう!」
元気に答えるグレゴリウス16世に安心したようにシャムは歩き続ける。アイシャはわざとカメラを向ける職員の間に立ってにこやかに歩き続けていた。
「アイシャ!遅刻するわよ」
仕方なく振り返るサラ。アイシャもようやく笑みを少しだけ残しながらグレゴリウス16世の巨体に向けて走り出した。
「あんた……本当に大丈夫なの?」
サラの再びの言葉に追いついたアイシャは不満そうに口を尖らせる。その光景が面白かったのでシャムは笑みを浮かべるとそのままグレゴリウスにまたがった。
「先行ってるね」
それだけ言い残すとグレゴリウス16世は走り出した。巨体に似合わず隣の工場の周回道路を走るトレーラーを追い抜くスピードで走り続けるグレゴリウス。そしてそのままシャムは部隊の通用口のゲートの前にまでやってきた。
「ごきげんよう」
和服の女性が高級乗用車から顔を出す。
「茜ちんおはよう!」
シャムは元気に挨拶を返す。上品な笑みでそれを受け流すと司法局実働部隊と同じく遼州同盟司法局の捜査機関である法術特捜の責任者、嵯峨茜警視正はそのまま車を走らせた。
「中尉、お弁当は?」
「買ったよ!これ」
警備部のスキンヘッドの曹長に手にした天丼を差し出す。日本文化の影響の強い東和に赴任して長い曹長は大きくうなづきながらゲートを開いた。
「じゃあ!行こう!」
シャムはそう叫ぶ。言葉を理解したというようにグレゴリウス16世はそのまま元気に自分の家のある駐車場に向けて走り始めた。
「あ……」
惣菜コーナーに群がる工場の従業員の群れの中に一人浅黒い顔の男が立っていてすぐにシャムの存在に気づいて振り返った。
「あれ?先生?」
それは司法局実働部隊医務局の医師ドム・ヘン・タン大尉だった。見つかったとわかるとドムはそのまま逃げるように立ち去ろうとする。そこに少しばかり思いやりがあれば見逃してくれるところだったが、シャムにはそういうことに気を回すデリカシーはかけらもなかった。
「逃げるな!」
「ひ!」
目の前に立ちはだかるシャム。驚くドム。二人はにらみ合い、そしてドムはうなだれた。
「お弁当!いつも奥さんの奴があるじゃないの!太るよ!」
そこまで言ってようやくシャムはドムの異変に気づいた。手にはたっぷりおかずとご飯の幕の内弁当。手にしていたかばんにはいつもの愛妻弁当の姿はなかった。
「いいだろ……俺の勝手だろ……」
「もしかして……」
「は?」
立ち上がったドムに泣き出さんばかりの表情で見つめるシャム。それを見てドムは呆然とするしかなかった。
「逃げられたのね!奥さんに!」
シャムの叫び声が響く。惣菜売り場で昼の食事や夜勤明けの朝食を探していた職員達の視線がシャムとドムに集中する。
「なっ……何を言い出すんだ!君は!」
「でもいつもの愛妻弁当じゃないじゃん」
「意味もわからず愛妻弁当とか言うんじゃない!」
「でも奥さんにいつもお弁当作ってもらってるじゃん」
そこまでシャムが言ったところでドムは幕の内弁当をかごに入れてため息をついてうつむいた。
「どうしたの?先生らしくもないよ」
シャムになだめられているという現実をまざまざと見せ付けられてドムはうつむいて再びため息をついた。
「それがね……」
「うん」
明らかにしょげているドム。それを興味津々の目でシャムは見つめていた。浅黒い色の小太りの男と小さな女の子がしゃべっている光景。工場の中とは思えない組み合わせに回りにギャラリーが集まり始める。
「明石君に誘われて行った東都銀座の店のマッチをコートの中に入れてたら見つかってさあ……」
「なんだ、別居じゃないんだ」
「おいおい!そんな大事にしないでくれよ。今朝だって怒ってたからカップ麺で朝食だったし」
「あれ?先生の子供さんはどうしたの?」
「ああ、昨日は俺抜きでピザを取って食べてたから。それの残りを食べて出かけてったよ」
「ふーん」
一通り話し終えて我に返ったドムの周りに人垣ができていた。急にドムの表情はあせりに満ちたものへと変質した。
「それじゃあ!」
シャムに何も言わせずに弁当を手にレジへと急ぐドム。シャムはその後姿をにやにや笑いながら眺めていた。
「ああ、アタシも買お!」
ドムへと視線を向ける野次馬達を無視してシャムは惣菜売り場に足を向けた。
「朝のおやつには……」
そうつぶやきながらシャムが手にしたのは天丼弁当だった。それを当然のように二つかごに入れてレジへと向かう。
くたびれた顔の作業着姿の従業員のならぶレジ。シャムはとりあえずカードで買い物を済ませるとそのままグレゴリウス16世の待つ駐輪場へと向かった。そこには当然のように座っているグレゴリウス16世とその首を撫でて和んでいるアイシャの姿があった。
「シャムちゃん、ドム先生に会った?」
「うん。落ち込んでたね」
「もしかして奥さんに逃げられたのかな」
「違うって……普通の喧嘩」
「ふーん」
アイシャは話が犬も食わない話題だったと知ると飽きたというようにグレゴリウスの頭をトンと叩いて立ち上がった。
「じゃあ行きましょ」
アイシャの言葉にシャムは大きくうなづいた。
周りでは相変わらずシャムとグレゴリウス16世の様子を写真に収める女性職員の群れが見えている。だがそれもいつものことなのでグレゴリウス16世は黙って先頭を歩くシャムに付き従った。
「それにしても寒いわね」
「冬は寒いもんだよ」
「わかってはいるんだけど……シャムちゃんは寒くないの?」
アイシャに改めてそう言われてシャムは自分の姿を見た。厚手のジャンパーに綿の入ったズボン。かつて遼南の山に隠れ住んでいたときに比べれば遥かに暖かく、そして気候も遥かにすごしやすい。
「寒くないよ」
そう言いながらシャムは押しボタン信号のボタンを押した。
「それならいいんだけど……あれ?」
答えたアイシャの目の前で四輪駆動車が止まる。その運転席と助手席には見慣れた顔があった。
「あれ、アイシャじゃないの」
運転していたピンク色の長髪の髪の女性がアイシャに声をかけた。その髪の色が彼女がかつての大戦で人工的に戦闘用に作られた人造人間、『ラスト・バタリオン』であることを示していた。そんなパーラ・ラビロフ中尉はアイシャの同期で、今はアイシャの補佐を担当する部隊の運用艦『高雄』のブリッジ要員の一人だった。
「もしかして乗せてくれるの?」
喜びかけたアイシャだが、パーラの表情は硬い。それはアイシャの隣に立つシャムとグレゴリウスを無理して後部座席に詰め込むことになりかねないということを心配しているからだった。
「いいわよ、パーラ。私が降りて歩くから……」
赤いショートヘアーの女性がそう言って助手席から降りた。彼女もアイシャと同期のサラ・グリファン少尉。アイシャ達と同じく人工的に作られた戦闘用の女性兵士だった。
「まあそう言うなら……先行くわよ」
安堵の表情を浮かべながら窓を閉めるパーラ。シャム達はニコニコ笑いながら走り去っていく大型の四輪駆動車を見送った。
「シャムちゃんはおやつを買ったの?」
サラの言葉に大きくうなづくシャム。そしてグレゴリウスもうれしそうに信号が青に変わった横断歩道を歩き始めた。
「でも本当にグレゴリウス君は大人気ね」
サラの何気ない一言にシャムは後ろを振り返った。そこにはカメラや携帯端末を構えた女子職員が群れを成していた。
「元気だからね!あとでまた鮭を食べようね」
「わう!」
元気に答えるグレゴリウス16世に安心したようにシャムは歩き続ける。アイシャはわざとカメラを向ける職員の間に立ってにこやかに歩き続けていた。
「アイシャ!遅刻するわよ」
仕方なく振り返るサラ。アイシャもようやく笑みを少しだけ残しながらグレゴリウス16世の巨体に向けて走り出した。
「あんた……本当に大丈夫なの?」
サラの再びの言葉に追いついたアイシャは不満そうに口を尖らせる。その光景が面白かったのでシャムは笑みを浮かべるとそのままグレゴリウスにまたがった。
「先行ってるね」
それだけ言い残すとグレゴリウス16世は走り出した。巨体に似合わず隣の工場の周回道路を走るトレーラーを追い抜くスピードで走り続けるグレゴリウス。そしてそのままシャムは部隊の通用口のゲートの前にまでやってきた。
「ごきげんよう」
和服の女性が高級乗用車から顔を出す。
「茜ちんおはよう!」
シャムは元気に挨拶を返す。上品な笑みでそれを受け流すと司法局実働部隊と同じく遼州同盟司法局の捜査機関である法術特捜の責任者、嵯峨茜警視正はそのまま車を走らせた。
「中尉、お弁当は?」
「買ったよ!これ」
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