レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
704 / 1,557
第5章 帰郷

暇つぶし

しおりを挟む
「西園寺!」 

 カウラは食堂から出て行こうとするかなめの腕を握り締めた。ばつが悪そうに頭を掻くかなめを誠とアイシャはちらりと横目で見た。

 誠の前にはサーフェイサーで下準備を済ませた組みかけの女子校生のフィギュアがあった。久しぶりのフィギュア製作。もしもこれが謹慎中の暇つぶしでなければそれなりに楽しむことが出来たと思う。一方でアイシャは誠に下塗りをしてもらったアニメの五体合体ロボの仮組をしていた。

「焦ったってしょうがないじゃないの……それともなに?吉田少佐の知り合いのプロデューサーでも捕まえて絞り上げるつもり?一般人にご迷惑をかけてもしょうがないじゃないの。少佐はちゃんと仕事はしている。契約上、例え何日欠勤しようが文句は言えないのよ」 

 アイシャの小言にかなめはむくれた顔のままそのまま近くの椅子に体を置いた。明らかに不服。それは十分分かっている。しかし今は待つしかないのを一番分かっているのもかなめだと言うことは皆が知っていることだった。

 心理を読むことに優れた法術を持ち、独自の情報ルートで様々な情報を入手して売り渡す凄腕の情報屋の『預言者ネネ』。そんな彼女でも二日程度で有効な情報が得られるとはその道のプロであるかなめなら分かっているはずだった。だがそんなことを言っていられない状況ができあがりつつあった。

 カウラはかなめが落ち着いたのを見て取ると食堂の古めかしいテレビのスイッチを付けた。相変わらず流れているのは遼北人民共和国と西モスレム首長国連邦の軍事緊張のニュースだった。

 実力行使の及ぼうとした両国が同盟軍事機構のエース、アブドゥール・シャー・シン大尉のパイロキネシス能力の前に優秀なパイロットを消し炭にされたことで、とりあえずの正面衝突は避けられているものの、両者による外交的な挑発合戦は続いていた。

 西モスレムは化石燃料系の遼北とベルルカン大陸の親遼北諸国への限定的輸出制限を宣言し、対抗処置として遼北は国内の反政府活動家のイスラム宗教指導者を拘束した。緊張が始まってから遼州同盟会議は両国による非難の応酬で実質的な機能は麻痺しつつあった。

「これ……どこまで行くかな」 

 テレビを見ていたかなめがぼそりとつぶやく。ようやく身勝手な行動を諦めたようなかなめを見てカウラがテーブルの上に腕を組みながら話を始めた。

「根が深いからな。国境のカイエル川の中州……広さにしたら東都がすっぽり入る程度の広さだと言うが、それでも領土は領土だ。それに遼北の回教徒への圧迫には昔から西モスレムは不快感を隠していなかったからな。今回の西モスレムの越境行動で堪忍袋の緒が切れたんだろうが……」 

「だとしても私達には面倒な話ばかりね。もしこのままどちらかが同盟を離脱するとか言い出したら司法局は解散……私達、失業するかもよ」 

 ロボットらしい形を目の前に作って一息入れているアイシャがぼそりとつぶやく。確かに誠も同盟の主要国であるこの二国の一方が離脱という形になれば遼州同盟が空中分解することは容易に想像が出来た。

 だから何が出来るわけでもない。確かにこんな状況だからこそかなめが別に関心があるわけでもない吉田の捜索に夢中になるのも分かる気がしてきた。

「司法局解体……」 

 誠の言葉にアイシャは苦笑いを浮かべた。

「私はゲルパルト国防軍に戻ることになりそうね……あそこはネオナチを追い出したおかげでいつでも人手不足でヒーヒー言ってるから……カウラちゃんは東和軍?」 

「だろうな。おそらく陸軍だろう。士官養成課程は陸軍で受けているからな」 

 まるで同盟解体が既定路線のように語り始める二人。かなめはそれがいかにも気にくわないというように膨れた顔のままテレビの画面を眺めていた。

「同盟崩壊が決まった訳じゃないだろうが……」 

「もしもの話よ。いつだって最悪は訪れるものよ。こういう風に意固地になって民族主義に走り出した国がどうにも出来ないのはゲルパルトの例を見ればわかるでしょ?排外主義に突っ走ってどうしようもなくなってドカン。よくある歴史の一コマよ」

 淡々とそれだけ言うとアイシャは仮組みしたプラモデルをうっとりとした目で眺めた。今の誠達に何かが出来るわけもない。出撃命令の出ていない武装組織はただの民間人。いや、それよりも情報に精通しているだけにそれ以下の存在だと言うことがひしひしと誠にも感じられてきた。

「吉田の野郎がいれば……」

「いてどうするの?と言うかあの人がこの状況を知らないとでも思っているの? 私の勘だけど……この状況と吉田少佐の失踪には何か深い関係があるような気がするんだけど……」 

「アイシャ。そのくらいのことはここにいる誰もが分かっていることだ」 

 平然と自分の名案をカウラに切って捨てられてアイシャが肩を落として俯いた。その光景が面白かったので思わず誠はフィギュアの右腕を持ったまま吹き出す。すぐに顔を上げたアイシャが誠を睨み付けてくる。渋々誠は何もなかったことにして右腕をアレンジするとしたらどうするかと言うことを想像するようにプラスチックの部品を目の前にかざしてみた。

「まあこれから先は隊長の……いや、本局や同盟会議の首脳達の判断になるだろうからな。なんとか私達が動けるようにしてくれればいいのだけれど……」

 カウラは困ったような表情を浮かべてつぶやいた。彼女の気持ちは全員の気持ちだった。確かに自分達は現在つまらないことで停職中の身の上だった。そんな彼等でさえ現状はいても立ってもいられない状況。出勤していった隊員達がハンガーでこのニュースをどんな気持ちで聞いているかを想像すると逆に同情する気持ちすら芽生えてくる。

「まあ……世の中なるようにしかならねえよ!もし最悪を突き進めば遼北と西モスレムの全面核戦争。十億程度の人間が死んで終わり。同盟は瓦解し、地球の列強が隙間をついて各国にすり寄りベルルカン大陸は地球資本に浸食されて失敗国家がさらに失敗した社会になる。それだけの話だ」 

 そう吐き捨てるとかなめは立ち上がった。

「どこへ行く!」 

 カウラの強い語気に渋々振り返るかなめ。

「タバコだよ」 

 それだけ言うとかなめはそそくさと食堂を出て行った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...