837 / 1,557
第38章 教官の教え
ムカデのエンブレム
しおりを挟む
「秋田。すべてはお前に任せるからそのつもりで」
安東貞盛はそう言うとヘルメットを被る。彼の率いるのは胡州陸軍第一強襲揚陸艦隊。主力は搭載されたアサルト・モジュール三式。どれも近年の慢性的な国家予算の不足から稼動する機体は多くは無かった。そんな彼が見つめた先のモニターの中には気の弱そうな初老の男の影が映っていた。
それは艦隊参謀の秋田義貞大佐。安東家の一族衆でも長老格になる男だった。
先の大戦で安東家の抑えるコロニー群羽州は大きな被害を出した。三度の直接攻撃と潜入部隊による破壊工作によりその人口の半分を失い終戦後の胡州での発言力は著しく衰えた。そしてそのことを憂える若い将校達が安東のところに集まったもの自然な出来事だった。国家予算規模に見合わない巨大な軍組織の縮小は彼等若手の将校達の身分を次々に奪い去った。羽州の修復中のコロニーには失業した軍人達が何をするわけでもなくたむろしている様をいつでも見ることができた。その光景は安東にとって屈辱以外の何物でもなかった。
烏丸頼盛には確かに自分の羽州相続に辺り尽力してくれた大恩があり、清原には軍へ復帰できた恩義もあった。それだけが安東をこうして親友赤松忠満討伐に向かわせたわけではなかった。この揚陸艦に乗る若いパイロットや技師達の生活。それを守ること。それが一番に安東に課せられた義務だと安東は思っていた。
「ですが貞盛君。本当にいいのか?」
一族衆の長老の顔に戻った秋田の一声が響く。その弱気な言葉に安東は激怒しそうになるのを無理に抑えるために深呼吸をした。秋田は過激な貴族至上主義を唱える清原に接近する安東を快く思っていないことは知っていた。いつかは胡州の貴族支配は瓦解する。それは誰もが予想していることだった。強大な軍事力で遼州星系に覇を唱えていた先の大戦の前の時代を境に胡州の経済状況は急激に悪化したまま戻ることは無かった。アステロイドベルトの資源は次第に枯渇し始め、胡州本星の開発も資本の投下をためらう東和に国家体制の矛盾を指摘されて行き詰まっていた。そんな状況でのゲルパルトなどと同盟を結んでの対地球戦争はそこにわずかに残っていた体制を支えるエネルギーすら胡州から奪い去ることになった。
安東も目端の利く秋田なら醍醐の地上部隊に協力するだろうと思い込んでいた。そんな秋田から揚陸艦隊の提供を申し出られたときは少しばかり面食らうことになったほどだった。
『結局彼も羽州軍人だったと言うことか』
そう思うと静かに秋田の映っていたモニターを消してヘルメットを被って背後に立つ巨大な赤い三式に向き直った。
向き直る安東を直立不動の姿勢で迎える教導部隊の生徒達。多くは平民の出で彼らからすれば自分達の行動が平民の権利を制限する戦いになると知っても彼等は安東についてきてくれていた。
「貴様等。本当にいいんだな」
あと数日で第三艦隊との決戦に挑む前の最後の模擬訓練。どの顔も緊張と焦りの中静かに安東を見つめてくる。安東の隣でニコニコと彼を見守っていた教導部隊の副隊長の小男がそのままの表情で部下達を眺める。
「大佐。うちにそんなことで大佐を裏切る奴はいませんよ」
『そんなこと』。それは秋田との会話のことを指すのだろうと思って安東は苦笑いを浮かべた。ここまで来てまだ上官が迷っている。本来ならそんなことは見せてはいけないと思うことをやってしまった自分に少しばかり恥じ入りながら苦笑いを浮かべる。
「自分達は……ただ安東教官についていくだけです!」
五分刈りの頭を振りながら戦闘に立つ曹長がそんな安東の苦笑いに答えるように叫んだ。部下達は誰もが大きく頷き安東の次の言葉を待っていた。
「これから模擬訓練に入る」
そう叫んだところでそれまで含み笑いなどを浮かべていた生徒達の表情が引き締まった。それに満足するように頷くと安東は言葉を続けた。
「訓練だと言ってもこれが実戦までの最後の訓練だ。被弾したら死んだと思え、命中させたら殺したと思え。それぞれに死力を尽くし勝利を目指す。これは訓練も実戦も変わらん」
ここまで言ったところでシミュレータのセットアップをしていた技官達が現れる。訓示の最中と知ると厳しい表情でこれから各機体のシミュレーション機能を使用しての最後の訓練を行なう生徒達を眺めていた。
「諸君等は今回の戦いでは私の部下として百足(むかで)のエンブレムを背負うことになる。別にそれは誇りでも権威でもない。ただ俺のエンブレムを背負えば敵もひるむ。面白いことだが俺は赤松の手下連中にはかなり恐れられているんだそうだ。諸君が俺の顔をつぶさない限り相手はいつでもひるんでいると思え」
その言葉に生徒達は大きく頷いた。
「それでは各機搭乗準備に向かえ!」
この安東の一言で生徒達はハンガーに散った。安東もまた自分の赤黒い機体に向けてゆっくりと歩き出した。
安東貞盛はそう言うとヘルメットを被る。彼の率いるのは胡州陸軍第一強襲揚陸艦隊。主力は搭載されたアサルト・モジュール三式。どれも近年の慢性的な国家予算の不足から稼動する機体は多くは無かった。そんな彼が見つめた先のモニターの中には気の弱そうな初老の男の影が映っていた。
それは艦隊参謀の秋田義貞大佐。安東家の一族衆でも長老格になる男だった。
先の大戦で安東家の抑えるコロニー群羽州は大きな被害を出した。三度の直接攻撃と潜入部隊による破壊工作によりその人口の半分を失い終戦後の胡州での発言力は著しく衰えた。そしてそのことを憂える若い将校達が安東のところに集まったもの自然な出来事だった。国家予算規模に見合わない巨大な軍組織の縮小は彼等若手の将校達の身分を次々に奪い去った。羽州の修復中のコロニーには失業した軍人達が何をするわけでもなくたむろしている様をいつでも見ることができた。その光景は安東にとって屈辱以外の何物でもなかった。
烏丸頼盛には確かに自分の羽州相続に辺り尽力してくれた大恩があり、清原には軍へ復帰できた恩義もあった。それだけが安東をこうして親友赤松忠満討伐に向かわせたわけではなかった。この揚陸艦に乗る若いパイロットや技師達の生活。それを守ること。それが一番に安東に課せられた義務だと安東は思っていた。
「ですが貞盛君。本当にいいのか?」
一族衆の長老の顔に戻った秋田の一声が響く。その弱気な言葉に安東は激怒しそうになるのを無理に抑えるために深呼吸をした。秋田は過激な貴族至上主義を唱える清原に接近する安東を快く思っていないことは知っていた。いつかは胡州の貴族支配は瓦解する。それは誰もが予想していることだった。強大な軍事力で遼州星系に覇を唱えていた先の大戦の前の時代を境に胡州の経済状況は急激に悪化したまま戻ることは無かった。アステロイドベルトの資源は次第に枯渇し始め、胡州本星の開発も資本の投下をためらう東和に国家体制の矛盾を指摘されて行き詰まっていた。そんな状況でのゲルパルトなどと同盟を結んでの対地球戦争はそこにわずかに残っていた体制を支えるエネルギーすら胡州から奪い去ることになった。
安東も目端の利く秋田なら醍醐の地上部隊に協力するだろうと思い込んでいた。そんな秋田から揚陸艦隊の提供を申し出られたときは少しばかり面食らうことになったほどだった。
『結局彼も羽州軍人だったと言うことか』
そう思うと静かに秋田の映っていたモニターを消してヘルメットを被って背後に立つ巨大な赤い三式に向き直った。
向き直る安東を直立不動の姿勢で迎える教導部隊の生徒達。多くは平民の出で彼らからすれば自分達の行動が平民の権利を制限する戦いになると知っても彼等は安東についてきてくれていた。
「貴様等。本当にいいんだな」
あと数日で第三艦隊との決戦に挑む前の最後の模擬訓練。どの顔も緊張と焦りの中静かに安東を見つめてくる。安東の隣でニコニコと彼を見守っていた教導部隊の副隊長の小男がそのままの表情で部下達を眺める。
「大佐。うちにそんなことで大佐を裏切る奴はいませんよ」
『そんなこと』。それは秋田との会話のことを指すのだろうと思って安東は苦笑いを浮かべた。ここまで来てまだ上官が迷っている。本来ならそんなことは見せてはいけないと思うことをやってしまった自分に少しばかり恥じ入りながら苦笑いを浮かべる。
「自分達は……ただ安東教官についていくだけです!」
五分刈りの頭を振りながら戦闘に立つ曹長がそんな安東の苦笑いに答えるように叫んだ。部下達は誰もが大きく頷き安東の次の言葉を待っていた。
「これから模擬訓練に入る」
そう叫んだところでそれまで含み笑いなどを浮かべていた生徒達の表情が引き締まった。それに満足するように頷くと安東は言葉を続けた。
「訓練だと言ってもこれが実戦までの最後の訓練だ。被弾したら死んだと思え、命中させたら殺したと思え。それぞれに死力を尽くし勝利を目指す。これは訓練も実戦も変わらん」
ここまで言ったところでシミュレータのセットアップをしていた技官達が現れる。訓示の最中と知ると厳しい表情でこれから各機体のシミュレーション機能を使用しての最後の訓練を行なう生徒達を眺めていた。
「諸君等は今回の戦いでは私の部下として百足(むかで)のエンブレムを背負うことになる。別にそれは誇りでも権威でもない。ただ俺のエンブレムを背負えば敵もひるむ。面白いことだが俺は赤松の手下連中にはかなり恐れられているんだそうだ。諸君が俺の顔をつぶさない限り相手はいつでもひるんでいると思え」
その言葉に生徒達は大きく頷いた。
「それでは各機搭乗準備に向かえ!」
この安東の一言で生徒達はハンガーに散った。安東もまた自分の赤黒い機体に向けてゆっくりと歩き出した。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~
和田真尚
ファンタジー
戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。
「これは神隠しか?」
戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎
ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。
家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。
領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。
唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。
敵対勢力は圧倒的な戦力。
果たして苦境を脱する術はあるのか?
かつて、日本から様々なものが異世界転移した。
侍 = 刀一本で無双した。
自衛隊 = 現代兵器で無双した。
日本国 = 国力をあげて無双した。
では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――?
【新九郎の解答】
国を盗って生き残るしかない!(必死)
【ちなみに異世界の人々の感想】
何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!
戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?
これは、その疑問に答える物語。
異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。
※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる