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第20章 決戦前日
墓参り
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「お参りするの? 」
静かに訪ねてくるシャムの帽子がずれているのに気付いて、クリスはそれを直してやった。
「おとうが見てるからね。それにグンダリも 」
「グンダリ? それは君の刀の名前じゃないのか? 」
クリスのその言葉に静かに視線を落としてしまうシャム。彼女は隣の墓を指差した。
「これがグンダリの墓。アタシの初めての友達 」
シャムの瞳が潤んでいるのがわかった。
シャムは腰の帯から刀を抜いた。彼女の130cmに満たない身長にちょうど良く見える小ぶりな剣である。
「クリス達が来た森あるでしょ? 」
シャムは北に見える森を眺めた。クリスも釣られてその深い緑色の山を見上げた。
「アタシはねずっとあの森で一人で居たんだ 」
「どれくらい…… 」
そう言いかけたクリスを制するようにシャムは言葉を続けた。
「数えたこと無いからわからないくらい長い間ずっと一人だったの。昔ね、女王様からこの森を守るように言われて、ずっと一人でいたんだ。それが当たり前だと思っていたし、困らなかったからね 」
シャムはそう言いながら剣を撫でた。
「でもある日、おとうに会ったんだ。おとうは怪我をしていたんだよ、足を挫いたって言ってた。アタシは看病してあげたんだ。そしたらうちに来ないかって言われて。でも約束があるからって言ったんだけど、寂しいだろって言われて…… 」
「寂しかったのかい? 」
そんなクリスの言葉に、静かにシャムは頷いた。
「それでこの村に来たの 」
クリスはシャムの言葉に当時のこの村の姿に思いをはせた。見慣れた山岳民族の部落である。遼州羊やジャコウウシが群れを成して歩き回り、子供が笑い、女達が機を織るありきたりな村。そんな村の暮らしがあったのだろうということは、壁が崩れ、柱が倒れ、屋根が抜けた民家の残骸を見れば簡単に想像がついた。
「村でね。はじめは誰もあたしと喋ってくれなかったの。鬼だとか魔物だとか。会うときは笑っているんだけど、おとうのいない所ではみんなおとうの気まぐれだって笑ってたんだ。みんなアタシが一人でいると逃げ出しちゃうし…… 」
「でも友達が出来たんだろ? 」
クリスが水を向けてやると、シャムの顔に笑顔が戻った。
「グンダリは違ったから、他の子供とは。アタシが笛を落として泣いていたんだよ。そしたら『これ、アンタのだろ? 』って。それで一緒に話すようになったんだ 」
腰の横笛を撫でてシャムは笑う。
「グンダリは村長の娘だったんだ。いろんなことを教えてくれたよ。テレビを見せてくれたのもグンダリだったんだ。村にはテレビは村長の家と学校にしかなくて。学校のテレビは触っちゃいけないって言われてたけど、グンダリのテレビはアタシも見てもいいって言ってくれたんだ 」
嬉しそうに話すシャムの姿にクリスは釣られるようにして微笑んだ。
「でもね。三度目の春を迎えた時、兼都に落ち延びられたラスコー陛下が挙兵なさると言うことで大人はみんな銃を持つようになったんだ。おとうもクロームナイトを持ってきて北兼帝に従うって言ってたんだけど…… 」
そこまで話したところでシャムは下を向いてしまった。
兼州離宮に押し込められ身動き取れなかったムジャンタ・ラスコーは父カバラの治世に不満を持つ軍人・官僚に担がれて北兼の独立を宣言し、武遼帝を名乗った。央都で立った遼南皇帝ムジャンタ・カバラは軍備の増強に努める遼北の侵攻を恐れるあまり、制圧を優先して非道とも言える作戦を取った。
何百と言う村が無差別に焼かれた。北兼に組したものは乳飲み子に至るまですべてを殺しつくしたその作戦はアメリカをはじめとする地球諸国との断交と言う抗議を受けるほどに問題を複雑化させることになった。その後、遼南は反地球の立場を取るゲルパルト・胡州の連合に支援を仰ぎ、地球との全面戦争にひた走っていく元凶ともなったこの戦い。
しかし、ここでクリスは気付いた。
兼州崩れと呼ばれたこれらの騒乱は、北兼帝であるムジャンタ・ラスコー、今の嵯峨惟基が14歳の時の戦いである。今、その張本人は36歳、すでに娘まで抱えている。しかし、目の前にいるシャムはどう控えめに見ても10歳に見えるかどうかと言うところだった。
「シャム。君は…… 」
不老不死。三百年ほど前、地球人がこの星に植民を始めた頃にこの星に住む地球人が始めて出会った知的人類『リャオ 』と名乗る人々にはそんな言い伝えがあったことをふと思い出した。東アジア動乱で故国を追われたアジアの難民。彼等がこの地に捨てられるようにたどり着いた頃、あたかも事実のように流行した都市伝説。『リャオ 』、現在では遼州人と呼ばれる人々には不老不死の存在がいるとの都市伝説があった。
だが、それはただのデマだったことは三百年と言う時間がそれを証明していた。それでも伝説としていくつかの不死伝説が無いでは無かった。棄民政策で冷遇された地球系移民と迫害された『リャオ 』の人々は胡州のテラフォーミング機関防衛の軍である胡州派遣地球軍の司令であり、後の胡州帝国四大公の一つ大河内家初代、松平忠吉中将と連携し地球からの独立を掲げて決起した。その中心に一人の巫女がいた。
彼女は七人の騎士と呼ばれた家臣と胡州駐留軍提督松平中将の支援を得てアメリカ・ロシア・フランス・イギリスの同盟軍を撃破、遼州星系は地球の植民惑星としては初めての独立国となった。その独立協定締結の三年後、巫女である初代遼南皇帝、ムジャンタ・カオラは娘のレミを残して行方をくらませた。七人の家臣も一人文官として彼女を支えた後に西園寺家、烏丸家、嵯峨家に別れることになる胡州大公藤(ふじ)原基(わらもとい)以外の六人が時を同じくして姿を消したと言う。
遼州人なら誰でも知っているその伝説。そして今でもカオラはこの地を経巡り、彼等を見守っていると言う伝承。
「そう言えば君は…… 」
そうクリスが切り出そうとしたところで背中に気配を感じて振り返った。
静かに訪ねてくるシャムの帽子がずれているのに気付いて、クリスはそれを直してやった。
「おとうが見てるからね。それにグンダリも 」
「グンダリ? それは君の刀の名前じゃないのか? 」
クリスのその言葉に静かに視線を落としてしまうシャム。彼女は隣の墓を指差した。
「これがグンダリの墓。アタシの初めての友達 」
シャムの瞳が潤んでいるのがわかった。
シャムは腰の帯から刀を抜いた。彼女の130cmに満たない身長にちょうど良く見える小ぶりな剣である。
「クリス達が来た森あるでしょ? 」
シャムは北に見える森を眺めた。クリスも釣られてその深い緑色の山を見上げた。
「アタシはねずっとあの森で一人で居たんだ 」
「どれくらい…… 」
そう言いかけたクリスを制するようにシャムは言葉を続けた。
「数えたこと無いからわからないくらい長い間ずっと一人だったの。昔ね、女王様からこの森を守るように言われて、ずっと一人でいたんだ。それが当たり前だと思っていたし、困らなかったからね 」
シャムはそう言いながら剣を撫でた。
「でもある日、おとうに会ったんだ。おとうは怪我をしていたんだよ、足を挫いたって言ってた。アタシは看病してあげたんだ。そしたらうちに来ないかって言われて。でも約束があるからって言ったんだけど、寂しいだろって言われて…… 」
「寂しかったのかい? 」
そんなクリスの言葉に、静かにシャムは頷いた。
「それでこの村に来たの 」
クリスはシャムの言葉に当時のこの村の姿に思いをはせた。見慣れた山岳民族の部落である。遼州羊やジャコウウシが群れを成して歩き回り、子供が笑い、女達が機を織るありきたりな村。そんな村の暮らしがあったのだろうということは、壁が崩れ、柱が倒れ、屋根が抜けた民家の残骸を見れば簡単に想像がついた。
「村でね。はじめは誰もあたしと喋ってくれなかったの。鬼だとか魔物だとか。会うときは笑っているんだけど、おとうのいない所ではみんなおとうの気まぐれだって笑ってたんだ。みんなアタシが一人でいると逃げ出しちゃうし…… 」
「でも友達が出来たんだろ? 」
クリスが水を向けてやると、シャムの顔に笑顔が戻った。
「グンダリは違ったから、他の子供とは。アタシが笛を落として泣いていたんだよ。そしたら『これ、アンタのだろ? 』って。それで一緒に話すようになったんだ 」
腰の横笛を撫でてシャムは笑う。
「グンダリは村長の娘だったんだ。いろんなことを教えてくれたよ。テレビを見せてくれたのもグンダリだったんだ。村にはテレビは村長の家と学校にしかなくて。学校のテレビは触っちゃいけないって言われてたけど、グンダリのテレビはアタシも見てもいいって言ってくれたんだ 」
嬉しそうに話すシャムの姿にクリスは釣られるようにして微笑んだ。
「でもね。三度目の春を迎えた時、兼都に落ち延びられたラスコー陛下が挙兵なさると言うことで大人はみんな銃を持つようになったんだ。おとうもクロームナイトを持ってきて北兼帝に従うって言ってたんだけど…… 」
そこまで話したところでシャムは下を向いてしまった。
兼州離宮に押し込められ身動き取れなかったムジャンタ・ラスコーは父カバラの治世に不満を持つ軍人・官僚に担がれて北兼の独立を宣言し、武遼帝を名乗った。央都で立った遼南皇帝ムジャンタ・カバラは軍備の増強に努める遼北の侵攻を恐れるあまり、制圧を優先して非道とも言える作戦を取った。
何百と言う村が無差別に焼かれた。北兼に組したものは乳飲み子に至るまですべてを殺しつくしたその作戦はアメリカをはじめとする地球諸国との断交と言う抗議を受けるほどに問題を複雑化させることになった。その後、遼南は反地球の立場を取るゲルパルト・胡州の連合に支援を仰ぎ、地球との全面戦争にひた走っていく元凶ともなったこの戦い。
しかし、ここでクリスは気付いた。
兼州崩れと呼ばれたこれらの騒乱は、北兼帝であるムジャンタ・ラスコー、今の嵯峨惟基が14歳の時の戦いである。今、その張本人は36歳、すでに娘まで抱えている。しかし、目の前にいるシャムはどう控えめに見ても10歳に見えるかどうかと言うところだった。
「シャム。君は…… 」
不老不死。三百年ほど前、地球人がこの星に植民を始めた頃にこの星に住む地球人が始めて出会った知的人類『リャオ 』と名乗る人々にはそんな言い伝えがあったことをふと思い出した。東アジア動乱で故国を追われたアジアの難民。彼等がこの地に捨てられるようにたどり着いた頃、あたかも事実のように流行した都市伝説。『リャオ 』、現在では遼州人と呼ばれる人々には不老不死の存在がいるとの都市伝説があった。
だが、それはただのデマだったことは三百年と言う時間がそれを証明していた。それでも伝説としていくつかの不死伝説が無いでは無かった。棄民政策で冷遇された地球系移民と迫害された『リャオ 』の人々は胡州のテラフォーミング機関防衛の軍である胡州派遣地球軍の司令であり、後の胡州帝国四大公の一つ大河内家初代、松平忠吉中将と連携し地球からの独立を掲げて決起した。その中心に一人の巫女がいた。
彼女は七人の騎士と呼ばれた家臣と胡州駐留軍提督松平中将の支援を得てアメリカ・ロシア・フランス・イギリスの同盟軍を撃破、遼州星系は地球の植民惑星としては初めての独立国となった。その独立協定締結の三年後、巫女である初代遼南皇帝、ムジャンタ・カオラは娘のレミを残して行方をくらませた。七人の家臣も一人文官として彼女を支えた後に西園寺家、烏丸家、嵯峨家に別れることになる胡州大公藤(ふじ)原基(わらもとい)以外の六人が時を同じくして姿を消したと言う。
遼州人なら誰でも知っているその伝説。そして今でもカオラはこの地を経巡り、彼等を見守っていると言う伝承。
「そう言えば君は…… 」
そうクリスが切り出そうとしたところで背中に気配を感じて振り返った。
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