レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,064 / 1,557
第26章 トラブルだらけの日常

職場は『生態系』

しおりを挟む
 機動部隊詰め所の電話が鳴った。下っ端である自覚のある誠が電話を取る。

「はい!司法局実働部隊!」

 とりあえず最低でも元気だけは周りの女性陣に見せつけようと、誠は受話器に向けて元気よく叫んだ。

『あのー、豊川署なんですけどね……』

 誠の叫びにうんざりしたような調子で中年男性の声が誠の耳に届く。

「豊川署?警察ですか?」

 突然の県警からの電話にうろたえながら誠は答えた。

『そちらにクバルカ・ランさんと言う方が居られると思うのですが……』

 遠慮がちな警察官と思われる声に誠はハッとして機動部隊長の机で将棋盤をにらみつけているランに目を向けた。

「ああ、豊川署か?代われ」

 まるで相手が分かっているかのようなランの態度を不審に思いながら誠は内線の転送ボタンを押した。

「また……島田だよ」

「アイツには学習能力が無いのか?」

 かなめとカウラは誠の受けた電話の要件が分かっているかのようにそうつぶやいた。

「島田先輩……警察に知り合いでもいるんですか?」

 誠の間抜けな問いに二人は大きくため息をつく。

「まあいるというかなんというか……島田の野郎には『私有財産』という概念がねえんだ」

「『私有財産』と言う概念が無い?」

 誠はかなめの言葉の意味が分からずオウム返しでそうつぶやいた。

「島田の手癖の悪さは一級品だからな……」

「それって万引きでもしたんですか?」

 誠は呆れた表情のカウラにそう尋ねた。

「万引きはやめたそうだが……バイクとか自動車とかをだな……」

「バイク?自動車!」

 コンビニでガムやジュースを盗むのならいざ知らず、盗むものがバイクや自動車となってくるとさすがに大事だと思って誠はそう叫んでいた。

「違法駐車のバイクや自動車を『移動してやった』と言ってうちの寮の駐車場まで乗ってっちゃうんだよ、あの馬鹿は。それでいて本人に全く悪気が無いってこと。ちゃんとその場に自分の携帯の番号と寮の住所を書いたメモまで残すんだぜ。当然こういう騒ぎにはなるわな」

 かなめの言葉に誠は言葉も無かった。

「その度に中佐が身元引受人として出向くわけだ……アイツのピッキング技術とポケコンを駆使したロック解除はプロ級だからな……」

「でも窃盗ですよね」

 カウラにそう言ってみるがこの『特殊な部隊』ではそんな社会の常識は通用しないようだった。

「おう、行ってくるわ」

 警察官との会話を終えたランがそう三人に話しかけた。

「そのうち本当に起訴されんぞ。アイツ」

 かなめの言葉にランは半分呆れながら詰め所を出て行った。

「そんなにしょっちゅう盗むんですか?」

 誠はあまりに日常的な光景としてこの一連の事件が処理されていくのを不審に思いつつそう尋ねた。

「これで五度目だ。毎回、中佐の機転で何とかなってるが……」

「機転?」

 カウラの困った顔に誠は首をひねる。

「取調室に怒鳴り込むなりぶん殴ったり蹴ったりして『落とし前をつけろ』とか言ってなたを借りようとするんだ」

「鉈なんて……何をするんです?」

 誠はニヤニヤ笑いながらそう言うかなめに困惑した表情を浮かべた。

「小指を落とすんだと。『エンコ出せ!』とか『手首で勘弁してやる!』とか言って大芝居を打つと大体そのまま釈放になるわけだ……被害者の方は被害者の方で元々違法駐車で警察に見つかったらレッカー代に違反金取られるところだから。その分金が浮くから意地でも起訴するって言う被害者が居ねえんだ」

 かなめはそう言いながら腕組みをしてうなづく。

「島田先輩がクバルカ中佐の下でしか働けない理由が分かりました」

「そうだろ?うちは一種の『生態系』なんだ。ちなみにクバルカ中佐も……」

「中佐が何を?」

 カウラの言い得て妙な言葉とランのことが気になって尋ねる誠にかなめは首をすくめる。

「ランの姐御は被害者の方、あれ……特殊詐欺ってあるじゃん」

 誠はとりあえずあのかわいらしい中佐殿が加害者でないことに胸をなでおろした。

「家族に成りすましたりするアレですか?あんなのに引っかかるんですか?」

「そうだな。中佐のおつむは……『義理と人情の2ビットコンピュータ』だから」

「なんですそれ?」

 カウラの奇妙なラン評に誠は身を乗り出して尋ねる。

「電話で人情がらみの泣き落としとかされると一発で騙されるんだ。家族に成りすまして会社の金をなくしただの妊婦を車で轢いただの言う電話がかかってくると一発で騙される……家族もいないのにな」

「それって……『馬鹿』ってことですよね」

 いくら社会常識の欠如した誠でも自分の上司がそんな雀並みの脳味噌の持ち主だとは思いたくなかった。

「だから姐御の携帯には登録した番号以外着信拒否する設定になってんだ……他にも叔父貴が色々と手をまわして何とか特殊詐欺の被害にあわない工夫をしてるわけ。だから姐御も叔父貴の部下しか務まらねえの」

「そんなもんですか……」

 ランの意外な弱点を知って誠は彼女も人間なのだと分かってなぜかホッとしていた。

 そして島田の小指が無事に部隊に戻ってくるように切に願う誠だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...