レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,073 / 1,557
第29章 不吉なる演習場

遼州の『魔界ルール』

しおりを挟む
 二十分後の隊長室ではちょっとした会議が開かれていた。

「……とりあえず、神前の野郎に関心を持っている国家、武装勢力は以上になります」

 いつものように、実働部隊隊長室は雑然としていた。

 ランは隣の技術部・情報課長の若い男性大尉が話し終わるのをその隣で見守っていた。

「ふうん、そう。俺の予想通りかな……いや、ちょっと少ないか」 

 嵯峨はそういうと手にしている茶碗をじっと見つめている。その表面の凹凸に視線を投げながら、ランと男性大尉を無視しているような態度でそう言った。

「つまりアレだろ?結論は、『どこが神前の素性に最初に気づいたかわかんねえ』と言うことなんだろ?回りくどいのはやめようや」

そう言うと嵯峨は苦笑いを浮かべながら顔を上げた。

「地球圏の政府には、遼州同盟の偉いさんからお手紙を出したそうだが……『最強の営利企業』のマフィアの親分さん達のことだ。神前の身柄の確保を地球圏で一番最初に頼んだ連中の名前は絶対出てこないだろうな」 

 嵯峨はそう言うと、執務机の端に置かれたポットを手元に引き寄せる。

「地球連邦を支える各国家の諜報組織や各惑星系国家の治安関係組織は当然動きますよね。遼州同盟加盟国でも『ゲルパルト連邦共和国』や『甲武国』は当然として『外惑星連邦』をはじめとする前の戦争の『連合国』まで確かに動いてはいますが……どこが最初に動いたかとなるとこれが……」

 急須にポットのお湯を注ぎながら、嵯峨は黙って男性大尉の言葉を聞いていた。

 『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐は、黙って腕組みをして二人の会話を聞いていた。

「どれも動くタイミングとかがばらばらで、何処が主導権を握っているのやら見当がつかない有様で……」

 情報将校用の大型のタブレットを手にした大尉はそう言って頭を掻く。

「まあ生きたままで、『特殊な部隊』の部隊員を拉致するなんて、元々失敗する可能性は大きかったからねえ。成功不成功に関わらず、依頼元がばれないように細工をする準備ができていたんだろ?失敗しても神前に興味を持っている勢力がうじゃうじゃいるからね。そっちを言い出しっぺに仕立てて、自分は知らん顔……大人なんてそんなもんでしょ」

 相変わらず嵯峨はラン達に視線を合わせず、急須のお茶を湯呑に注いでいた。

「連中は神前の『素性』に『関心がある』と俺に示して見せるだけで十分だと考えているんじゃない?俺が何を始めるかまだ分からない。そもそもこの部隊が何のためにあるのか理解できない。そんなところじゃないかなあ」

 茶碗にある程度茶を注ぐと、ようやく嵯峨は視線をランに向けた。

「隊長は。この『馬鹿騒ぎ』を始めた馬鹿の目星がついてんじゃねーか?」 

 腕組みをしながらランはそう言ってにやりと笑う。

 しかし、嵯峨は全く答えずに淡々とお茶を飲んだ。

「ああ、苦すぎ」

 そう言うと嵯峨は渋い顔をして茶碗を机に置いた。

「俺は各方面に神前の『能力』を、あることないことバラまいているのに、それを信じて動く『馬鹿』が結構いる。しかも、そいつらは日常的にはオカルトとかとは無縁な連中だ。なんだってそんなこと信じて動くのかわからんなあ……」

 そんな『情報通の脳ピンク』はエロ本の山から、『甲武国』銘菓の入った箱を引っ張り出す。

「『地球人』はマジで俺達『遼州人』は『魔法使い』とか『超能力者』だと信じてるのかな?『中佐殿』。お得意の何とかいう『魔法のステッキ』で宇宙の平和のためにも連中を滅ぼしちゃってよ。できそうじゃん、お前さんなら」

 そう言う嵯峨の顔が真顔なだけにランもたまらず吹き出しそうになった。

「まあお前さんの戸籍上の年齢は34歳だけど、どう見ても8歳女児だし。『地球人』からしたら、理解不能じゃん、俺もお前さんも見た目が若すぎて」

 『甲武・京八つ橋』と書かれた箱。それを開けた嵯峨はそう言って中の菓子を取り出し、口に運ぶ。

「アタシの『魔法のステッキ』の白鞘『関の孫六』は地球製だ。作者の子孫を滅ぼしたら祟られるだろ」

 ランはあっさりそう言って嵯峨の提案を断った。

「『地球人』は『遼州星系』と関わって、遼州人の『ゲリラ戦法』で『痛い目を見た』のは歴史的事実なんだけどさ。そん時、俺達遼州人が使った『魔界ルール』は地球人と遼州人はお互いそんなことは『無かった』ってことで手打ちになってるんだからねえ……今更蒸し返されても迷惑なだけの話だよ」

 『八つ橋』を食いながら嵯峨はお茶を飲んだ。

「その点、遼州同盟の加盟国は『元地球人』の国も『遼州人』の国も『効率的』に俺の痛いところを突いてくるわ。困ったもんだ。『法術師』の軍事利用を禁止する法案の素案が俺の手元に届いちゃってね。遅かれ早かれオカルトが現実にすり替わるのを見越してるんだ……なかなかやってくれるよ」

 そう言うと嵯峨は隊長の巨大な机の上の一冊の冊子を取り出して二人の部下に示して見せた。

「……まあこっちも『法術の軍事利用』なんてするつもりはねえんだけどさ……でも動きにくくなるね……軍人としては。俺、一応、甲武国の陸軍に籍あるし」

 ランは目の前の『自分は46歳バツイチ』とひたすら主張する、自称する年齢より明らかに若い『駄目人間』の馬鹿行動を見守っていた。その表情は自分の上司の馬鹿さ加減にうんざりしているようなものだった。

「まあ踊った一部の地球の馬鹿の中に意外と神前の『素性』について正確に把握してる奴もいるみたいなんだよね。特にアメリカとか……あそこの軍は『法術師』の研究が進んでるからな……当然だよね。俺が身をもって教えてやったんだから。知らない方がどうかしてる」

 嵯峨は口に二つ目の菓子をくわえたまま、二人の部下を『鋭い視線』で射抜いた。

「結局、アタシ等の『法術』は、いつオープンにするんだ?もうどこの国もかん口令が効かないことくらい分かってきてると思うぞ。マスコミだってそんなに馬鹿じゃない」

 旨そうに菓子を食う『プライドゼロ』に呆れながらランはそう言った。

「神前の誘拐を企てた連中が出てくるぐらいだから……遠くはねえだろうな。まあ、俺と『偉大なる中佐殿』の年齢と見た目のギャップに……誰でも気づくわな、何かおかしいって」 

『そんなのあんた等の免許証を見たら、誰でも気づくわ!』

 見た目が『若すぎる』上官二人のやり取りから取り残された、情報課課長の男性大尉は思った。『駄目中年を演じる演劇サークルの大学生』と『軍人のコスプレの小学校2年生』。誰が見てもそのようにしか見えない。

「じゃあ、報告ありがとうね。俺も言いたいこと言ってすっきりしたから。これから決裁書のシャチハタ押すお仕事に入るんで」

 嵯峨はそう言うと立ち上がり、山と積まれた書類の箱に手を伸ばした。

「神前は立派な『営業成績第一主義の会社の体育会系営業マン』が務まるように鍛え上げてやんよ。アイツは危険物取扱免許のⅠ種も持ってるからな。化学品メーカーの営業位ならすぐに務まるようにしてやる」

 自分よりはるかに長身の情報課課長を従えて、ランは隊長室を出ていく。

 そんな完全に誠の教育方針を『勘違い』した言葉を残して。

「なんだかなあ……まあ、食い扶持には困らねえみたいだから、それはそれで神前にとってはいいことかもしんないけどさ……危険物のⅠ種って……あれ取るの結構大変だって聞くよ……よく就職先決まらなかったもんだな」

 嵯峨はそう言うと書類の束を脇に押しやって二人が入ってくる前に読んでいた通俗雑誌に手を伸ばしかけた手を止めて、再び書類の束を引き寄せて大きくため息をついた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...