レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第41章 戦地

見る前に跳べ

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『神前……死ぬ気か?』

 鈍重な05式とは思えない進行速度で進む誠に向けてクバルカ・ラン中佐はそう冷たく言い放った。

「死なないんでしょ?僕は遼州人ですから死なないんじゃないですか?」

 誠はやけになってそう言った。『那珂』から射出されたミサイルがかなめの周囲に向かう軌道を進んでいる。

『死ぬな、オメーは……だけど、今回は死なねーんだ。『05式特戦乙型』に乗ってるかんな。それにさっき言ったようにアタシがオメーを守るから……まー気の済むようにしな』

 ランの冷静なことばを無視して誠は光学迷彩が解けてきたかなめ機の前に飛び出した。

「僕が居れば大丈夫です!今のうちに後退を!」

『間に合うかよ……』

 二人の眼前でミサイルが炸裂する。さらに『那珂』の主砲の不確実な射撃により誠機、西園寺機は爆炎に包まれた。

 誠は死ぬと思っていた。

 たとえ、『ビッグブラザー』の加護とやらで『那珂』が沈んだとしても、ミサイルの爆発と戦艦の主砲の直撃に耐えるほどの装甲が自分の機体にあるとは思えなかった。

 画面が爆発に包まれた瞬間、誠は恐怖から目をつぶった。

 だが、轟音が響くばかりで何も起きなかった。

 コックピットは無事。全天周囲モニターの脇の画面に映るヘルメットを外したかなめの姿も少し乱れた程度だった。

「僕……死ぬんじゃなかったんですか?」

 爆発が収まった段階で誠は何でも知っていそうな自分でも認めた永遠の8歳女児、クバルカ・ラン中佐に声をかけた。

『今回は死なねーんだ。なぜかと言うとオメーも『法術師』だから。完全な『法術師』のアタシに比べるとまだまだだけどな。目の前見てみ』

 ランはそう言って顎をしゃくってモニターの前を見るように誠に促した。

 銀色の鏡状の板が誠とかなめの機体を覆っていた。

「これ……何ですか?」

 誠には理解できなかった。この銀色の壁が誠とかなめを守ったらしい。そのことだけは誠にも推測が付いた。

『それがオメーの『科学では理解できない』力だ。アタシ等は『干渉空間』と呼んでる。アタシの使える『空間転移』とは違う『距離』を無効化する特殊能力だ。まあ、使い方としては『異能力が作り出した最強の盾』としても使える便利な能力だな』

 ランの言葉を聞いて誠は思った。もう自分は後戻りできない『力』に目覚めてしまったということに気が付いた。

「僕は……僕はどうすれば!」

 誠はそう叫んだ。

 近藤一派の攻撃が効かないことは分かった。そして直接誠を攻撃できないことも分かっている。

 でも、それでは任務を完遂することはできない。

『神前。準備はできたぞ、跳べ』

 ランの突然の言葉に誠はいつもの通り困惑した。

「跳ぶ?……どうやって?」

 子供のように自分に尋ねてくる誠に子供のような姿のランは頭を掻いた。

『目の前の『干渉空間』に飛び込め!次に飛び出る場所は西園寺を狙った近藤の旦那のいる『那珂』のブリッジの前だ!見る前に跳べ!』

 ランの叫び声を聞いても誠はうろたえることしかできなかった。

「無茶ですよ!いきなり言われても!」

 反論する誠の機体のコックピットの全天周囲モニターの中に一人の女性が真剣な表情で誠を見つめる姿が映っていた。

 カウラだった。

『神前。貴様には人にない『力』がある!跳んでくれ!』

 はっきりと力強く彼女は誠にそう言った。

「ですけど……」

 口ごもる誠はそのまま視線をかなめの画面に向けた。

『今動けるのは中佐とテメエだけだ。中佐は最後の切り札だ。そいつを出したら次の出動に差し支えるんだ。テメエが決めろ』

 かなめの檄を受けて誠は目の前にある自分の作り出した『干渉空間』に目を向けた。

「本当に飛び込めば『那珂』のブリッジ前まで行けるんですね?」

 もう半分やけくそだった。他の人ならかっこよく覚悟を決めるところだが、誠にはそんな度胸は無かった。

『そうだ、アタシが座標を設定しといた。安心して跳べ。それと『ダンビラ』を引き抜いて、『那珂』のブリッジ前で『つるぎよ!』と念じながら叫ぶといーことあんぞ』

 ランはそう言って風格のある笑みを浮かべた。どう見ても8歳女児のその『風格』に誠は苦笑いを浮かべた。

「うわー!」

 女性陣に強制されて、仕方なく誠は自分の生成した『干渉空間』に機体を突入させた。

 誠は『干渉空間』に突入するときに恐怖から目をつぶった。

 そして、目を開くとすでにそこには『那珂』のブリッジがあった。

 驚いている暇など誠には無かった。

「『ダンビラ』を引き抜いて!」

 先ほど上司のランから言われた通り、左腰に装備された高温式大型軍刀、通称『ダンビラ』を引き抜いた。

 誠は『那珂』のブリッジに目をやる。

 ブリッジでは目の前に突然現れた05式特戦乙型の姿に驚愕して混乱に陥っているようだった。

「『つるぎよ!』」

 誠はそう叫んで利き腕の左手を軸に一気に『那珂』のブリッジに斬りかかった。

 すぐに誠はその『異常』に気づいた。

 自分の叫び声とともに『ダンビラ』は青白い炎のように見えるものに包まれた。そしてそのままそれを振り上げ、一気に『那珂』のブリッジを右から左に払うように振ると、『那珂』のブリッジはその青白い炎に飲み込まれた。そして、誠が気が付いて『那珂』のブリッジのあった場所に目をやると、そこには爆炎を上げる『那珂』の船体があるばかりだった。

「嘘だろ……」

 誠にはそう言うのが精いっぱいだった。すぐに食道を胃からの内容物が湧き上がってくる感覚が誠を捉えた。

 とりあえずコックピットにエアーが満たされていることを確認すると誠は慌ててヘルメットを脱いだ。

 そのままシートの脇の小型コンテナから『エチケット袋』を取り出して嘔吐した。

 誠の機体の背後ではランとかなめが『那珂』の外に出てきていた近藤一派のアサルト・モジュール火龍を一機一機仕留めているところだった。

 胃の内容物を一通り吐いた誠は視線を標的に向けた。『那珂』の船体にはほとんど火が無いが、ブリッジは完全に消失していた。

『ハハハっハ。やっちゃいました』

 吐くものを吐いて落ち着いてきた誠は力なくそう言った。
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