レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第8章 海と特殊な部隊

平和な日常

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「西園寺さん!こんな波打ち際、やめてくださいよ!」

「島田じゃないんだから!俺、死にますって!」 

 着替えて来た誠がパラソルの下で海を見ているかなめ達のところで目にしたのは、首から下を砂に埋められてわめいている島田と菰田の姿だった。

「西園寺さんあれはちょっと……」 

 誠は頭を掻きながら首を振って助けを求めている二人を指差す。

「なにか?神前。お前が代わるか?」 

 そう言うとにやりと笑ってかなめはサングラスを下ろす。誠は照れ笑いを浮かべながら視線を波打ち際に転じる。自分でも地味とわかるトランクスの水着をかなめが一瞥して舌打ちをするのが非常にシュールだった。

「そういえば他の面子は……」 

「カウラが先頭になって……ほら、沖のここからも見えるブイがあるだろ?」

 かなめが沖合いを指差す。誠は目を凝らした。 

「もしかしてあそこまで泳いでるんですか?」 

 確かに視線の先に赤いブイが浮いている。三百メートルは離れていることだろう。

「でもよくアメリアさんが付き合いましたね。あのズルしかしない人が」

 そんな誠の言葉にかなへは静かに首を横に振る。 

「ああ、アメリアならひよこや女将と一緒に昼飯の準備してるよ」 

「なるほど」 

 いかにも要領のいいアメリアらしいと相打ちを打つ誠はぼんやり波打ち際で助けを求める島田達を見ていた。

「神前!マジで頼むわ!便所掃除代わってやるから!」

「じゃあこっちは料理当番で!」 

 寮長と副寮長の特権事項をフルに発揮して二人が助けを求める。

「西園寺さん、いくらなんでも……」

 確かにかなめを怒らせるとどうなるかと言う見本には違いなかったが、菰田の変わっていく顔を見ていると誠も二人を解放するようにと頼みたい気持ちになってきた。 

「そうだな。ここでいつまでも見られてちゃたまらねえや。誠、そこにスコップあるから掘り出してやれ」 

 そこにはどう考えてもこのことをする予定で持ってきたとしか思えない大きなスコップが立てかけてある。誠はとりあえず具合の悪そうな菰田から掘り出しにかかる。

「ああ……助かった」 

 波打ち際で時にしぶきを浴びながら菰田がつぶやいた。

「苦しくないですか?」 

 かなり徹底して踏み固められている砂の様子を見て誠が話しかけた。

「西園寺さん手加減しないからねえ……」 

 砂で押しつぶされていた血管が生気を取り戻していく。そして膝まで掘り進んだところで菰田はふらふらと砂の中から立ち上がった。

「菰田。強がっても何にもならねえぞ」 

 サングラスをかけて日向で横になっているかなめがつぶやく。

「早くこっちも頼む!水が!水が!」 

 波の飛沫を浴びながら島田が叫んでいる。仕方なく誠は小夏が寄りかかっていたスコップを手に取る。

「じゃあ行きますよ」 

 誠はそう言うと島田を掘り出し始めた。明らかに菰田よりは元気だが圧迫されて血流が悪いようで顔色が悪い。それでも頬を膨らませて島田はかなめをにらみつけている。

「どうだ?気分は」 

 にやけた笑いを浮かべてかなめはその様子を眺める。

「苦しい……死ぬ……」

「不死身が売りの整備班長殿が死ぬって?殺しても死にそうにねえのになあ……おかしいなあ……」 

 明らかに顔色が変わりかけてまた砂の上に座り込んでしまった菰田に比べれば島田はかなり元気に見えた。

「神前!早く掘れ!本当に死ぬぞ、そいつ」 

 そう言いながら菰田は座ったまま応援するだけだった。ぎらぎらと夏の日差しが日差しが照りつけている。海に来て最初にしたことが穴掘りとは……そう思いながらも誠は掘り続ける。

「大丈夫!あとは……」 

 膝の辺りまで掘り進んだところで島田が砂から飛び出す。そして手にした砂の玉をかなめに投げつけた。

「何しやがる!」 

 そう言ってかなめが飛び起きる。それを見ると島田は浮き輪をつかんで海のほうに駆け出した。

「あの馬鹿、いつかシメる」 

 そう吐き捨てるように言うと、かなめは再び砂浜に横になった。

「いい日和ですねえ」 

 誠は空を見上げた。どこまでも空は澄み切っている。

「日ごろの行いがいい証拠だろ?」 

「お前が言える台詞ではないな」 

 かなめの満足げな言葉を聞きながら誠が振り向くと、緑の髪から海水を滴らせて立っているカウラがいた。

「お疲れ様です、カウラさん」 

 沖に浮かぶブイを眺めてもう一度カウラを見上げる。息を切らすわけでもなくカウラは平然と誠を見つめている。

「ああ、どいつも日ごろの鍛錬が甘いというところか」 

 そう言うと再び沖を振り返る。潮は引き潮。海水浴客の向こうに点々と人間の頭が浮かんでいる。その見覚えのある顔は整備班の面々のものだった。

「凄いですね、カウラさん」 

 正直な気持ちを誠は口にした。

「ただあいつ等がたるんでいるだけだ。それじゃあちょっとアメリア達を手伝ってくる」 

 そう言うとカウラはそのままパラソルを出て行く。

「嘘付け!どうせつまみ食いにでも行くんだろ?」 

 かなめは口元をゆがめてカウラを追い出すように叫んだ。

「かなめさんは……」 

『泳げるんですか?』と誠は言いかけてやめた。

 かなめは子供の頃の祖父を狙った爆弾テロで、脊髄と脳以外はほとんどが有機機械や有機デバイスで出来たサイボーグである。当然のことながら水に浮かぶはずも無い。

「なんだ?アタシは荷物を見てるから泳いできたらどうだ」 

 海を眺めながらかなめは寝そべったままだった。誠はなんとなくその場を離れることが出来なくて、かなめの隣に座った。

「せっかく来たんだ。それにカウラの奴の提案だろ?アタシのことは気にするなよ」 

 その言葉に誠はかなめの方を見つめた。満足げに海を眺めているかなめがそこにいる。

「アタシはなんか変なこと言ってるか?」 

 すこし頬を赤らめながらかなめはサングラスをかけ直す。誠はそのまま視線をかなめが見つめている海に移した。島田達はビーチボールでバレーボールの真似事をしている。小夏とひよこは浮き輪につかまって波の間をさまよっている。

 ようやく菰田が砂浜にたどり着いた。精も根も尽き果てたと言うように波打ち際に倒れこむ。そしてそれに続いた連中も浜辺にたどり着くと同時に倒れこんでいた。

「平和だねえ」 

 かなめはそう言うとタバコを取り出した。

「ちょっとそれは……」 

 周りの目を気にする誠だが、かなめにそんなことが通じるわけも無い。

「ちゃんと携帯灰皿持ってるよ、叔父貴じゃあるまいし投げ捨てたりしねえ」 

 そう言ってタバコを吸い始めるかなめ。空をカモメが舞っていた。
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