レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第26章 二日酔い

未熟者

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 誠にまず襲ってきたのは激しい頭痛だった。そして吐き気。嘔吐するがもはや胃袋の中に吐くものは無かった。そして目が見開かれる。

「おお、起きたぞ」 

 苦しみの中、誠が目を開けるとタレ目のかなめが誠の顔を覗き込んでいた。すぐにアメリアとひよこの顔が目に飛び込んでくる。口の中には吐しゃ物の残滓が残り、気分が悪い。

「水は……」 

「とりあえずこれを飲め」 

 そうかなめに言われてゆっくりと上体を起こす。ひよこが気を利かせて誠を支える。かなめは色のついた液体を誠の口の前に運ぶ。ぬるくてすっぱい黄色い液体を誠は静かに飲み始めた。ようやくここが『ふさ』の医務室であると言うことが分かって誠は恥ずかしさで顔を赤く染めた。

「まったく無茶な飲み方しやがって。まあ、あっちよりはかなりましだろうからな」 

 笑いながらかなめは隣のカーテンで仕切られたベッドを眺めた。時々うなり声がするので誰かがそこにいるのは間違いなかった。

「誠さん……飲むときはゆっくり飲みましょうね……これで何回目でしたっけ?」 

 誠が急性アルコール中毒でひよこの手を煩わせるのはもう何回目になるかわからなかった。

「大丈夫ですよ。なんとかなりましたから」 

「大丈夫だ?寝言は寝て言えよ」 

 艦船運航部、通称『釣り部』付の軍医の大尉は呆れたというように誠の飲み干した液体のコップを受け取る。

「急性アルコール中毒。ひどかったんだぜ、かなり。瞳孔は開いてるし、時々痙攣まで起こすし……お前達どんな飲み方してたんだ?」 

 全員を見回す軍医にアメリアが静かに頭を下げる。

「それと隣の。あいつはそれほど飲める体質じゃないって言ってなかったか?」 

「いやあ、ビールでああなるとは思ってなかったから……」 

 かなめがうつむいてつぶやくが、すぐに軍医ににらまれて黙り込む。

「隣ってもしかしてカウラさんですか?」 

 飲んだ液体のおかげで次第に意識がはっきりとしていく中で誠がそう切り出した。頭を掻きながらアメリアがうなづく。

「あの娘も意地っ張りだからね。誠ちゃんが飲むのに合わせてビールを飲み続けたら……」 

「うるさい……静かにしろ……」 

 カーテンを開けてカウラが這い出してきた。自分が下着姿であることにまで気が回らないようで、しばらくぼんやりと青ざめた顔を外気にさらしている。

「おい、ベルガー。その格好。なんとかならんか」 

 かなめの言葉に少し理性を取り戻したカウラがそのままカーテンの中に引っ込む。

「まあ飲むなとは言わないですけど……。大人ですよね?みなさん。少しは考えて飲んでくれないと。それと今回のことで酒の持込を隊長に止めてもらうことが必要かもしれませんね」 

「おい!まじか?」 

 ひよこの目に見えて強気な言葉に今度はかなめの顔が青ざめる。

「あの人の持ち込みは多すぎるんだよ。今回だって差し入れってことでウォッカ3ケースに焼酎が……何考えているんだか……」 

 軍医の言葉に室内の空気はどんよりとよどんだ。

「ああ、そう言えば島田先輩達は?」 

 間の抜けた誠の質問にかなめ達は目を見合わせる。

「回収済みだ。お前さんの兵器の直撃で失神してた島田ならもう元気に歩いてるよ」 

「ああ、まあ元気は元気だけどちょっと仕事は無理だから部屋で休んでもらってますけど……本当に困ります」 

 ひよこが困った表情を浮かべながらアメリアの顔を見つめる。その視線の中でアメリアは頭をを撫でながら苦笑いを浮かべる。

「じゃあ今は『ふさ』は帰還中ですか」 

 続いている頭痛に顔をしかめながら誠はそう言うとアメリアを見上げる。アメリアは声も無くうなづいた。そして彼はスポーツ新聞を誠に渡した。場違いな新聞に不審に思いながら頭を上げて記事を見つめる誠。そこには蛍光ペンで縁取られた記事が踊っていた。

「法術適正者の封印技術の発表?」 

 誠はしばらくこれが何を意味するか分からずにいた。自然に視線が向いた先のアメリアが紺色の長い髪をかき上げている。

「病人を刺激するのはそれくらいにしておいてくれ。あとはあれだ。脱水症状に注意しながら安静にしてれば何とかなる。まあベルガーはもう動いても大丈夫だぞ」 

 軍医の言葉にカーテンがひらかれる。上着をつっかけた姿のカウラがのろのろと起きだしてきた。明らかに顔色が悪いのは仕方が無いことだと誠は笑った。

「よう、飲みすぎ隊長殿。ご気分は?」 

 へらへらと笑いかけるかなめをカウラは黙ってにらみつける。誠はひよこからもらったペットボトルに入った生理食塩水を飲み干すとそのままベッドに体を横たえた。

 その姿を見てアメリアは納得したようにかなめ達に目配せする。かなめは珍しくじっと誠を見つめた後、布団を誠にかけてやっていた。

「これで終わりか……本当に終わるのか?」 

 彼らを見つめながらかなめがそうつぶやくのが誠の耳に届いたが、次第に睡魔に襲われていく彼にその言葉を意識する能力はすでに無かった。
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