レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第四部 『魔物の街』 第1章 プロローグ

力と代償

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「次で目的地ですから安心してくださいね」 

 開いた扉を見ながら茜はそう言って笑う。誠は何を安心すれば良いのかわからず握り締めていた刀に目をやった。

「あの、嵯峨捜査官……」 

 誠は静かにそう言って手にした刀を茜に見せる。茜はそれを見てにっこりと笑う。

「そうですわね。とりあえず剣は袋から出しておいた方がよろしいのではなくて?」 

 茜の言葉に誠は刀の袋の紐を解いた。

「へー、そう言う風な結び方なんだ」 

 アメリアは珍しそうに刀の入った袋の紐をほどく誠の手元に目をやる。

「別に決まりなんて無いですよ。ただ昔から普通に……」 

 誠の言葉が出る前に通路の奥で不気味なうなり声のようなものが聞こえた。

「やっぱり怪獣を飼っているのか?」 

 笑いながらそう言ってかなめは茜の前に出て歩き始めた。かなめはそのまま楽しむような視線であたりを見回す。茜はわざとランやラーナを壁にして誠達の足を止める。

「誠ちゃんも気になるの?さっきの声。じゃあ確認しに行きましょう」 

 そのままアメリアが一人歩き出す。それにあわせてカウラも誠の肩を叩く。

「これも任務だ」 

 カウラの声で気を取り直した誠は刀を袋から取り出して鞘を握る。振り返るとサラと島田が不安そうに誠達を見つめていた。

 強化ガラス越しに何かが見えた。誠は汚れたガラスの中に目を凝らした。

「大丈夫よ。技術者の方々も見てる代物よ。噛み付いて来たりはしないわよ」 

 そう言って進んでいたアメリアが立ち止まった。カウラは警戒したように歩みを止める。そこに再び獣の雄たけびのようなものが響く。

「悪趣味ね」 

 アメリアはそう言い切ると誠を見つめて笑った。

「悪趣味ですか……それで済む代物なんですか?」 

 誠はアメリアの影に入り込みながら強化ガラスの中にある黒い塊に目をやった。

 誠は最初はそこに何があるのか分からなかった。正確に言えばそれは誠の思いつく生物のどれとも違う形をしていて種類や名前という定義づけが難しいからだろう。それはあえて言えばウニかナマコと考えれば分かりやすいが、ウニやナマコが吼えるわけも無かった。

 丸い、巨大な塊、肌色のその物体から何かが五、六本突き出すように生えている。その生えているものが人間の手や足と似ていることに気づくまで数分かかった。そしてその丸い脂肪の塊は細かく震えながら床をうごめいていた。その表面に見えるのは目のようなもの、口のようなもの、耳のようなもの。そしてところどころから黒い長い毛が伸びているのが分かる。

「茜さん……クバルカ中佐……」 

 その物体から目を離すことができた誠は近づいてくる二人の上官に目をやった。二人とも腕組みしたまま黙って誠を見つめていた。

「成れの果てですわ。法術適正者の」 

 そう言うと茜はガラスの窓の隣の出っ張りに携帯端末を載せた。開いた画像には女子高生とサラリーマン風の中年の男、そして小学生くらいの男の子の姿が写されていた。

「こうなってはどうするべきか分からないけど、この三人の遺伝子データと一致するサンプルが見つかっていますの。おそらくは……」 

「おい、こいつはどこで見つかった……って聞くまでも無いか」 

 かなめの言葉に茜は静かにうなづく。東都港湾地区か沖の租界の周りででも発見されたのだろう。黙り込む茜達の纏う雰囲気で誠もそれを察した。

 そしてその時、誠は気づいた。手にしていた剣から熱いものが手のひらを経てそのまま頭の先まで達するような感覚を。

「神前さんは何か気づいたことは?」 

 そう茜に言われて自然と誠は手にした刀を茜に差し出した。

「やはり待機状態に入ったようですわね」 

 茜はそう言うと口元に笑みを浮かべた。その視線は誠の手と握られた刀に向いていた。

「待機状態?なにか?この法術適正者の成れの果てを見て神前がビビると何かが起きるのか?」 

 そんなかなめの言葉を無視して茜は開いた端末を仕舞うとさらに奥へと歩き始めた。

「まだこんなのが続くんですか?」 

 島田は明らかに食傷気味で手を握ってくるサラと一緒に一歩遅れて誠達に続く。隣の部屋は完全に金属のようなものが先ほどの強化ガラスの代わりに壁面を覆っていた。

「見えないわね」 

 アメリアがそう言うが、茜はその中央にのぞき穴があるのを指差す。すぐにのぞくアメリア。だが、茜は中のモノには関心が無いというように誠の手の中の刀を見つめていた。

「やはりなんか感じます。でも嵯峨警視正、なんなんですかこれは?法術師の成れの果てって……聞いたことが無いですよ」 

 誠は正直中にあるだろう人であった物体には興味が無かった。いや、興味を持たないようにしていた。あれが法術適正者の成れの果てと言うならば、誠が同じ姿を晒すことになっても不思議ではない。

 あえて中を見ずに誠は茜を見つめる。

「そうね、自己防衛本能が形になったようなものと考えていただければ良いと思いますわ」 

 それだけ言うと茜はそのまま中身を見終えたアメリアの隣の出っ張りに再び携帯端末を置く。中を見終えたアメリアとかなめがこの中の物体に変わってしまった人間の身元を眺めていた。人のよさそうな青年の顔がそこに浮かんでいる。

「神前、お前の番だ」 

 中をのぞき終えたカウラがそう言うので仕方が無く誠はのぞき穴に目を近づけた。

 レンズに汚れがついているようで赤いものと黒いものがうごめいているような視界の中にしばらく誠は黙り込んで目を凝らした。だが、次第にその形がはっきりしていくにしたがって再び震えのようなものが体を支配していくのを感じていた。しばらくしてそこに人影があるのを発見して誠は大きく息をする。さらに集中してのぞき穴を見つめる。手にした刀が熱く感じられてくる。

 そこにはズボンをはいた上半身裸の男が椅子に座っていた。その男からは黒い見たこともない種類の煙が立ち上っている。

「見えるだろ?」 

 ランの言葉に誠は集中して中の男を見つめる。両手を挙げた男が、そのこぶしで自分の頭を叩いた。そのこぶしは頭蓋骨を砕いてそのまま頭にめり込む。血が吹き上げ、辺りを赤く染めた。

 思わず誠は目をそらす。

「何が見えた?」 

 再びランが聞いてくる。誠は答える代わりに再び中をのぞき込む。

 男の自分の頭にめりこんだこぶしが黒い霧に覆われている。その霧は頭の傷跡から血に代わって吹き上がり、すぐに頭を覆いつくした。うなり声を上げながら男が両手を差し上げるころには、へこんでいた頭の形が次第に元の姿に戻りつつあるように見えた。

 そこで誠はそのままのぞき穴から目をそらして彼の後ろに立ち尽くしている茜の顔を見た。

「ご覧になりまして?」 

 茜の言葉。誠は感想を言おうとするが、口が震えて声にならなかった。

「あれが……アタシ等『不死人』と呼ばれる存在の行きつく先だ」 

 ランの言葉にどこと無く悲しげな色があった。
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