レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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仕事も終わり

監査を終えて

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「終わったみたいよ」

 機動部隊の詰め所で訓練メニューの確認をしていた誠達に向けて詰め所に入って来るなりアメリアはそう言った。

「そうか……終わったか……」

 特に感慨も無いというようにかなめはそう言って立ち上がる。

「高梨参事のことだ。万に一つも抜かりはないだろ」

 そう言うとカウラは凝った肩を回しながら誠に目をやる。

「夜もお付き合いするんですか?」

 誠の言葉にかなめは仕方ないというようにため息をついた。麗子の面倒さと気まぐれにはさすがに気のいい誠も少し閉口していた。

「アイツのことだ。月島屋の話は知ってるからな……いつか連れてけってうるさかったんだ……カウラ、車を用意しろ」

「私の車は5人しか乗れないぞ……パーラに頼むか?」

 カウラはそう言って苦笑いを浮かべた。

「ラビロフ大尉も大変ですね……こういう時はいつも狩りだされて」

 誠はお人よしのパーラに同情せざるを得なかった。

「じゃあ、アメリア。オメエから話せ」

「でもそうするとサラと島田君もついてくるわよ」

 アメリアはかなめにそう答えた。

「仕方ねえだろ……それに麗子の奴は世間知らずだからな。世に言う『東都のヤンキー』ってもんの生態を教えてやったら喜ぶぞ……甲武にはフウテンや愚連隊はいるが『ヤンキー』はいねえんだ。ロックンロールが無いからな」

「そんなものが知りたいのか?」

 ニヤニヤ笑っているかなめにカウラは心配そうにそうつぶやいた。

「でも……田安中佐は貴族でしょ?焼鳥とか口に合うんですか?」

「アタシも貴族……というか家格はアタシの方が上だ。まあ甲武じゃアタシも焼鳥は食ったことがねえんだ。有るらしいぞ、甲武にも……まあ合成肉で月島屋の味が出せるとは思わねえがな」

 かなめは不安がる誠をそうなだめすかす。

「あら、皆さんお集りのようね」

 パーラに声をかけに詰め所を出ていったアメリアと入れ違いに麗子と鳥居が詰め所に入ってきた。

「麗子、良いとこ連れてってやんよ」

 かなめは笑顔で麗子達にそう言った。

「良いところ?」

 不思議そうに自分を見つめてくる麗子にかなめは得意げにほほ笑む。

「そうだ良いところだ。うちの部隊の隊員なら誰でも行ったことがあるところだ」

「そこなら行きましたわよ。お寿司屋さんですわよね」

 頓珍漢な麗子の答えにかなめは呆れたように頭を掻く。

「あんなところに通ってるのはランの姐御位だ」

「アタシは通うほどは行ってねえ……西園寺みたいに高給取りじゃねーんだ」

 黙ってかなめ達を見守っていたランが機動部隊隊長の巨大な机のわきからちっちゃな顔をのぞかせた。

「それじゃあどこかしら?」

「焼鳥は知ってるよな?」

 かなめの誠からすれば当たり前の問いに麗子はしばらく首をひねる。

「焼鳥……聞いたことがありますわねえ」

「さすがお姫様」

 ピント外れの麗子の答えにアメリアは思わずそうつぶやいていた。

「あれだ、甲武と違って東和の焼鳥は生きてる鶏を絞めて出す。合成肉とは違ってけた違いに旨いぞ……」

 かなめはまるで自分の手柄のようにそう言って見せた。

「甲武でも地方のコロニーに行くと鶏を飼ってますから食べられますよ……焼鳥」

 鳥居はそう言って抗議するがかなめはまるで興味が無いというようにスルーした。

「麗子は乳母日傘で育ったから地方になんて行ったことねえの!まあ、アタシは御所で居候質が闘鶏用に軍鶏を飼ってたから軍鶏鍋とかよく食ってたけどな」

「かなめちゃん……本当にそんな時代劇みたいな暮らししてたのね」

 かなめの『軍鶏鍋』の言葉にアメリアはそうツッコミを入れた。

「田安中佐、あそこは庶民の店ですからきっと初めての体験がいっぱいあると思いますよ」

 とりあえず誠は総まとめに入った。

「庶民の味……興味ありますわ」

 麗子もようやく納得がいったかのようにそうつぶやいた。

「じゃあ行くぞ……麗子と沙織はパーラの車に乗せてもらえ」

 そう言うとかなめは機動部隊詰め所を後にする。誠も置いて行かれまいとその後ろに続いた。

「じゃあ着替えてきますね!」

 誠はそれだけ言って小走りに隊舎の奥にある男子更衣室に向かった。

「でも……西園寺さんと違って典型的なお姫様って感じだよな」

 独り言をつぶやきながら男子更衣室に入ると定時とあって混雑していた。

「おい、神前。あの偉そうな中佐のお守、大変だな」

 古参の整備班の下士官が誠に声をかけてくる。

「これから月島屋に行くんですよ……なんでもお姫様過ぎて焼鳥とか食べたことが無いみたいで……」

 誠はネクタイを緩めながらそう返した。

「甲武の肉はまずいらしいからな。うちの西。アイツは甲武出身だけど……肉見ると涙を流して喜ぶぞ」

「そんな大げさな」

 下士官の冗談に誠は少しばかり辟易した笑みを浮かべた。

「おう、神前居たのか」

 更衣室にデカい態度で島田が入ってくる。

「島田先輩は今日行くんですか?月島屋」

 ワイシャツを脱いでジャケットを羽織りながら誠は島田にそう尋ねた。

「まあな……しかし、あのねーちゃん大丈夫なのか?甲武の貴族らしい貴族って言えばうちじゃあ日野少佐だけど、あの人も月島屋にはめったに近づかないじゃねえか。甲武の貴族は庶民の暮らしなんか興味ねえんだろ?」

 白いつなぎを脱ぎながら島田はそうぼやく。

「そうでも無いみたいですよ。日野少佐は庶民の暮らしを知ってるからあえて近づかないところがあるみたいですけど、田安中佐は全く知らないから逆に興味があるみたいで……」

 誠のつぶやきに島田はあいまいにうなづいた。

「そんなもんかね……まあ経費で飲み食いできるんだから俺としては御の字だけど」

 フライトジャケットを羽織りながら島田はそう言ってニヤリと笑う。

「経費なんですか?」

「当たりめえだろ?本局の偉いさんを接待するんだ。経費で落ちなくてどうするよ」

 島田の悪い笑みを見て誠は苦笑いを浮かべた。

「接待ですか……」

「そう、庶民の味を教えてやるのも接待だ……飲み食いするだけじゃなくて授業料を取りたいくらいだ」

 手早く着替えを終えた島田はそう言って誠の肩を叩いた。

 二人はそのまま更衣室を出ると下に降りる階段を進み隊舎を出た。
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