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第58話 お風呂アイテム
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優志の編み出した新技術のテスト生としてベルギウスに招かれたのはブレンという名の若き騎士であった。
「あ、あの、一体何が始まるのですか?」
いきなり呼び出されたと思ったらベルギウスに副団長のゼイロというふたりの大物が待ち構えていた。それだけでも動揺するには十分の要素であったのに、
「待っていたぞ、ブレン。さあ、服を脱いでこれに入るのだ」
ベルギウスが指し示したのは大きな樽。
樽といってもただの樽ではない。
これは優志がフォーブの街で購入した魔鉱石を加工して作られた特製の樽。最大の特徴はその大きさに見合わない軽量さにある。樽の中に何も入っていない状態では紙切れ1枚程度の重さしかなく、中に物を入れることで重量が一気に増して安定するのだ。
そういったわけで、魔鉱石製の樽にはたっぷりのお湯。
もちろん、それはただの水を沸かしただけで、浸かるだけでは疲労回復の効果はそこまで高くない。そもそも、この世界には入浴という概念がないため、優志や美弦にはパッと身で五右衛門風呂が連想される造りでも、初見のブレンには何が何やらさっぱりだった。
「え、えっと……」
「何も案ずるな。この樽に注がれた湯に浸かるだけで、おまえの抱える疲労はたちまちのうちに消え去るだろう」
「は、はあ……」
半信半疑――その感情が手に取るようにわかるほど、目に見えてブレンはベルギウスの言葉を疑っていた。
「おまえの考えはもっともだが、まあ、騙されたと思って入ってみろ。死にはしないから」
さらに、副団長のゼイロが援護射撃。
「わ、わかりました」
ベルギウスとブレンという大物たちに背中を押されたブレンは服を脱ぎパンツ一枚に――なる直前にリウィルは退室。
改めて、湯の中に身を投じるブレン。
「湯加減はどうだい?」
「え?」
優志の質問の意図が読み取れず、ブレンの頭をクエスチョンマークが旋回。
「ああ、湯加減っていうのはお湯の温度のことだ。熱かったり温かったりしないか?」
「えぇっと……そう言われるとちょうどいいです」
生まれて初めて湯に身を沈めるブレン。
それは未知の感覚だった。
全身が温もりに包まれる。
だが、
「――で、ここからどうするのだ?」
当然ながら、このままでは何も起きない。
「こいつを使います」
優志が提出したのはどこにでもある小さな紙袋。
それをしばらく見つめたベルギウスとゼイロは揃って首を傾げた。
「これを一体どうするのだ?」
「あ、この紙袋自体はいらないんです。――肝心なのは中身です」
そう言って、優志は紙袋の口を開ける。
中身をのぞき込んだふたりは再び顔を見合わせて首を傾げた。
「中にあるのは……粉か?」
入っていたのはオレンジ色の粉だった。
「こいつをどうするんだ?」
「それは――こうします」
優志は紙袋をひっくり返し、中身の粉をブレンが入る樽風呂の中へと入れた。
「ちょっ!?」
突然の行動に驚くその場の3人。
が、優志だけは静かな口調で、
「ブレン、その湯を少しかき混ぜてくれ」
「へ?」
「さっきの粉が全体に行き渡るように。ほら、早く」
「は、はい」
言われるがまま、ブレンは手を使って湯をかき混ぜ始める。すると、湯は粉の色と同じオレンジ色へと変色していった。
その時、
「むっ?」
体の異変に思わずブレンが声を漏らした。
「これは……」
「どうかしたか、ブレン」
驚いた表情のブレンが気になって、ゼイロが声をかけた。
「いえ、その……うまく表現ができないのですが、なんだかさっきよりも体が温まっているというか……」
「ブレン。君は先日の演習で転倒し、膝を痛めているらしいね」
「え、ええ」
「痛めた膝は今どんな状態だ?」
「それは――っ! い、痛くない!?」
驚き、ブレンは思わず樽風呂から足を放り出した。
「成功だな。――まあ、ダズやエミリーでも検証したから大丈夫だと確信は持てていたのだけど、それでもひと安心だ」
「あはは」と笑う優志だが、笑い事じゃないのはベルギウスとゼイロの2名だ。
「い、一体何をしたというのだ? あの粉は一体……」
顎に手を添えて事態の解明に挑もうとするベルギウス。
だが、当然何も浮かんではこない。
そこで、優志はヒントだとばかりに例の粉の入った紙袋を城まで運ぶのに使用した、冒険者たち愛用のリュックサックからある物を取り出す。
「こいつが大きなきっかけとなりました」
「そいつは――干し肉か?」
冒険者たち御用達の保存食――干し肉。
優志はそこから事態解決のヒントを得ていたのだ。
「うちの店に泊まっているスライという冒険者が、肉を干すために使う棒を貸してほしいと願い出た時、これを思いついたんです」
「? 何?」
風呂と干し肉。
まったく結びつきそうにない両者だが、その製造過程が優志に明るい道筋を示すものとなったのである。
「粉の正体はこいつを乾燥させて粉末状にしたものです」
優志が続いて取り出したのはキレイに折りたたまれていた一枚の葉っぱ。
「それは……ヤーレフの葉か」
「正解です」
この世界のあちこちに自生するヤーレフという植物。
特徴はなんといってもその大きさ。
下手をしたら大人でもすっぽりとおさまりそうなほど巨大なのだ。現地ではその圧倒的なサイズから「巨人の掌」という名でも親しまれている。
優志はそのヤーレフの葉を折りたたんで持参していたのだ。
「ヤーレフの葉は裂傷の治療にも用いられているが……そいつを乾燥させて湯に混ぜたというのか」
「で、ですが、この湯の回復力の凄まじさは、とてもヤーレフの葉を使用した粉だけでは説明ができません」
「それもそうだな」
「同感だな。――それで、君はそのヤーレフの葉に何をした?」
どうやらすっかり見抜かれているようなので素直に話すことにした。
「あ、あの、一体何が始まるのですか?」
いきなり呼び出されたと思ったらベルギウスに副団長のゼイロというふたりの大物が待ち構えていた。それだけでも動揺するには十分の要素であったのに、
「待っていたぞ、ブレン。さあ、服を脱いでこれに入るのだ」
ベルギウスが指し示したのは大きな樽。
樽といってもただの樽ではない。
これは優志がフォーブの街で購入した魔鉱石を加工して作られた特製の樽。最大の特徴はその大きさに見合わない軽量さにある。樽の中に何も入っていない状態では紙切れ1枚程度の重さしかなく、中に物を入れることで重量が一気に増して安定するのだ。
そういったわけで、魔鉱石製の樽にはたっぷりのお湯。
もちろん、それはただの水を沸かしただけで、浸かるだけでは疲労回復の効果はそこまで高くない。そもそも、この世界には入浴という概念がないため、優志や美弦にはパッと身で五右衛門風呂が連想される造りでも、初見のブレンには何が何やらさっぱりだった。
「え、えっと……」
「何も案ずるな。この樽に注がれた湯に浸かるだけで、おまえの抱える疲労はたちまちのうちに消え去るだろう」
「は、はあ……」
半信半疑――その感情が手に取るようにわかるほど、目に見えてブレンはベルギウスの言葉を疑っていた。
「おまえの考えはもっともだが、まあ、騙されたと思って入ってみろ。死にはしないから」
さらに、副団長のゼイロが援護射撃。
「わ、わかりました」
ベルギウスとブレンという大物たちに背中を押されたブレンは服を脱ぎパンツ一枚に――なる直前にリウィルは退室。
改めて、湯の中に身を投じるブレン。
「湯加減はどうだい?」
「え?」
優志の質問の意図が読み取れず、ブレンの頭をクエスチョンマークが旋回。
「ああ、湯加減っていうのはお湯の温度のことだ。熱かったり温かったりしないか?」
「えぇっと……そう言われるとちょうどいいです」
生まれて初めて湯に身を沈めるブレン。
それは未知の感覚だった。
全身が温もりに包まれる。
だが、
「――で、ここからどうするのだ?」
当然ながら、このままでは何も起きない。
「こいつを使います」
優志が提出したのはどこにでもある小さな紙袋。
それをしばらく見つめたベルギウスとゼイロは揃って首を傾げた。
「これを一体どうするのだ?」
「あ、この紙袋自体はいらないんです。――肝心なのは中身です」
そう言って、優志は紙袋の口を開ける。
中身をのぞき込んだふたりは再び顔を見合わせて首を傾げた。
「中にあるのは……粉か?」
入っていたのはオレンジ色の粉だった。
「こいつをどうするんだ?」
「それは――こうします」
優志は紙袋をひっくり返し、中身の粉をブレンが入る樽風呂の中へと入れた。
「ちょっ!?」
突然の行動に驚くその場の3人。
が、優志だけは静かな口調で、
「ブレン、その湯を少しかき混ぜてくれ」
「へ?」
「さっきの粉が全体に行き渡るように。ほら、早く」
「は、はい」
言われるがまま、ブレンは手を使って湯をかき混ぜ始める。すると、湯は粉の色と同じオレンジ色へと変色していった。
その時、
「むっ?」
体の異変に思わずブレンが声を漏らした。
「これは……」
「どうかしたか、ブレン」
驚いた表情のブレンが気になって、ゼイロが声をかけた。
「いえ、その……うまく表現ができないのですが、なんだかさっきよりも体が温まっているというか……」
「ブレン。君は先日の演習で転倒し、膝を痛めているらしいね」
「え、ええ」
「痛めた膝は今どんな状態だ?」
「それは――っ! い、痛くない!?」
驚き、ブレンは思わず樽風呂から足を放り出した。
「成功だな。――まあ、ダズやエミリーでも検証したから大丈夫だと確信は持てていたのだけど、それでもひと安心だ」
「あはは」と笑う優志だが、笑い事じゃないのはベルギウスとゼイロの2名だ。
「い、一体何をしたというのだ? あの粉は一体……」
顎に手を添えて事態の解明に挑もうとするベルギウス。
だが、当然何も浮かんではこない。
そこで、優志はヒントだとばかりに例の粉の入った紙袋を城まで運ぶのに使用した、冒険者たち愛用のリュックサックからある物を取り出す。
「こいつが大きなきっかけとなりました」
「そいつは――干し肉か?」
冒険者たち御用達の保存食――干し肉。
優志はそこから事態解決のヒントを得ていたのだ。
「うちの店に泊まっているスライという冒険者が、肉を干すために使う棒を貸してほしいと願い出た時、これを思いついたんです」
「? 何?」
風呂と干し肉。
まったく結びつきそうにない両者だが、その製造過程が優志に明るい道筋を示すものとなったのである。
「粉の正体はこいつを乾燥させて粉末状にしたものです」
優志が続いて取り出したのはキレイに折りたたまれていた一枚の葉っぱ。
「それは……ヤーレフの葉か」
「正解です」
この世界のあちこちに自生するヤーレフという植物。
特徴はなんといってもその大きさ。
下手をしたら大人でもすっぽりとおさまりそうなほど巨大なのだ。現地ではその圧倒的なサイズから「巨人の掌」という名でも親しまれている。
優志はそのヤーレフの葉を折りたたんで持参していたのだ。
「ヤーレフの葉は裂傷の治療にも用いられているが……そいつを乾燥させて湯に混ぜたというのか」
「で、ですが、この湯の回復力の凄まじさは、とてもヤーレフの葉を使用した粉だけでは説明ができません」
「それもそうだな」
「同感だな。――それで、君はそのヤーレフの葉に何をした?」
どうやらすっかり見抜かれているようなので素直に話すことにした。
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