不遇水魔法使いの禁忌術式

キミドリ

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閑話 不遇水魔法使いの恋愛術式?

デートデートデート 中編

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産まれてこのかた、私はデートと呼べるものをしてきただろうか。

 学校にいた頃は周囲に舐められないように魔法の勉強ばかりで、満足に友達も作らなかった。ましてや恋人など、作る暇もなかったし、作ろうとも思わなかった。卒業して都市魔法使いとして働いていた頃も、珍しい水魔法族として特別視され、誰も私を一人の女性として見てくれる人などいない。故郷に戻ってからは研究漬けの毎日。その内容が内容だったため、誰も近寄ってこなかった。

 もちろん、容姿には恵まれていたから、好意を寄せられなかったわけではない。ただ、誰かと恋人こういう関係になりたいとは思わなかっただけ。

 ……カイと出会うまでは。

***

 早めに家を出ようとしたのに、結局ちょうどいい時間になってしまった。鏡の前で見た目の確認に奮闘していたせいだ。

「遅刻という訳ではないけれど、カイよりは早く着いていたかったのに……」

 今回は私から誘ったデート。カイを待たせるわけにはいかない。約束の時間まではまだ少しあるけれど、カイは何かと予定より早めに行動する人なのだ。聞いてみたら、

「うーん、さがてやつかな。10分くらい前には着いときたい」

 と言っていた。このマギポリスでそんな時間間隔の人なんていないのに。でも、その几帳面さも、カイの魅力の一つなのかもしれない。

 このところ、カイのことばかり考えている自分に気づく。研究のことを考えているはずが、いつの間にかカイの顔が浮かんでくる。こんな経験、初めてだった。

 集合場所の噴水広場に到着する。ここは都市でも随一の待ち合わせスポット。半数以上の人が景色を眺めたり本を読んだりと、誰かを待っている。

 ――ふと目に入った。カイ、いや恐らくカイだろう。
 まだ出会って間もないけれど、これだけの時間を共にした人を見間違えるはずがない。ただ、自分の認識能力を疑いたくなるほど、カイが見違えていた。

 かっこいい……。髪型も服装もいつもと違う。それなのに、紛れもなくカイなのだ。
 思わず胸がドキリとする。

「あのう……カイ、待たせましたか?」

 声をかけるのには少し勇気が必要だった。心臓が早鐘を打っている。

「いや、サーシャ、俺も今来たところ……て、本当にサーシャか? ありえないくらい可愛いんだけど?」

「……んっ!」

 やっぱりカイだ。この思ったことをすぐに口に出してしまう率直さは、カイにしかできない。でも、この反応は想定通り。というより、狙い通りかもしれない。

 この日の服装と髪型は入念に準備したもの。カイと外出する度に、カイの好みそうな服や髪型をリサーチし、さらに流行を押さえた髪型と服装を選んだ。もちろん、カイの好みにドンピシャのはず。

「まあ、私は流行にも聡いできる女ですので当然ですよ!(ドヤさ)」

「いや本当に、こんな子の隣を歩けるなんてすごく嬉しいな」

 うぐっ……! カイは本当に……。

「そ、そんなことばかり言っていないで、早く行きましょう!」

「お、おう」

 思わず小走りになってしまう。こんなカップルばかりの場所で、こんな恋人のようなことをするのは、あまりにも恥ずかしい。でも、嬉しい気持ちは隠せない。

 後ろからカイが追いついて、隣に並ぶ。この人は何も思わないのだろうか。不審に思って横を見ると――。

 バツの悪そうにそっぽを向きながら、少し顔が赤くなっている。カイも少なからず意識しているのだと、胸がキュンとなった。

「何で赤くなってるんですか?」

「べ、別に赤くなんてなってねえよ! ただこうしていると恋人みたいで恥ずかしいなって思っただけで……!?」

「なっ……! 普通はそういうのは口に出しませんよ! こっちまで余計に恥ずかしくなってきました」

「しょうがないだろ! こんな可愛い子が俺の好みど真ん中な格好して隣に歩いてるんだから! 嬉しくなって声に出す他ねえよ!?」

「あ、あまりに私が可愛いからって取り乱しすぎです! 恋人だらけの空間にいたからって雰囲気に流されすぎですよ!?」

「別にそこまで気にしてねえよ! サーシャの方が意識しすぎなんじゃないか?」

「そんなことありません。カイの方が意識しすぎなんです!」

「だ、だったら意識してない証拠に手を繋げるか!?」

 ――かかった。

「の、望むところです!」

「おう……!」

 カイが手を差し伸べる。私の手とは違う、ゴツゴツとして大きい男の人の手。私もそれに応えて手を取り、握る。暖かいけれど、少し汗ばんでいる。

 私の手も汗ばんでいないだろうか。カイに嫌な思いをさせてないだろうか。そう思うと少し手を離したくなり、重なる手の間に隙間を作ろうとする。すると――それを制止するように、強く握られた。

 より一層その男らしい手を感じるが、痛くはない。カイが痛くならないように探り探りに強さを変えて、私が心地よい力加減を見つけようとしているのが分かる。その不慣れさが、いじらしくて愛おしい。

「ほら、行こう」

 カイが手を引っ張り、歩を進める。全く、案内するのは私なのに。
 でも、ここまでも予定通り。普段見慣れないデート服でドキドキさせ、カップルだらけの空間で煽れば、カイは何かしら手を繋ぐ恋人らしい行動をしてくれると思っていた。上手くいって良かった!

 ……しかし、フランに教わった方法とはいえ、改めて自分の行動を見ると恥ずかしい。

 先導するカイに方向を指示して、目的地へ向かう。雑誌で見つけたお店でランチだ。
 少し硬い足取りで歩く彼が、こちらの足元を気にしているのが分かる。どうやら歩幅を合わせてくれているらしい。そういえば、さっきから車道側を歩いてくれたり、色んな所で気遣いが感じられる。そのぎこちなさに、思わず頬が緩んでしまう。

 足を止めた。お店の前に着いたのだ。外見は綺麗なレンガ作りで、外からでも分かるくらいの魚介やトマトの香りが漂ってくる。備え付けられた窓から中を見ると、1人組が少ないというより全くいない。全てが男女の組み合わせ。

 その光景に思わず唾を飲み込む。私は何て店を選んでしまったのか。カイも同じことを思っていたのか、繋いでいる手が先ほどより湿っている。

「よし……入ろうか!」

 意を決したようにカイが店内へ。賑わっていたが、ちょうど2人席が空いていた。
 席に案内され、握られていた手を離すと、カイは私をソファに座らせてから、真向かいの椅子に腰をかけた。

 ……先ほどからのこれは、一体何なのだろう。少し手際は良くないけれど、慣れている感じがある。まさかカイには、お付き合いされていた方がいたのだろうか。そんなわけがないと言えないのが歯痒いところ。

 あんなに自分の好意を隠すことのできない人が、今まで何もなかったとは思えない。でも、そうだったら少し嫌だな……。

「どうしたサーシャ、お腹でも痛むのか?」

「べ、別になんでもありません!」

「そ、そうか。それで何を頼もうか? 俺、あんまりこういった店に来たことがないから分からないんだけど」

 その言葉に、少し安心する。

「ふふ、ここは雑誌でも紹介されている有名店なんですよ! この男女ペア限定の特別ランチがおすすめです! なんと普通のランチメニューよりお値段もお得なんです。これにしましょう!」

「そうか、サーシャがそう言うなら。すみませーん、注文お願いします!」

「はーい、ご注文を承ります!」

 ウェイトレスが来て注文を取る。注文した内容を聞くと、少し店員の笑顔が増した。

「マスター! カップルセット入りましたー!」

「「……なっ!」」

 考えてみれば当然だ。こんなお店で男女が来たら、それはカップルなのだから。つまり私たちが頼んだのは、恋人向けの特別メニュー……。
 流石にここまであからさまなのは望むものではなかった。これでは本当の恋人同士と変わらない!

 カイも驚きを隠せない様子で、出された水を口に運ぶ。すぐにサラダが出てきたが、またもや固まってしまう。――ハートだ。ハート型に切られた野菜が、さらにハート型の皿を飾っている。ここまで来ると胸焼けしそうだ。

 ここから何を話していたのか、あまり覚えていない。頭が沸騰しそうだったことは、よく覚えているのだが……。

「こちらがセットの最後のデザートでございます!」

 またもやハートを意識したデザインだ。ハート型の小さいパンケーキに、クリームとイチゴが添えられている。

「最後のデザートなのですが、お客様がカップルだという証拠を見せていただければ、さらに割引されますよ!」

 店員がニマニマと笑みを浮かべる。これ以上、何をしろというのか。

「それはお客様次第ですよ♪ あ~んからキスまで、場をわきまえていただいた範囲の恋人らしい行動をしていただければ、内容に応じてお安くなります!」

 もはや、めちゃくちゃだ。確かに周りの客を見ると、キスをしたり抱き合ったりしている人もいたが、皆このセットを頼んだのだろう。

 ここまででいっぱいいっぱいなのに、どうすれば良いのか。助け舟を出してもらおうと、カイの方を見る。――真剣な顔をしている。目が合った。思わず目を背けてしまう。

「……サーシャ」

「は、はい!」

 真剣な顔で呼ばれたので、驚いてしまう。心臓が、また大きく鼓動を始めた。

「目を閉じてくれ……」

「はい……」

 これは期待してもいいのだろうか。言われた通り目を閉じる。

 かすかな音が聞こえる。ドタガタと立ち上がった音。心臓がバクバクと音を立てている。もう何も聞こえないほどに。

「サーシャ、行くぞ……」

 さっきよりカイの声が近くから聞こえる。
 私は思わず唇を不器用に尖らせてしまう。期待と緊張で全身が震える。

 ぷにっと唇に何かが当たる。これが私の初めての味……。それは思ったより柔らかくて……甘い?

「むぐっ!」

 これはキスではなく……パンケーキだった。

「あの、カイ……これは……(もぐもぐ)」

「店員さん! これで割引になるだろう!」

「……ッチ、マスター、どうでしょうか?」

「マーベラス」

 髭の似合うダンディーな店長が、にこやかに笑う。少し拍子抜けしたけれど、これ以上は私も持たなかったので助かった。それに……カイらしい解決方法だったかもしれない。

***

「ありがとうございました!」

「サーシャ、何を怒っているんだよ!」

 店を出て、道を歩きながらカイが心配そうに覗き込んでくる。

「……別に怒ってなんかいません」

「いや、怒っているだろ。そんなに頬を膨らませて!」

「もういいです!」

 いつも恥ずかしげもなく可愛い可愛いと言うくせに、ここぞという時には臆病者になるんだから……。でも、その不器用さも、きっとカイらしいのかもしれない。

 今日一日、私の心はずっと高鳴り続けていた。カイが時折見せる優しい仕草に、何度も胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 これが、デートという特別な時間なのだろうか。


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