不遇水魔法使いの禁忌術式

キミドリ

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閑話 不遇水魔法使いの恋愛術式?

デートデートデート後編

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その後、カイは私の機嫌を取ろうとジェラートを買ってくれた。先刻ランチを済ませたばかりというのに、不機嫌な女の子には甘いものでも与えればいいとでも考えているのだろうか。まったく。

 ……でも、選んでくれたピスタチオとチョコレートの組み合わせは、私の好みにぴったりだった。

「美味しい?」

「まあまあ、ですね」

 本当は絶品なのに、素直に喜べない自分が少しおかしい。カイは私の反応を見て苦笑する。

「そっか。じゃあ俺の分けてあげようか?」

「いります。カイのも気になってたので」

 スプーンを伸ばすと、カイは驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になる。

「はいはい、どうぞ」

 ジェラートを食べ終えた後、街巡りを始める。本当は科学館や博物館を巡りたいところだったが、なけなしの乙女心がそれを思いとどまらせた。代わりに雑誌で紹介されたスポットを街の観光スポットに交えて案内する。

「ここの広場の噴水、夜になると魔法で七色に光るんですよ」

「へえ、すごいな。サーシャも作れるのか?」

「結構調整が難しいんですよ火魔法と水魔法の術式が中々複雑なんです。まあ、私なら簡単ですけど!(ドヤさ)」

 カイの感心した顔を見て、少し得意になってしまう。

 あれよあれよという間に、空は夕暮れに染まっていた。商業地区に入り、ウインドショッピングをすることにする。

「カイ、見てくださいよ。香水のお店ですよ」

「香水か、つけたことがないからあまり分からないな。ここでは当たり前なのか?」

「そうですね、マギポリスでは結構普通かもしれません。……興味ありますか?」

 少し期待を込めて聞いてみる。

「そうだな、せっかくだし見ていくか」

 中に入ると、様々な香水が入り混じった独特な匂いがする……というわけではなかった。風魔法によって空気が循環していて、無臭といってもいいほどの環境だった。品揃えが良く数十種類のキラキラと光る瓶に詰められた香水が並び、綺麗な光景が広がる。

「色んな香水があるんだな。でもどれがいいのかよく分からないや」

「ここのお店は全て試せます。色々かいでみたらいいですよ」

「そうなのか。おお! これとか結構好きかも。バニラかな?」

「甘い系の香りが好きなんですか?」

「んん? どうだろうな。この柑橘系の香りとかも好きだな」

「そうですか。ならこれはどうです?」

「おお、いいな。バラ?」

「そうですよ。結構好きなんです、この香り」

 少し声のトーンを落として続ける。

「……そういえばカイ、女性が付けているなら、どんな香りが、その、あの、好きですか?」

「そうだな、うーん。あ、これとか付けているとドキドキするかも」

 「そうですか……この香水ですね。分かりました」

 こっそり後で買いに来ることに決めた。

 香水店を出た後は、ウインドショッピングを続けて様々な店を回る。カイに私好みの服を着てもらうことにも成功して満足。

「もう暗くなってきたな」

「ええ、そろそろ帰りましょうか」

「そうだな。でも、その前に……」

 カイが何かを言いかけて、少し躊躇う。

「どうかしましたか?」

「いや、その、家で夕飯作ろうと思って。材料、買って帰らないか?」

 思いがけない提案に、心臓が跳ねる。

「カイが、料理を?」

「ああ。これでも得意なんだよ、今日のお礼も兼ねてさ」

「行きましょう! 私も手伝います!」

 市場に向かう道すがら、カイと献立を相談する。自然と肩が触れ合うほど近づいて歩いているのに、もう気恥ずかしくない。

 結局、パスタを作ることに決めた。私が具材を選び、カイがレシピを考える。まるで本当の……そんなことを考えて、また頬が熱くなる。


 家に着き荷物を整理して台所に向かい、二人で料理を始める。

「玉ねぎはこれでいい?」

「ええ、完璧です。私がソースを作りますね」

 包丁を持つ手に力が入りすぎないよう気を付けながら、野菜を刻む。時折、カイの腕が触れる。この距離感が、なんだかとても心地よい。

「へえ、サーシャって料理上手いんだな」

「当然です! 私ほどの天才なら、こんなの朝飯前ですよ!(ドヤさ)」

 と強がってみせたものの、最近ひそかに練習をしていたのは内緒だ。

「でも、カイも随分上手いですね。包丁さばきが様になってます」

「まあな。趣味みたいなものだからかな」

「意外な趣味に驚きですね」

「まあ、また最近ここの料理を練習していたんだがな。サーシャに食べさせてあげたかったしさ」

 思いがけない言葉に、手が止まる。カイも同じことを考えていたとは

「な、なんですか、急に……」

「いや、その、今日みたいな日のために、かな」

 二人とも顔が赤くなって、しばらく黙々と料理を続ける。

「あ、飲み物持ってきますね」

「ああ、グラスならここに……」

 カイがグラスを取ろうとして、私の手に触れる。そのまましばらく、手が重なった状態で止まってしまう。

「わ、私が注ぎますから!」

「お、おう……」

 真っ赤になった顔を隠すように、グラスにレモネードを注ぐ。

 テーブルに料理を並べ、照明を少し落として雰囲気を出す。自分たちで作ったパスタは、見た目も香りも上々だ。

「乾杯、しましょうか」

「ああ。今日は、ありがとな」

 グラスを軽く合わせる音が、静かな空間に響く。

「美味しい……! カイ、これ本当に初めて作ったんですか?」

「まあ、練習はしてたけど。サーシャの好みに合うか心配だったんだ」

 その言葉に、また胸が熱くなる。

「私の好みを気にしてくれたんですか?」

「当たり前だろ。サーシャの喜ぶ顔が見たいし……って、あ」

 言いかけて慌てて口を覆うカイ。その仕草に、思わず笑みがこぼれる。

「もう、素直すぎますよ」

「だって、サーシャが可愛いから……」

「はぁ……カイときたら」

 でも、嫌な気はしない。むしろ、この率直さが愛おしい。

「あ、そうだ」

 カイが何か思い出したように言う。

「今日は本当にありがとうな、今度は俺から誘うよ」

 言葉を詰まらせるカイに、私は小さく頷く。

「はい、期待しています。しっかりエスコートしてくださいね」

 今度はカイからデートに誘ってくれた。その事実に、密かに胸が躍る。

 レモネードを飲みながらの会話は、自然と夜更けまで続いた。明日からまた研究漬けの日々が始まる。でも今は、この時間を大切にしたかった。

 テーブルの上のグラスに映る炎が、静かに揺らめいている。その光が作る影が、二人の距離をより近づけているような気がした。

 何も言葉にする必要はない。ただ、この瞬間を、このぎこちない距離感を、心地よく感じていた。

 この曖昧な関係の心地よさからはまだ抜け出せない。せめて、終わるその時は……彼からがいいとそう期待する。
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