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24話・自覚した気持ち
しおりを挟むわずか半日で第四階層に到達した。
ギルドに提出した探索計画書は全行程六日で申請してある。帰還に一日くらいかかるとすれば、丸四日は探索に充てられる。
「前回天井付近のくぼみに宝箱があったので、今回も上の方を注意して見ていこうと思います」
「わかった」
第三階層までは行き止まりの道の地面に無雑作に置かれていたが、第四階層からは宝箱の出現場所がやや違う。目につきにくい場所に隠されているような気がする。普通に歩き回るだけでは恐らく何も見つけられず、モンスターと戦うだけで終わってしまうだろう。
「ゼルドさんのほうが目線が高いし、僕より見つけやすいかも」
「そうだな。……あ、あった」
話しながら進むこと数分、早速ゼルドさんが壁の上の方にあるくぼみを見つけて立ち止まった。随分と高い位置にあるため、壁を登らなくては手が届かない。
「ライルくん」
「ひゃあっ」
一人で壁に登ろうとした僕の脇に後ろから手を差し込み、ゼルドさんが持ち上げた。そのまま高く掲げられる。まるで小さな子どもをあやす時みたいだ。
「手は届きそうか?」
「うーん……まだまだです」
この辺りの壁は凹凸が少なく、手や足を引っ掛けられるところが少ない。せっかく持ち上げてもらってるのに高さが足りず、自力で登るのも難しい。
「では私の肩に乗るといい」
今度は僕を自分の肩に座らせた。頭を太ももで挟む体勢になる。突然の肩車状態にうろたえてしまう。
「そのまま立てるか?肩に足を置いてくれて構わないから」
「えっ、いや、そんなこと」
「早くしないとモンスターが来るかもしれないぞ」
「は、はいっ」
ゼルドさんの頭に手を置き、恐る恐る肩の上に靴裏を乗せる。ブーツのまま人の上に立つなんて抵抗ありまくりだけど、いちいち脱いでいる余裕はない。ここはダンジョンのど真ん中で、いつモンスターが襲ってくるか分からない状況なんだから。
「ありました!」
ゼルドさんの肩の上で立ち上がり、壁のくぼみを覗き込むと、奥に宝箱があった。しかし、微妙に手が届かない。
「あ、そうだ」
さっき使ったあと腰のポーチに入れておいた『偉大なる神の手』を取り出して引き伸ばす。ちょうど良い長さで、無事宝箱を開けて中身を取り出すことに成功した。
「めちゃくちゃ便利ですねコレ」
「まさに『偉大なる神の手』だ」
ゼルドさんから降り、入手したものを確認する。
「これ、もしかして」
鍔のない短剣。
もしや『対となる剣』かと期待が高まるが、ゼルドさんの鎧の左胸部分にある模様と同じ細工は見当たらない。装飾が一切ないシンプルな拵えだ。
試しに左胸に押し当ててみるが、やはり鎧は外れなかった。残念だけどハズレだ。
「短剣はライルくんが使ってもいいんじゃないか」
「でも僕、戦えませんよ」
「護身用だ。何があるか分からないし、丸腰よりはマシだろう」
確かに、ダンジョンの中にいるのに武器の類を一切持っていないのは心許ない。もしゼルドさんとはぐれたら……ちょっと想像しただけで怖くなった。
短剣は腰のベルトに挿して携帯することにした。
その後もモンスターを倒す合間に探索し、幾つか宝箱を発見したものの、探し求めているアイテムは出てこなかった。
安全を確保した休憩ポイントで腰を下ろし、がくりとうなだれる。
疲れというより焦りで精神的にキツい。必ず見つかるわけではないと頭で理解していながら、それでも宝箱を見つけては「今度こそ!」と希望を抱く。本来なら、アイテムを入手しただけで嬉しいはずなのに素直に喜べない。
「はあぁ……すみません、見つかりませんでした」
「君が気に病む必要はない」
「だって、鎧が脱げなくなってもう半月ですよ!まさかこんなに長引くなんて」
涙目で訴える僕の頭を、隣に座るゼルドさんの大きな手のひらが撫でた。泣き言をこぼしたいのはゼルドさんのほうだろうに、先に僕が嘆くものだから毎回慰め役に回ってくれている。
『失われた技術』で作られた鎧の防御力は桁違いに高く、さっきモンスターに引っ掻かれても傷ひとつ付かなかった。素晴らしい装備なのに、脱げないという一点が全てを台無しにしてしまう。
「ライルくんが作ってくれた着替えもあるし、汗取り用の布もある。不快ではない」
少しでも快適に過ごせるよう可能な範囲で色々と考えて実行してきたけれど、完全に不快を取り除けたとは言いがたい。それでも、ゼルドさんは前向きな言葉だけを口にする。僕が落ち込むから気を使ってくれているのだ。
「……僕、役に立ってます?」
「ああ、君のおかげで助かっている」
真っ直ぐ僕を見据えてそう答えるゼルドさん。
表情は穏やかで、ここがダンジョンの中だということを忘れてしまいそうになる。
こんなに優しい人なのに、どうして他の人たちは怖がるんだろう。ちょっと見た目が厳つくて無口なだけで、ゼルドさんは優しくて寛容で強くてカッコいい。
失敗しても許してくれて、
頑張ったら褒めてくれて、
いつも僕を気に掛けてくれる。
この前なんて、わざわざ夜中にギルドまで迎えにきて、酔い潰れた自分を介抱をしてくれた。彼が怒るのは無茶した時だけ。他はぜんぶ甘やかしてくれる。
……あれ?
もしかして、そんな扱いされてるの僕だけ?
「ライルくん、どうした」
「え、あっ、いえっ、なんでもないです!」
急に黙り込んだ僕を心配したのか、隣に座るゼルドさんが顔を覗き込んでくる。慌てて首を横に振って視線を外した。
他の冒険者に自分の場所を狙われて不快に思ったのは、ゼルドさんのためにならないからだけじゃない。僕自身がゼルドさんの隣にずっと居たいと願っているからだ。
どうしよう。
気付いてしまった。
──僕、ゼルドさんが好きみたいだ。
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