【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

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53話・対となる剣

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 帰還報告と戦利品鑑定のためギルドに立ち寄る。

「なんだ、媚薬の卸売業者かと思った~」
「違います」

 探索の成果は媚薬の小瓶が五本と謎の金属片だけ。確かに薬屋さんかと思われても仕方がないラインナップ。偏りが酷い。

「買い取り金額は一瓶金貨一枚な~。幾つ売る?」
「全部です」
「店で買うと倍の値になるぞ~?」
「結構です」
「若いから薬に頼らんでも勃つか~」
「もう、アルマさん!!」

 なんだかんだ言いながら媚薬を所持させようとしないでほしい。アルマさん、女性なのに慎しみとか恥じらいとか無さすぎる。

 ケラケラと笑いながら、アルマさんはテーブルの上に買い取り代金の金貨五枚と大銀貨一枚を積み上げた。大銀貨は金属片のぶん。

「ゼルドさん、どうぞ」

 今回は二人で割り切れない金額だ。これなら多く受け取らざるを得ないだろう……と思っていたら、ゼルドさんが懐から財布を取り出した。そして、テーブルの上から金貨三枚を受け取り、自分の財布から大銀貨五枚を取り出して置いた。
 大銀貨十枚で金貨一枚に繰り上がる。
 つまり、これで割り切れない金貨を等分に分けたということだ。まさかお釣りを用意してくるとは思わなかった。

「ゼルドさん、大銀貨忘れてますよ」

 割り切れなかった残りの一枚を指差せば、ゼルドさんは少し悩んでから「細かい貨幣の持ち合わせがない」と肩を落とした。小銭があれば、 こちらも等分したかったらしい。なぜ頑なに多く受け取ることを拒否するのか理解できない。
 その大銀貨をゼルドさんのほうへと寄せると、途端に不服そうな顔を見せる。

「代わりに夕食奢ってください」
「……分かった」

 ここまで言ってようやく受け取ってもらえた。
 報酬の分配を終えてひと息つくと、アルマさんが口元を手で押さえながら笑いを噛み殺していた。

「ホント、全員おまえらみたいに仲良く報酬を分けてくれりゃあいいんだがな~」
「他の人たちは違うんですか?」
「最悪殴り合い」
「うわあ」

 ダンジョンで見つけたアイテムの鑑定、買い取りは全てここで行われる。仲間内で報酬を分けるのも当然ここで行うため、必然的にアルマさんが立ち会うことになる。
 キッチリ人数で割るパーティーもいるが、働きに応じて差をつけるパーティーもいる。話し合いで何とかならない場合はケンカになるので、その都度アルマさんが部屋から叩き出している。

「そういや、一昨日くらいに帰ってきたパーティーも揉めてなかったな~。即席で組んだ割にリーダー格のヤツがうまくまとめてた~」

 それだけで印象に残ってしまうほど大半の冒険者は揉めているということか。みんな生活がかかってるのだからムキになるのも仕方がない。

 しかし、話はそこで終わらなかった。

「そんでな、そのパーティーのリーダーがおまえらの探してる剣持ってたぞ~」
「えっ!?」

 そっちの話のほうが重要なんですけど!

「そ、それ、どこにありますか!?」

 思わずテーブルの上に身を乗り出し、アルマさんに詰め寄る。

「確保しといてやるつもりだったんだが、そいつ、その剣を売りに出さなかったんだ~」
「なんで?」
「どうやら探索中に武器が壊れちまったらしくてな~、代わりに使うから売らないんだってさ~」
「そっ、そんなぁ……」

 予想外の展開に青ざめる。
 見つけたアイテムは必ず鑑定や買い取りに出さねばならないわけじゃない。自分で使いたければ手元に置いておくのも有り得る話だ。でも、僕たちが探し求めている『対となる剣』がそうなるとは思ってもみなかった。

「どこの誰か分かりますか?」

 可能なら買い取りたい。どうしても手放せないと言われたら、ゼルドさんの鎧を外す間だけでも借りたい。

「最近スルトから拠点移動してきたとか言ってたかな~?二十代半ばの茶髪の優男なんだが」

 アルマさんが教えてくれた特徴に合致して第四階層まで到達している冒険者といえば、思い浮かぶのはただ一人。

「……もしかして、タバクさん……?」

 ダンジョン内で行き合った時、既に所持していたんだろう。普通に腰にさしていたから全然気が付かなかった。

 第四階層に入るとモンスターが強くなる。それまで使っていた剣が破損し、偶然宝箱から出てきた剣を代わりに使うのは当たり前だ。その辺の武器屋では買えないくらい性能が良いだろうし、手放したくないのも理解できる。


『ま、良さげなもん見つけたからいいけどさ』


 タバクさんの言葉を思い出す。
 あれは『対となる剣』のことだったんだ。






 定食屋で早めの夕食をとりながら、今後どうするかを話し合う。

「剣を譲ってもらえないか頼んでみます」
「私の問題だ。私が話をつける」

 タバクさんは僕の知り合いだ。見ず知らずの冒険者よりは話を持ちかけやすい。

 しかし、ゼルドさんは僕がタバクさんに関わることを良しとしない。嫉妬もあるんだろうけど、交渉するなら気弱な僕よりゼルドさんのほうが向いている。ただ、今回はこちらから頼みごとをする立場だ。威圧で乗り切るわけにはいかない。

「もし売ってもらえるとしても、かなり高いですよね。お金足りるかなあ」
「ギルドの口座に多少のたくわえがある」

 アルマさんによれば、査定額は金貨二十五枚。僕には手が届かない金額だ。そこに多少上乗せして要求されたとしても支払えるくらいの余裕はあるという。お金で解決できるのならそれに越したことはない。

「ライルくん」

 向かいに座る僕の頬にゼルドさんの手が触れた。軽く撫で、すぐ離される。

「改めて言っておくが、この件で話をするのは私だ。君は決して交渉に関わらないように」

 告げられた言葉だけを聞けば拒絶としか思えない。厳しい口調の裏に、僕に対する気遣いと心配があると知っている。

「わかりました。お任せします」

 笑顔で頷くと、ゼルドさんは表情をゆるめて息をついた。

 宿屋に戻るとタバクさんはダンジョン探索に出掛けていて留守だった。彼らのパーティーは数日早く帰還していったのだから、僕たちが帰還する前に再び探索に出てしまったのだ。

 タイミングがズレてしまうと同じ宿屋に泊まっていてもなかなか顔を合わせる機会はない。これ以上行き違いにならないよう、僕たちは宿屋で数日待機することにした。


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