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84話・波乱との別れ
しおりを挟む僕が知らないうちに憲兵がタバクさんを連行していった。ヘルツさんが証言をしてハイエナ殺しの凶器である長剣も渡し、後は大きな町で裁くことになるらしい。
これでもう二度とタバクさんと会うことはない。今まで抱えていた漠然とした不安は消えた。でも、やっぱり悲しい。
そして、フォルクス様が王都に帰る日取りが決まった。表向きの用事である冒険者不審死事件の犯人が無事捕まったのだ。これ以上オクトに滞在する理由はない。
フォルクス様はオクトのギルドにかなりの金額を寄付した。理由は『体調を崩して予定より長く逗留したことに対するお詫び』だけど、ゼルドさんの活動拠点を快適にしたいだけだろう。ヘルツさんが勝手な真似をした件については知らされていないのか一切触れなかった。
貴族の出資は珍しいことではないが金額が大きく、メーゲンさんは使い道に頭を悩ませていた。寄付金は帳簿に載る。何に使ったかをきっちり管理、報告せねばならない。
「思いきって橋でも作るか~?」
使い道を考えている時、アルマさんが提案したのは『第四階層の大穴に橋をかける』ことだった。オクトのダンジョン最大の難所であり、探索が進めば避けては通れない道である。
「そうだな、そうするか!」
「こういう時でもなきゃできないわよね」
メーゲンさんもマージさんも他に良い案が思い付かなかったようで、アルマさんの案に賛同した。
特に、メーゲンさんたちは先日大穴まで行ってきたばかり。実際に現地を目にしたからこそ必要性に気付いたのだろう。大きな事業は町の活性化にも繋がるし、良いことづくめだ。
唯一大穴越えをしたパーティーということで、僕たちも話し合いに呼ばれた。オクトで活動する全ての冒険者が恩恵を受けられる案に異存はない。「橋があったらいいな~」とゼルドさんと話したこともあったけど、まさか本当にそんな展開になるとは予想外だった。
橋をかけるための資材の調達、現地まで運搬する手段、職人の手配など決めなくてはならないことは山ほどある。冒険者に打診をして、資材運びや工事中の護衛などを頼む必要もある。
「それで、護衛任務をゼルドさんにお願いしたいんだけど」
「断る」
ゼルドさんはマージさんからの頼みを一蹴した。あまりにもアッサリ断られ、マージさんは数秒固まった。オクトのダンジョン探索で一番先を行き、大穴越えの経験もあるゼルドさんが来ないなんて考えられない、といった顔だ。
「なんで断るんですかゼルドさん!」
「依頼を受ければしばらくダンジョンに潜り続けることになる。君と離れて活動したくはない」
僕の怪我は完治しておらず、ダンジョンには潜れない。あんなことがあったばかりで別行動をするなど考えられないのだろう。
ちなみに、メーゲンさんたちは僕たちの交際をまだ知らない。ゼルドさんの一連の言動は行き過ぎた仲間への庇護欲くらいに捉えていると思う。
「じゃあ、ダールさんに頼みましょうか」
ダールはダンジョンの踏破実績がある凄腕の冒険者だ。ゼルドさんの代わりを務めるには十分過ぎる人材と言える。
しかし。
「えー?何それダルい」
肝心の本人のやる気がなかった。
ダールは一箇所でじっとしていられるような性格ではない。橋が完成するまで現場で待機するだけの仕事と聞き、あからさまに興味を失っている。フォルクス様の護衛任務を引き受けたのは目的地までの長距離移動を快適に過ごすため。護衛任務を好んで受けているわけではないのだ。
第四階層のモンスター相手に戦える冒険者は多くない。タバクさんと組んでいた三人組の冒険者は強かったけど、悪事の片棒を担いだ罪でギルドから除名処分を受けた。つまり、今のオクトには腕の立つ冒険者の数が限られている。
このままでは護衛不足で橋の建設話自体が立ち消えになってしまう。せっかく潤沢な資金があるというのにもったいない。
「ゼルドさん、ダール。お願い、協力して」
ダメ元でお願いすると、二人は顔を見合わせてから大きな溜め息を吐き出した。
「……では、交代で」
「だな。それなら引き受けてもいーよ」
僕を一人で町に残していくのが一番嫌だったらしい。数日おきに交代して僕のそばに付き添うことに決まった。
資材の運搬と職人の移動に二日、拠点の設営と橋の工事に約一週間、撤収に三日、計十二日で予定が組まれた。早速マージさんは資材と職人の手配、冒険者にも協力を要請して準備を進めていった。
橋の工事が始まる前に、フォルクス様がオクトを発つ日がきた。行きの時と同様に四頭引きの立派な馬車が数台ギルド前の通りに並んでいる。
ゼルドさんが貴族の身内ということは、メーゲンさんたちには結局明かしていない。知っているのは僕とダールだけだ。だから、フォルクス様との別れは僕の客室でひっそりと行われた。
「兄上、どうかお元気で」
「おまえも道中体調を崩さぬように」
「はいっ!ありがとうございます!」
ゼルドさんから気遣う言葉をもらい、フォルクス様は満面の笑みを浮かべた。その後、後ろで控えている僕へと視線を向け、複雑な表情でしばらく迷ってから「兄上を頼む」と小さな声で言った。一応恋人だと理解してくれたみたい。僕は何と答えるべきか分からず、ただ頭を下げて了承の意を示した。
フォルクス様のそばには当然ヘルツさんが控えている。彼は機嫌良さそうに微笑みながら恭しく頭を下げ、僕たちに形式的な別れの口上を述べた。
「ライル様が早く回復されますようお祈り申し上げます」
「……ありがとうございます」
どういう気持ちで言っているのだろうと思いつつ、僕も応える。
貴族の従者ともなれば、本心と真逆のことを平気で口に出せるのかもしれないし、嫌いな相手にも笑顔を向けられるのかもしれない。貴族社会はそういう駆け引きが当たり前の世界なのだろう。僕にはとても理解できないし、ゼルドさんにも似合わない。
メーゲンさんたちと共に外で見送る。馬車の姿が通りの向こうに消えて見えなくなった途端、安堵で気が抜けてしまった。
「傷に障る。早く中へ」
「ほとんど痛みはないですよ」
「ダメだ。まだ安静にしなくては」
ゼルドさんは別れの余韻などどうでもいいとばかりに僕の手を握り、ギルドへと誘う。その手を握り返し、不安な気持ちを心の奥底に押し込んだ。
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