【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

文字の大きさ
105 / 118

105話・剣を手にする目的

しおりを挟む


 体力が回復した頃から剣を扱う練習を始めた。

「まずは腰に剣を差した状態に慣れよう」

 普段から腰ベルトに剣を固定し、身体を重さに慣らしていく。使用するのは僕の脇腹を刺したあの短剣だ。ゼルドさんは別のものを用意しようとしたけれど、僕が「これを使う」と押し切った。せっかく所持しているのだから活用しなくては勿体ない。

「身体の均衡バランスが崩れると動きが悪くなる。帯剣した状態が当たり前になれば問題はない」
「わかりました」

 オクトにいた頃ダンジョン探索時に短剣を身に付けていたこともあり、重さにはすぐに慣れた。

 剣を振るうには握力と腕力が必要となる。支援役サポーターとして荷物運びをしているおかげで腕力はあるけれど、握力には自信がない。実際に剣を握って鍛えることになった。

 立ち寄った町のダンジョンに潜り、浅層で実践する。

「身のこなしに関しては問題ない。あとは剣の振り方を習得するだけだ」
「はいっ」

 意気込んでみたはいいけれど、剣で攻撃するって想像以上に難しい。特に僕は避ける癖がついている。
 こちらに向かってくるモンスター相手に斬りかかろうとしたけれど、つい逃げてしまう。たまに短剣の切っ先が当たっても、勢いで握っていた手から短剣が弾き飛ばされたりもした。

「ゼルドさんやダールって凄いんだなぁ」

 挑んでは逃げるを繰り返してしまう自分に呆れ、肩を落とす。身近に強者がいるから忘れがちになるけれど、剣一本で生きていくのは相当たいへんなことなのだ。

「君はモンスターとの対峙には慣れている。あとは思い切り振るうだけだ」

 習い始めたばかりですぐにうまくいくなんて思ってはいない。でも、落ち込む。

 半日ほどでダンジョンから町に帰還し、宿屋で休息を取る。
 オクトを出てから移動ばかりでダンジョン探索をしていない。今回は僕の訓練のために潜ったため、宝箱は一つも見つけていない。それなのに、僕の手のひらは慣れない剣を握り過ぎてマメができてしまった。

「このままじゃ、僕……」

 痛む手のひらを眺めていると、ゼルドさんが後ろから抱きしめてきた。大きな手が僕の手を掴み、状態を確認する。

「こんなになるまで頑張ったのか。明日は訓練はやめて身体を休めよう」
「僕まだやれます」
「痛みが出れば余計に訓練が遅れてしまう」

 ゼルドさんは僕の身体を反転させ、向き合う体勢にした。真剣な眼差しに射抜かれ、目がそらせなくなる。

「無理をして身体を痛めては意味がない。焦らずゆっくりやろう」
「……、……はい」

 渋々頷くと、何か思うところがあったようで、ゼルドさんは少し悲しそうに眉をひそめた。

 休息日を交えつつ訓練を続けた。
 短剣と大剣では長さや重さだけでなく用途から違う。短剣は攻撃が届く範囲が狭い。真っ向からモンスターとやりあうには危険が大きいのだ。

「ライルくん、もう少し長い剣に持ち替えよう」
「え、でも」

 短剣を胸に抱えて躊躇う素振りを見せると、ゼルドさんはまた眉間にシワを寄せた。僕にこの短剣を持たせたままにしたくないのだろう。視界に入れる度、どうしてもあの日の光景を思い出してしまうから。

「じゃあ、代わりにこれを貸してください」

 短剣の代わりとして僕が選んだのは、ゼルドさんが腰に差している『対となる剣』だった。細身で軽く、長さもあり、僕が装備する武器の条件を満たしている。

「新しく買ったら荷物が増えてしまいますし、ゼルドさんだって使わない剣をずっと身に付けているのも大変でしょう?」

 手に入れて以来、『対となる剣』はずっとゼルドさんが腰に差している。でも、モンスターと戦う時には一度も抜いたことがない。ゼルドさんの武器は背中に担いだ大剣で、細身の長剣は使わない。

「……そうだな。今の君ならこの剣のほうがいいか」

 少し迷ってから、ゼルドさんは『対となる剣』を腰から外して僕へと差し出した。その代わりに短剣を受け取り、荷袋の中へとしまい込む。

 『対となる剣』は僕の手に馴染み、浅層の弱いモンスターなら一人でも何とか倒せるようになった。細く長い切っ先は斬りつけるより突き刺す攻撃が向いている。モンスターの突進を避け、振り返りざまに背後から狙う戦い方が僕には合っているようだった。

「もう十分身を守れるな」
「はいっ」

 こうして『対となる剣』は僕専用の武器となり、僕の目的は果たされた。

 鎧を外す鍵であるこの剣は、ゼルドさんにとって欠かすことのできないアイテム。それを預かる立場になれば簡単には切り捨てられなくなる。

 これは僕の価値を守るためのもの。

 強くなりたいと願った本当の理由はこれだ。戦えない支援役サポーターのままでは『対となる剣』を任せてもらえない。だから剣を手にすると決めた。素人同然の僕には高価過ぎるけれど、ゼルドさんは金銭感覚がユルいから抵抗なく預けてくれた。

 間近に迫るモンスターへの恐怖や斬りつけた瞬間に剣の柄に伝わる衝撃、嫌な感触を全て我慢して、僕はようやく望みのものを手に入れた。



しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?

転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact
BL
11/6〜番外編更新【完結済】 転生してきたのかなーと思いつつも普通に暮らしていた主人公が、本物の主人公と思われる人物と出会い、元の世界に帰りたがっている彼を手伝う事こそ転生の意味だったんだと勝手に確信して地道に頑張る話。元同級生✕主人公(受け)。ゆるーっと話が進みます。全50話。 表紙は1233様からいただきました。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

異世界転生~女子高生が男の子に生まれ変わったのだが

松林 松茸
BL
「これは使命だ。多分だけど私だけに与えられた使命だ!だから・・・美味しく頂かなくては・・・」 女子高生の「西口 麗奈」は異世界に男の子「ハイネ」として転生してしまった。 迫りくる美少年、迫りくる亜人種相手に・・・軋むベッドの音、奏でるホーモニー。 体は男、心は女の冒険活劇が今始まる!・・・性的な意味で。 ※男性同士の性的描写を含みます。むしろ性的描写を描きたくてこの小説を書いています。  後半は普通にファンタジー内容になりますが性的描写はやはり入ります。苦手な方はご注意ください。 ※過去に「小説家になろう」で連載していた小説です。累計アクセス24万超えでした。 お知らせ~平日:17時更新、土日:12時更新に変更します。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

処理中です...