人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ

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第2話 めざせ生存! めざせ絶対無罪感!

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「よし、いい子でいよう」
原作のぼくは、まぁまぁ……結構なワガママ王子って感じ。
しかもあんまり喋らないし、暗いし、ツンツンでなに考えてるかわからないかも。

でも別に根っからのわがままボーイだったわけじゃないのよ。
5才で理由もわからないままひとりで知らない国に連れてこられて人質――って、あまりにも心細すぎぃぃじゃない?

つまりぃ、不安で心配すぎてワガママになったってこと。

「…………」
不安ならいい子でいようよ!
妙に周りが気を遣ってくれるから「これはだいじょうぶ……?」「じゃあこんなこといったら……?」ってどこまでが許されラインか確認したくなった、っていうかぁ。

「でも、ダメでしょ! ワガママはダメです!」
お試しでワガママをエスカレートされる側の身にもなってみよーよ。

「困っちゃうよ?」
ね、困っちゃう。だから今度はワガママだめ。いい子でみんなに優しくしよう。あと、暗くてなんもしゃべらなさすぎて、なに考えてるかわからない子になるのもダメ。

ぼく覚えてる。原作で「不気味な子」とか「陰気な子」とか「なにか企んでそうで怖い」とか言われたの。

……結構さんざんな言われよう。

「とにかく!」
原作ではそれで、最初やさしかった侍女さんたちにとうとうブチギレられて、味方ゼロ!になっちゃったんだから。

できるだけ「なんか企んでそう感」がでないように、わかりやすい企まなさそうな子に思われるように?ふるまわないと。

「んん……? それって――」
わかりやすい、企まなさそうな子。

「ぐたいてきに、どぉぉする?」
うん、よくわからない。

とりあえず……思ったことはちゃんと伝えていこう。
あと、ワガママは言わない。
それと、えーっと、人の気持ちとか立場とか考えよう。

「うん、それで決まり!」

そうと決まったら、無駄に寝室をぐるぐる歩き回ってないで、なんか対策とか考えよー

「がんばるぞ!」
ぼくの、異世界せいぞん戦略、すたーと!

***
「アン。ちょっといいかしら?」
「なにかしら、ドゥ」
「ロワも手は空いてる?」
「ええ、大丈夫よ」

「……」
侍女さん3人組は、部屋の向こうでなにか話している。
「あん、どぅ、とろわ……」
それをこそーっと眺めていたぼくは、彼女らの名前を口にしてみて、はっとした。

「す、すごい! 1.2.3だ!」
「……? サファさま? どうかなさいましたか?」
「あ、ううん! なんでもない」
いっせいにバッとこっちを向いた3つの視線に、ぼくはビクーとしながら華麗に誤魔化した。

ぼくの世話を焼きまくってくれてる侍女さんたちは、3人ほぼ一緒。
年の感じも、雰囲気も、背の高さも一緒。キャラもあんまり区別がつかない。
全員親切で、よく気がついて、過保護で、ちょっとめんどくさ……いや、ちがくて……目ざとくて仕事熱心。
そしてなにより――

「同じすぎ」

どーみても、一緒。三つ子感ある。
顔がすんごく同じだ。
前世を思い出して、今世のサファとしての記憶を思い出してみても、みんながそんなそっくりなことはない。
(でも今度、他の人とか探して確かめてみようかな)
そう思いついて、ふと怖くなる。
どうしよう、会う人会う人みんな同じ顔だったら。

「それはちょっとしたホラー」
思わず、王宮中をさまよう数え切れない同じ顔が思い浮かんで、ちょっとブルっとなる。

「あら、サファさま! お寒いですか? 窓を閉めましょうね」
「大変。いますぐお召し物を」
「あ、ううん。あの――」
「それから、温かいお飲み物と暖房と――」


「えーっと」
あっという間にもこもこに着膨れさせられたぼくは、密閉され温められた部屋で、温かい薬草茶を手に、冷や汗じゃない普通の汗をかいていた。

「サファさま、温かくなりましたか?」
「いや、あのぅ……」
「まだお寒いですか? まさか、お風邪を召したわけでは」
「や、あの、ちがくて!」
「なんでしょう?」
「……」

同じ顔にぐいっと詰め寄られて、普通の汗だけじゃなくて冷や汗もでてくる。
「あ、暑いかなって……」

このままだとびちょびちょになって、逆に風邪をひくのでは。
はっ……! もしやそれがねらい?

無理やり病気ってことにして、厚着させて熱いものを飲ませたりして、ビチャビチャにしてほんとに風邪をひかせて、さらにうまいこと悪化させて苦しめるつもりかもしれない!

さっそく!?
ぼく、処刑ルート回避しようとしてさっそくなんか間違えた?

うわーーん、3人とも、こんなに親切そうなのに!

「あら、暑かったのですね。それは失礼いたしました」
「え」
と思ってたら、3人はさっさとぼくを身軽にして暖房をやめて窓も開けてくれた。

すごい!

切り替えが早い!

あっという間に温かい飲み物から冷たい飲み物に持ち替えさせられて、ぼくは目を大きくした。

そしてなんてひどい、ぼくの被害妄想!

3人はただ親切で世話焼きすぎで過保護すぎっていうだけで、ぼくのシンプル被害妄想だった。

「ごみんなさい」
幼児の口はちょっと使いづらい。気を抜くとすぐ舌足らずになるのがダメ。

「なまむぎなまごめなまたまご」
うん、少し早口言葉も練習するようにしよう。

「サファさま? 麦……をご所望ですか?」
「お米と卵も? ……ですか?」
「あら、なにをなさるんでしょう……?」

あわわわ、なんか変なこと言い出した子みたいになってる! いや、そのとーりではるけど。
だめだめ、不気味な子とか思われたら、ぼくのイメージに関わるっ! でもって、イメージはのちのち命に関わるっ!

えーっと……ど、どうすれば……?

「サファさま。もしよろしければ、詳しく教えていただけますか?
「え! あ、ううん! なんでもないよ! それより――」
「はい、なんでしょう?」
「……」

しまった。
適当に話をそらすはずが……逸らす先の話題をなにも考えてなかった!
なんともうかつ。うっかりさん。

「えーーっと……」
「はい」
またまた、同じ顔が3つ、グイグイーと迫ってくる。

そうだ!

「あの、3人は姉妹とかなの?」

ちょうど聞きたかったことがあるじゃないか。
この世界は3人だけがこんなにもそっくりなのか、全体的にそっくりなのか、確かめておきたい。
後者の場合、後で部屋の外に出て同じ顔フェスティバルでビビり散らかさないように、心の準備が必要。

「3人はその……そっくりで――ハッ!」
言いかけてぼくは、しまった!となった。人からあなたたちソックリだね!とか言われるのイヤかもしれない。どうしよう! これで嫌われたら。

「はい、そうですわね」
「昔からびっくりするほど似ているんですのよ」
「うふふ、そうなんですの」
よかった! 気にしてなかった。ぜんぜんだった。一安心!

「サファさま。わたくしたちのことにご関心が?」
「うん、知りたい! もしかして3姉妹とか!」
「まぁ3姉妹といっても間違いではありませんわね」
「だいたいそんな感じですわ」
「……?」

3人は顔を見合わせて意味ありげにウフウフ笑っている。
むむむ、この意味深な感じ、単純に姉妹じゃない感じ。
もしかして――

「もしや三つ子さんとか!」
「いえ、違いますわ」
「……」
普通に違った。
じゃあその意味深はなに!

「実はわたくしたち、姉妹と従姉妹なんですのよ」

うー残念! 3姉妹でも三つ子でもなかった。
「えーっとじゃあ、うーんと、アンとドゥが姉妹?」
アン、ドゥ、トロワといえば前の世界のフランス語の1.2.3だ。
となれば、やっぱり1と2が姉妹ってことかな。

「いいえ、アンとロワが姉妹。ドゥが従姉妹ですのよ」
「アンがおねえさん?」
「いいえ、わたくしロワが姉、アンが妹です」
ガーーン。3のほうがお姉さんで1が妹。

……あれ?

「ロワ?」
「はい。わたくしが姉ですの」

トロワじゃなくてロワ!
惜しい……。

「え、じゃあドゥは?」
「わたくしは従姉妹ですわ、サファさま」

惜しいしややこしい。
1が妹で2がいとこ、3っぽい人が姉。

「そ、そうなんだー」
しかも見た目は見分け不可能。

「ええ、でも全員同じ年の生まれですの」
「ねえ」
「ふふふ」

姉妹と従姉妹だけど同じ年。
3は3じゃないし、妹じゃなくて姉。
1は姉じゃなくて妹。
2は間に挟まった従姉妹。

「……なるほど」
えーーと、ぼくはどうやって見分けたりすればいいのかなぁっと。

名前間違えて呼んだら、嫌われて敵になって、10年後積極的に処刑を推奨されたらどうしよう。
お話のなかでは、5年後くらいにビックリするほどしっかり嫌われるしなぁ。

「なるほど」

なんとか頑張って覚えるしか……

「3人は仲良しなの?」
「はい。もちろんですわ!」

「じゃあ……ずっと3人とも仲良く一緒にいてね」

「まぁ、サファさま。うふふ、わかりましたわ」
「ふふ、私たちが3人一緒にいるのがお楽しいのかしら」
「私たちに興味を持っていただけると思わなかったわ」

「ふふふふふ」
一緒だったら呼び間違えも大丈夫だよね!
うん、ぼく頭いいかも!

作戦が姑息……ともいう。
い……いいんだろうか。こんなんで。

いや、手段は選んでられないっ! なんせ命がかかってるんだから!
なんでもいーからとにかく、わかりやすくて素直で裏のないいい子、ぜったい悪いこととか考えてなさそーな子、にみられるのが大事! 超大事!!

めざせ、絶対無罪感!!

目標:この子、生かしておいても問題ないよね。処刑とか可哀想!イメージの獲得!


よぉぉし、がんばるぞー!
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