人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ

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第25話【サファの絵本】『オルゴールくん まだまだ歌う!だいぼうけん』

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とあるおうちの、すみっこのおへや。
ほこりがもくもくたまった、そのすみのすみ。
使われなくなったおもちゃがどさっとつめこまれた、大きなおもちゃ箱がありました。
その箱のそのまたすみっこに、古いオルゴールがひとつ、眠っています。

古くなったオルゴールくんのからだは、もうボロボロ。
きらきらの石のかざりはなくなって、ゼンマイもまわりません。
ふたも開かないし、ネジもいくつかなくなってしまいました。

――ぼくは、いつまでここで眠ってるのかな……?

オルゴールくんは、ゆらゆらした夢の中で、そんなことを考えていました。

ときどき、ふたのすきまから ひかりがチラリ。
遠くで、にぎやかな話し声や、楽しそうなメロディがきこえてくるけれど──
古くなったオルゴールくんは、箱のなかでただただじっとしていることしかできません。

ところが、ある日。

パタパタパタ、足音が近づいて。
ギィィ、としばらくぶりに部屋のドアが開きました。

――だれか、来たのかな?

「この部屋も、いいかげん少しは片付けないとなぁ」

聞こえたのは、むかしよく聞いていた声。

――わぁ、なつかしいなぁ。

また、ぼくを鳴らしてくれないかな、そう思ったオルゴールくんですが、すぐにハッとします。

――そうだ……ぼく、もう音が鳴らないんだった。

今のオルゴールくんは、きらきらしていたころの姿とは大ちがい。見た目はみすぼらしく、ゼンマイすらまわりません。

――こんなんじゃ、きっとがっかりされちゃう。

箱のすみのすみで、ちいさくなって、なつかしい声の主が去るのを待ちます。

しかし――

ガタガタッ!
きゅうにおもちゃ箱が大きくゆれて、ふたがパカッと開きました。

「あー、おもちゃ箱か」

まぶしい光の向こうから、あの声。


「馬のおもちゃに、ボールに、おもちゃのメダルのセット。そういえばこんなのあったな」

ガサゴソ、と箱の中を探る手が、どんどん近づいてきて、オルゴールくんはビクビク。

「……ん? このボロい箱はなんだ?」

――ドキッ!

とうとう、その手がオルゴールくんに触れました。

「……ああ、オルゴールか。なんでこんなにボロボロなんだ?」

――えっ!

オルゴールくんはびっくり。
昔、やんちゃだった持ち主の男の子が、らんぼうにあつかって、ゆかの上に落としてしまいました。

でも、年月がたって大人になった男の子は、もうそんな昔のことはすっかり忘れてしまったようです。

「まぁなんでもいいや。どうせ捨てるし」

――えっ! 捨てるだって!?

オルゴールくんはびっくり。

――そんなのは、ぜったいぜったいイヤだ!

体中のねじが飛び出しそうになるのを必死にこらえます。

――いったい、いったいどうしたら……。

うんうん考えても、このままではどうしようもありません。

「よし。このへんのもの、あしたまとめて捨てるか」

そう言って、持ち主の元・男の子はどこかへ行ってしまいました。

(ヤダヤダヤダ! 捨てられちゃうなんて、ぜったいにイヤだ!)

ぼくはオルゴール。
ゼンマイをくるくる巻いて、(♪~……)また、すてきな音を鳴らすんだ!

(ぜったいのぜったい! ぼくは、また前みたいにうたうんだから!)

オルゴールくんは、鳴らない音のかわりに、心のなかでさけびました。

すると、ふしぎなことに、ボロボロだのからだから、ほそい手と足がニョキッ!

(わああ、もしかしてぼく、うごける!?)

おもちゃ箱のすみっこから、いっしょうけんめい箱をよじのぼります。

(すごい、ほんとうにうごけたぞ!)

よじのぼったおもちゃ箱、ふたは開いたまま、外の世界はすぐそこです。

(どうしょう……)

ちょっとだけ迷うけど、このままじっとしてはいられません。
明日になったら、捨てられてしまうだけです。

(それなら……捨てられる前に、じぶんで直しちゃおう!)

ピョーーン!

オルゴールくんは、思いきりジャンプして、おもちゃ箱から飛び出しました。

ひとりで行くのはちょっとだけこわいけど、ゆうきを出してしゅっぱつです。

さびたからだ、ぬけたねじ、なくしたぶひんをさがしに──
だい・だい・だいしゅうりの だいぼうけん、しゅっぱーつ!



タトタト、とぶきように歩いてある部屋に来たオルゴールくん。

(あ、あれはなんだ? もしかして……)

テーブルの下に、ぴかぴか光るぎん色のなにかを見つけました。

(細長くてギザギザでピカピカしてる……これって、ねじかな!?)

ほそい手で、ぐいぐい、ぐいぐい、ねじこんで……、

……ぐにゃっ!

(あれれ? これ、ねじじゃなかった~! 銀色のお菓子の包み紙だ)

しっぱいしても、めげてるヒマはありません。今度こそ、ネジと、歯車を見つけなきゃ!

でも、トタトタ、パタタ――あたらしい足は、まだまだ歩くのになれません。

すべった! ころがった! どーーん!

(たいへん! またどこかこわれたんじゃ……)
あわててからだ中をかくにんします。

(だいじょうぶ、だいじょうぶ。ちょっと足をすりむいただけ)

せっかく手に入れた足に、さっそくすりきずを作ってしまいました。それでもオルゴールくんはあきらめません。

(どこかにきっと、ぼくにピッタリなぶひんがあるはず!)

トタトタ、トタトタ、今度はしんちょうに進みます。

そして──

(あれれ? あのまあるいギザギザは……)

へやのすみっこに、ちいさな歯車をはっけん!

(ピカピカの歯車だ! これ、ぼくのからだに合うかなぁ……?)

でも、ギシギシ、コロン――あたらしい手は、まだまだうまくあつかえません。

(どうやって、つけるんだろう)

わからないことだらけ。でも、考えて、ためして、しっぱいして。
また考えて、ためして、またしっぱいして……

それでもオルゴールくんはめげません。

(よーし、こんどこそ!)

まっすぐ歯車をからだの中に差し込んで……カチッ!

(やったー! ついた! ぴったりだー!)

それから、ネジをみつけて、きらきらのかけらをあつめて……

すこしずつ、すこしずつ──

オルゴールくんのからだは、じぶんの手で、直っていきました。


そして、ながいながいぼうけんのすえ、ついに──

「♪~………」

やさしい、すてきな音色が、オルゴールくんのからだからひびきました。

「わぁぁぁぁ、すごい!」

むかしのきらきらとは、ちょっとちがうかもしれないけど、
じぶんで見つけて、じぶんで直した、オルゴールくんだけの、世界でたった一つの音色です。

オルゴールくんは、すっかりじょうきげん。
音を鳴らしながら、広いお庭のベンチの上に、よいしょ、よいしょ。

「♪~………」

すこし高いところから鳴らす、あたらしい自分だけの音色は、まさにかくべつ!

ひとしきり楽しくうたって、オルゴールくんはふときづきました。

オルゴールくんは、がんばってがんばって、じぶんを直して、すてきなうたを歌えるようになったけど……

(まだ、ぼく、ボロボロのままだ)

このまま、もとのおもちゃ箱に帰っても、きっとそのまま捨てられてしまいます。

「ずーっとここで歌っていたら、だめかな……」

そのときでした。

「……あれ?」

だれかが、そーっとこちらに近づいてきます。

「ねえ、いま、うたっていたのはきみ?」

よってきたのは、まんまるの目をしたやさしそうな男の子。

「♪~………」

オルゴールくんは、じまんの歌声をきかせてあげます。

「わー、すごい! きみは自分で歌えるんだね!」

男の子は、まんまるな目をもっとまんまるにして、オルゴールくんをのぞきこみます。
「それに、手と足もついてて、かっこいい!」

まさか、新しい手と足までほめられるとは、うれしいびっくりです。

「ねぇ、オルゴールさん。ずっとここにひとりでいるの?」

そして、ちょっとだけ、はずかしそうに、声をひそめて……

「もしひとりなら、ぼくがつれて帰ってもいいかな?」

(えっ……ぼくを、つれて行ってくれるの!?)

でも、オルゴールくんは、言葉でこたえることはできません。

「どうしよう。だめかなぁ……」

やさしそうな男の子は、ほんとうに持って帰ってもいいか、まよっているようす。

「おへやにつれてかえって、箱をみがいて、あたらしい石もいれてあげたいなぁ」

(すごい! そんなことが、できるの!?)

そんなことができたら、どんなにすてきなオルゴールになれるでしょう。

「でも、かってに持っていったら怒られるかなぁ」

(ああ、どうしよう!)

このままでは、さよならになってしまうかもしれません。

(いっしょに行こう、ってどうやって伝えたらいい!?)

オルゴールくんにできるのは、音を鳴らすことだけ。

(……そうだ!)

オルゴールくんは、ていねいにていねいに、いちばんやさしい音色を鳴らします。

「♪~……♪♪~…」

それは、ありがとうの音。
うれしいよ、の音。

そして、いっしょに連れて行ってほしいな、の音色。

「わー、いいよって、いってくれたんだよね?」

男の子は、まんまるな目をきらきらかがやかせて、しんちょうにオルゴールくんをだっこしました。

「今日から、ぼくといっしょにたくさん歌おうね!」

「♪♪~~…♪♪~…」

オルゴールくんは、いちばん楽しい音色で答えます。

「ふふふ、なんだかきみとお話ししてるみたい」

(ははは、そうだよ。ぼくたちいま、言葉と音色でお話ししてる)

「ぼくが、ピカピカにしてあげるからね!」

「♪♪~~…♪♪~…」

オルゴールくんは、きっとこれから、まだまだたくさん歌うのです。
じぶんで手に入れた、じぶんだけの音色で。

おしまい。
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