虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

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51 いわくつきのお守り

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「それで、わたしに渡したい物というのはなんでしょうか?」

「なにもそんなに急がなくてもいいでしょうに……。まぁいいわ。シーナ様がレクオン殿下に嫁がれてから、ふた月は経ちましたでしょ?」

「ええ、それぐらいは経ちましたね」

 だから何だというのだろう。訝しがるシーナの前で、シェリアンヌは口元だけでにやりと笑った。侍女がなにかをシェリアンヌに差し出している。

「そろそろ御子が出来る頃合かと思ってね、安産のお守りを用意させましたの。犬はたくさん子を産むし、安産なのですって。シーナ様も、たくさん御子を産んでくださいませね?」

 シェリアンヌが差し出したのは、犬の形をした小さなお守りだった。布を二枚重ねて縫ったようで、綿でも入れたのかふっくらと膨らんでいる。しかしシーナは手に取ることもなくまじまじとお守りを凝視した。

 安産のお守りというのは普通、妊娠してから数ヶ月後に贈るものだ。子供を授かってすぐはまだ安定せず、流れてしまうこともある。妊娠したかどうかも分からない相手にあげる物ではない。

(この人はわたしに、子供を産めるものなら産んでみろって言いたいんだわ) 

 シェリアンヌは子供の頃からマシュウ王子と親しい付き合いをしてきたのだから、当然レクオンの事情も知っているはずである。レクオンが国王と全く似ていないことも、それによって彼が苦しんで来たことも――子供を持つことを恐れる心境だって分かっているはずだ。

(なんて嫌なひとなの……!)

 まるで湯が沸騰するかのように、激しい怒りを感じる。全身の血が頭に集中しているみたいだ。が、ここで取り乱してはシェリアンヌの思う壺である。

 ちょうどいいタイミングで注文したお茶が運ばれてきたので、シーナはそれを飲んで気分を落ち着かせた。シェリアンヌはケーキとお茶のセットを頼んだらしく、細いフォークでティラミスを食べている。シーナはお守りを手に取り、天使のほほ笑みを浮かべてみせた。

「わざわざ縫ってくださったんですか? ありがとうございます、大切にしますね」

「シーナ様は、婚約者のお姉さまと本当に同じ顔ですものね。さぞかしレクオン様に愛されているのでしょう?」

 どうやら顔だけで選ばれた妻だから、本当の夫婦になっていないのでしょうと言いたいらしい。だが怒り心頭のシーナはショックを受けることもなく、平然と言葉を返した。

「ええ、レクオン様は本当にわたしを大切にしてくださいます。シェリアンヌ様もそうでしょう? マシュウ殿下とはいとこで幼馴染なのですから、さぞかし仲が良いのでしょうね」

 マシュウが婚約者を毛嫌いしていることなど、ちゃんと知っている。二人の間には愛なんて存在しないはずだ。シーナとしては最大限の嫌味を言ったつもりだが、しっかりとシェリアンヌに伝わったらしい。彼女のこめかみがピクピクしている。

「ま、まぁそうですわね。マシュウ様はよくわたくしの話を聞いてくださいますわ」

 それは我が儘をきいてるだけでしょう――と思ったが、さすがにそれは言わなかった。お茶を飲み終えたシーナは店の者を呼んで会計を済ませ、席を立つ。

「今日はありがとうございました。お守りは大切にします」

 それだけ言って店を出た。シェリアンヌはまだお茶を楽しむつもりらしく、追っては来なかった。
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