虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま

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52 シェリアンヌの嫉妬

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 シーナが消えた店内で、シェリアンヌは一人お茶を楽しんでいた。いや、正直にいえば全く楽しくはない。あの女にいわれた嫌味がまだ胸のうちでくすぶっている。

「お嬢さま、よろしいのですか」

「なにがよ」

 むっつりと黙ったままティラミスを食べていると、後ろに立つ侍女が恐るおそる声を掛けてきた。

「あのお守りに入っている物に気づかれたら、不味いことになるのでは……」

「簡単にバレやしないわよ。あんな上辺だけ取りつくろった女に分かるわけないわ」

 侍女はまだ「ですが……」と言葉を濁したが、シェリアンヌは無視してケーキを食べ続ける。

 レクオン王子がシーナと結婚する直前、ケルホーン伯爵家は取り潰しとなった。これは何かきな臭いと思って調べている内に、以前伯爵家で働いていたメイドをつかまえて話を聞くことができた。なんでもケルホーン伯爵家の娘はひとりではなく、よく似た顔の女がもう一人いたのだという。

 婚約者だったのは姉のルターナで、妹のシーナは伯爵家の子として認知もされていなかったようだ。つまり正統な貴族ではなく、見た目が美しいだけの偽の令嬢である。

 もっと詳しい話が訊きたくなって捕まった伯爵家の者に会おうとしたのだが、伯爵と子息は牢のなかで厳重に見張られて面会は許されなかった。ならば伯爵夫人はどうかと調べたら、レクオンによって国の端にある修道院へ送られたらしい。修道女は階級が厳しく、かなり上の者でなければ自由な面会はできないので、シェリアンヌは渋々諦めるしかなかった。

 あの女が――シーナが言ったとおり、レクオンは本当に彼女を大切に思っているのだ。シーナを愛し、彼女を害する者を遠ざけようとしている。その事実はシェリアンヌのプライドを大いに傷つけた。

(わたくしの事なんか、見向きもしなかったくせに……)

 子供の頃からおまえの婚約者はマシュウだと言われて育った。でもシェリアンヌだって、マシュウよりもレクオンの方が見目麗しいことぐらい分かっている。

 一度でいいから、あの柘榴色の瞳でじっと見つめられてみたい。魅力的な声で言葉を掛けられてみたい――レクオンを目にした女であれば誰でも願うことだ。だけど彼はいつだって、遠くからシェリアンヌを一瞥するだけだった。しかも、明らかに蔑む瞳で。

 レクオン王子の誕生祭ではひどく惨めな気分を味わったものだ。紅い瞳は着飾ったシェリアンヌを冷たく見ただけだったのに、彼とルターナはまるで一対の芸術品のように完璧なペアだった。

 あの二人の周りだけ別世界で、二人だけが主人公のようで――ぶち壊してやりたいと思った。だからルターナが死んだと聞いたときには歓喜したものだ。やはり神はダゥゼン公爵家についているのだと、レクオンに釣り合う女など二度と現れないだろうと信じていたのに。

「綺麗な奴らなんか嫌いだわ……。どいつもこいつもさっさと死ねばいいのに」

 思わず独り言をもらすと、後ろに立つ侍女が身じろぎする気配がした。どう言葉を掛けていいのかわからないのだろうが、今はなんの慰めもいらない。かえって苛立つだけだ。

 シェリアンヌは自分が美しくないことを知っている。遠からず自分はマシュウと結ばれ、王子や王女を産むだろう。でもそれより先にレクオンとシーナの子が生まれていたら、貴族たちはこぞって噂するに違いない。

 やはりレクオン殿下の子のほうが麗しいと、シーナ妃の娘は花のように美しいと言うだろう。シェリアンヌの前では大っぴらに口にはしないだろうが、そんな陰口が王宮でささやかれるのは目に見えている。

(あいつらの子供なんて、みんな流れてしまえばいいのよ。王族の子を産むのはわたくしだけで充分だわ)

 さっき渡したお守りのことを、シーナは夫に報告するだろうか。レクオンが子を望むとは思えないから、お守りが原因となって夫婦喧嘩でもするかもしれない。シーナもレクオンから嫌われて、離縁されたら面白いことになりそうだ。

 ああ、楽しい――想像するだけで口元が緩んでくる。ようやくお茶を楽しめる気分になり、シェリアンヌは店の者を呼んでお茶のお代わりを持ってくるように命じた。
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