しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない

千堂みくま

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37 公爵とわたし

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 その後、ノイドール伯爵が企んでいた事は全て明らかにされた。彼はいくつもの罪状を言い渡され、身分も財産も没収された上で国外追放となった。
 領主を失ったノイドール地方は一旦国の管理下に置かれたが、今後は王位継承権を放棄したバレン様が引き継ぐことに決まったらしい。もちろん、マーガレットと一緒に。

 全てが落ち着いた頃、ジオルドはプロポーズした通り瞬く間にわたしを妻として迎えた。既に貴族になっていたためか、わたしが公爵夫人になる事に反対する人は誰もいなかった。

 ジオルドの妻となっても、わたしの毎日は特に変わっていない。相変わらず大学で勉強し、研究する日々を送っている。

 一つだけ変わったのは首のチョーカーが外された事だろうか。首が軽くなった日、その代わりのように結婚指輪を嵌めさせられた。
 ジオルドはまた魔術師長に何か頼んだらしく、わたしの左手にある指輪は魔石のように黒い色をしている。何だか怖いので、どんな作用があるのかは詳しく聞いていない。若い男性に絡まれなくなった事を考えても、ロクな魔術じゃないだろうと思う。


 そして時は過ぎ、わたしとマーガレット、バレン様はとうとう大学を卒業した。先月のことだ。
 公爵となったバレン様とマーガレットも結婚し、ノイドール地方の病院で働いている。わたしはと言うと、まだ大学に残っていた。

 バレン様の治療で実績が認められたため、研究室は拡充され、サイラス先生は教授となったのだが、人手が足りなくなってしまったのだ。
 わたしは先生に依頼されて助手として働いているのだった。一日中サイラス先生の傍にいるのでジオルドは最初かなり嫌がったのだけど、先生はわたしにとって父親のようなものだと説明してやっと納得してもらえた。

 結婚してニ年、わたしにはある悩みがある。ジオルドとの事だ。いや、ジオルドが関係あるのかどうかは分からないけど、とにかく悩んでいる。

 何かというと、わたしとジオルドの間に子供が出来ないことである。

 ウォルス王国では十七歳から成人として認められるので、在学中に結婚する人もそれなりに多い。特に女性は大学に通う間に結婚と出産までする人もいるので、休学することも珍しくはない。
 わたしも休学する事になるのかな、と思っていたのに、何故なのか……妊娠しないのだ。

 結婚した日の夜、ジオルドはしつこくわたしを抱いた。手つきは丁寧だったし、かなり気を使って優しくしてくれたと思う。
ただとにかく、彼の行為は長い。いつも。

 ジオルドとわたしでは体力に差がありすぎるのだ。わたしは大抵途中で気を失ってしまい、気が付いたら裸で抱き合ったまま朝になっているのだった。

 そんな日々を二年も過ごしているのに妊娠しないのはどうしてなんだろう。自分の体に何か異常でもあるのかと思い、こっそり大学で検査したけど何も見つからなかった。もっと専門の機関で調べるべきなんだろうか。

 最近は悩み過ぎて、いっそ養子でも迎えた方がいいのかななんて思ったりもしている。

「はあ……」

「どうした、ため息なんかついて」

 入浴を済ませてだだっ広いベッドの端で座っていると、夫がわたしの体をひょいと抱き上げて膝に乗せた。わたしは少し迷いつつ、彼に悩みを話すことにした。

「悩んでるんです」

「悩み? 何の?」

「あの……なんで、あなたとの子供が出来ないのかなって……」

 わたしの声は段々小さくなっていった。こんなことを話していいのかどうかも分からず、ただ自信がなかった。
 ジオルドが目を丸くしてわたしを見ている。意外なことを言われた、と顔に書いてあった。

 何なのこの顔。二年も経ったんだから、そりゃ悩むでしょ。
 お互いに何を考えているのか分からず、ただ静かに見詰め合った。やがて夫はぽつりとわたしに言った。

「子供が出来ないのは当然だ。避妊していたからな」

「……はい? ど、どういう事?」

「少しコツがあってな。俺の―――」

「方法じゃなくて! なんで避妊したのか、理由を聞いてるんです!」

わたしの怒りが伝わったのか、ジオルドはしゅんと肩を落とした。どうも彼は、なぜ怒られているのか分かっていない様子だ。

「……すまん。お前はまだ学生だったから、学業に影響が出ると思った」

「え……」

 そんな事を気にしてくれてたんだ。意外すぎて言葉が出てこない。

「それに俺も、しばらくお前を独り占めしたかった。子供が生まれたら母親は世話に追われるものなんだろう? お前も子供にかかり切りになるのかと、そう思ったら……」

 夫はそこで言葉を切り、子供のようにわたしにしがみ付いた。何だか無性に愛おしくなり、白金の髪の毛を優しく撫でてあげる。
 仕方のない人。子供みたいに甘えん坊な人。

「ジオルド様……。子供が生まれたら、乳母を呼んでください。シュウにも助けてもらって、なるべくあなたとの時間を減らさないようにしますから。だから、あの……」

「俺の子が欲しいんだな?」

 顔を上げたジオルドはいつもの顔に戻っていた。ニヤニヤした、腹の中に真っ黒なものを抱えた顔。
 全く、この公爵は。

「欲しいです。わたしに、あなたとの子供をくださ―――んんっ」

 口付けしたまま押し倒される。
 密着した体から夫の昂ぶりが伝わってきて、一気に全身が熱くなった。少し乱雑に服を脱がされるのが恥ずかしい。いつもいつも、どうして明かりを消してくれないんだろう。

 その夜からジオルドは避妊するのをやめてくれたようだった。「子供が欲しいんだろう」としつこく求められるのは大変だったけれど、数ヵ月後に子供が出来たときは本当に嬉しかった。

 翌年にわたしはジオルドそっくりな男児を産み、夫がもの凄く子煩悩なことを知ったのだった。
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