転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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朝、鏡の中の誰か

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まぶたの裏がじんわりとあたたかく、陽の光が差し込んでいることを告げていた。  
それでも、目を開けるまでに数秒かかった。  
まるで、深い眠りの底からゆっくりと浮かび上がってくるような感覚だった。

天満悠翔は、ゆっくりと目を開いた。  
ぼんやりとした視界のなか、最初に映ったのは天井の木目だった。  
それは彼が昨日眠ったはずの部屋の天井とは、どこか違って見えた。  
もっと色が明るく、木目の走り方もやや直線的で、整いすぎていた。

それを不思議に思う前に、布団の感触が妙に柔らかいことに気づく。  
毛布の厚みも違う。肌ざわりは優しく、包み込むような軽さがあった。  
そして何より、寝返りを打とうとした瞬間に腕が思ったよりも短く、細く、軽いことに驚いた。

え…? なんだこれ。

頭がまだ目覚めきっていない。  
けれど、明らかに自分の感覚と、体の大きさが噛み合っていない。  
何かが…おかしい。

ふと、布団の中から右手を出してみる。  
すらりとした指、関節のあたりがまだ幼く見える。  
爪は丁寧に整っていて、どこか透明感があった。  
前の自分の手ではない。だが、触れた感覚は間違いなく現実だった。

「……」

喉が乾いていた。  
違和感と恐怖が混ざり合い、喉元に熱の塊がこびりついたようだった。  
言葉が出ないまま、彼は布団を押しのけて体を起こす。  
視界が低い。ベッドの位置も、窓の位置も、すべてが“違う”。

ゆっくりと部屋の全体を見渡すと、見覚えのない家具が整然と並んでいた。  
真新しいカーテン、木の質感が優しいデスク、ぬいぐるみが一つ棚に置かれている。  
どれも、自分が知っている“自分の部屋”ではなかった。

戸惑いのなか、彼は立ち上がり、部屋の隅に置かれた姿見の前に歩いていく。

目の前の鏡に映った姿に、思わず息を呑んだ。

「……え? 誰?」

鏡の中にいたのは、見たことのない少年だった。

いや、少年というより、少女のような中性的な雰囲気。  
白い肌に、ふっくらとした涙袋があり、切れ長で少し大きめの瞳は潤んだような光を帯びていた。  
長めの前髪が自然と流れ、左目の下には小さな泣きぼくろ。  
その顔立ちは、どこか儚げで、透明感があった。

まるで、二次元からそのまま抜け出してきたような美形だった。

「……って、これ俺⁉」

声が上ずった。  
驚きのあまり、鏡に近づき、頬をつねる。感触は普通だった。  
自分の表情に合わせて、鏡の中のその少年もきょとんと目を見開く。

いやいやいや、待って待って。  
これは…何かの冗談か? 夢か?  
転生って…もしかして、本当に?

「これ…まさか…あれ? 転生ってやつ……⁉」

混乱の中でも、鏡の前の自分をまじまじと見つめてしまう。

細い首、鎖骨のラインがすっと見える制服のシャツ。  
袖から覗く腕も華奢で、どこからどう見ても“美少年”のカテゴリに入っていた。

「……前世で命と引き換えにこの顔もらったのか…レオ様、ありがとう…」

小さく笑って、つぶやいた自分の声がまた、自分のものとは思えないほど澄んでいた。

鏡の中の自分は、どこか頼りなさげで、それでいて光を秘めたような顔をしていた。  
その顔に、かすかに笑みが浮かぶのを見て、悠翔はようやく一つの感情にたどり着いた。

嬉しい、とか、喜びとか、そういう単純なものじゃない。  
もっとこう…長い時間をかけて滲んできた、報われた感覚。  
たしかに、ここに生きている。そう思える“実感”だった。

ゆっくりと息を吸い込んで、胸に手を当てる。  
心臓が、確かに動いていた。軽やかで、けれど静かに、規則正しく。

「…俺、生きてるんだな」

その言葉が、自分のものとして口から出たとき、初めて涙が出そうになった。

前の人生で、いろんなことを諦めていた。  
やりたかったこと、行きたかった場所、伝えたかった想い。  
そういうものを全部飲み込んで、それでも生きる理由にしていたのが“推し”だった。

その命が、こんなふうに形を変えて続いているなんて、思ってもみなかった。

目の前の自分に、少しだけ微笑みかける。  
生まれ変わった命に、ようやく言える言葉があった。

「…よろしくな。天満悠翔、第二の人生」

鏡の中の少年が、ふっと柔らかく笑った気がした。  
朝の光が、その笑顔を一瞬だけ金色に染めていった。
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