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あの人は、夢の続きにいた
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ホームルームの開始を知らせるチャイムが鳴り、教室のざわめきが徐々に収まっていく。窓の外では風に舞った桜の花びらがちらちらと踊り、やがて重力に引かれるように校庭へと落ちていった。
教師が入ってきた足音が、規則正しく床を打つ。開いたドアの向こうから現れたのは、眼鏡をかけた若い男性教諭だった。手に持った出席簿を掲げながら、柔らかい口調で挨拶を始める。
「皆さん、はじめまして。今日から二年B組の担任を務めます、国語担当の芦原です」
教室の空気が整っていくのを感じながらも、天満悠翔の意識はどこか現実から浮き上がっていた。
耳に届く声は、どこか遠くの世界の音のようで、教科書が配られる気配や、隣の生徒がノートを開く音もすべてがフィルターを通したように曖昧だった。
目の前にある机。新品らしく角にまだ保護フィルムが貼られていて、表面にはわずかに木目の模様が浮かんでいた。手を置くと少しひんやりしていて、その感触だけが“今ここにいる”という現実を引き戻してくれた。
けれど、その隣にいる人間――
京橋蒼真の存在が、またすべてを非現実へと引き戻す。
正面を向いた彼の横顔は、まるで誰かがデザインしたように整っていた。額に落ちる髪、すっと通った鼻筋、わずかに開いた唇。その一つひとつが、悠翔にとっては見慣れすぎていて、それでいて現実味を欠いていた。
まるで夢の続きに入り込んでしまったようだった。
…本当に、あの人に、会えたんだ。
胸の奥で言葉がゆっくりと浮かび上がる。
それは歓喜でも、動揺でもなく、もっと深く、静かに沁みるような実感だった。
ずっと見てきた人。画面越し、ページの中、夜の妄想、言葉にできなかった想い。その全部を抱えて過ごしてきた日々が、今この瞬間にすべて肯定されている気がした。
けど、それと同時に、身体の奥から不安が湧き上がってくる。
これは“推し活”なんかじゃ済まない。
現実に、この人がいる。自分の隣にいて、息をして、声をかけてくれて、笑っている。
名前が違う。存在も違う。だけど、この顔、この声、この空気。すべてがあの人を呼び起こす。
京橋くんが教師の説明に頷いたタイミングで、彼の襟元から制服の金のパイピングがちらりと光った。その一瞬が、まるでかつての“レオ様”そのもののように見えて、悠翔は喉の奥をきゅっと締めつけられた。
思わず深く息を吸い込む。肺に空気を送り込み、鼓動を落ち着けようと目を閉じる。
ここで取り乱してはいけない。いくら感情が追いついていなくても、京橋くんには何の罪もない。彼は、ただ隣の席に座った同級生でしかない。
だけど、目を開けても、やっぱりそこには彼がいた。
静かにノートを取り出し、丁寧な文字で授業の内容を書き始めている。指先の動きが、どこか品があって、無駄がない。横目で見るその姿に、どうしようもなく心が揺れた。
…前世で“ありがとう”って言いたかった人が、今、隣にいるなんて。
その事実が、嬉しすぎて、苦しかった。
あのとき、事故の瞬間、スマホの壁紙を見ながら心の中で呟いた言葉がある。
“会ってみたかったな。ありがとうって、言いたかった”
あれが本当の最期だったはずだ。それが、こんな形で実現している。
奇跡って、本当に起こるんだろうか。あるいは、これはまた別の夢なのか。
それでも、感じている鼓動も、制服の布の感触も、隣から聞こえるページをめくる音も、すべてがあまりに現実的だった。
どうしよう、俺、これからどうやって生きていけばいいの。
願いが叶ったその先にある世界なんて、考えたことがなかった。
“推し”として愛していたはずの存在が、“現実の隣人”としてそこにいる。
この気持ちは、どこに収めればいいのか。
今はまだ、その答えが見つからない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
あの人は、夢の続きにいた。
そして、その物語は、今まさに“始まったばかり”だった。
教師が入ってきた足音が、規則正しく床を打つ。開いたドアの向こうから現れたのは、眼鏡をかけた若い男性教諭だった。手に持った出席簿を掲げながら、柔らかい口調で挨拶を始める。
「皆さん、はじめまして。今日から二年B組の担任を務めます、国語担当の芦原です」
教室の空気が整っていくのを感じながらも、天満悠翔の意識はどこか現実から浮き上がっていた。
耳に届く声は、どこか遠くの世界の音のようで、教科書が配られる気配や、隣の生徒がノートを開く音もすべてがフィルターを通したように曖昧だった。
目の前にある机。新品らしく角にまだ保護フィルムが貼られていて、表面にはわずかに木目の模様が浮かんでいた。手を置くと少しひんやりしていて、その感触だけが“今ここにいる”という現実を引き戻してくれた。
けれど、その隣にいる人間――
京橋蒼真の存在が、またすべてを非現実へと引き戻す。
正面を向いた彼の横顔は、まるで誰かがデザインしたように整っていた。額に落ちる髪、すっと通った鼻筋、わずかに開いた唇。その一つひとつが、悠翔にとっては見慣れすぎていて、それでいて現実味を欠いていた。
まるで夢の続きに入り込んでしまったようだった。
…本当に、あの人に、会えたんだ。
胸の奥で言葉がゆっくりと浮かび上がる。
それは歓喜でも、動揺でもなく、もっと深く、静かに沁みるような実感だった。
ずっと見てきた人。画面越し、ページの中、夜の妄想、言葉にできなかった想い。その全部を抱えて過ごしてきた日々が、今この瞬間にすべて肯定されている気がした。
けど、それと同時に、身体の奥から不安が湧き上がってくる。
これは“推し活”なんかじゃ済まない。
現実に、この人がいる。自分の隣にいて、息をして、声をかけてくれて、笑っている。
名前が違う。存在も違う。だけど、この顔、この声、この空気。すべてがあの人を呼び起こす。
京橋くんが教師の説明に頷いたタイミングで、彼の襟元から制服の金のパイピングがちらりと光った。その一瞬が、まるでかつての“レオ様”そのもののように見えて、悠翔は喉の奥をきゅっと締めつけられた。
思わず深く息を吸い込む。肺に空気を送り込み、鼓動を落ち着けようと目を閉じる。
ここで取り乱してはいけない。いくら感情が追いついていなくても、京橋くんには何の罪もない。彼は、ただ隣の席に座った同級生でしかない。
だけど、目を開けても、やっぱりそこには彼がいた。
静かにノートを取り出し、丁寧な文字で授業の内容を書き始めている。指先の動きが、どこか品があって、無駄がない。横目で見るその姿に、どうしようもなく心が揺れた。
…前世で“ありがとう”って言いたかった人が、今、隣にいるなんて。
その事実が、嬉しすぎて、苦しかった。
あのとき、事故の瞬間、スマホの壁紙を見ながら心の中で呟いた言葉がある。
“会ってみたかったな。ありがとうって、言いたかった”
あれが本当の最期だったはずだ。それが、こんな形で実現している。
奇跡って、本当に起こるんだろうか。あるいは、これはまた別の夢なのか。
それでも、感じている鼓動も、制服の布の感触も、隣から聞こえるページをめくる音も、すべてがあまりに現実的だった。
どうしよう、俺、これからどうやって生きていけばいいの。
願いが叶ったその先にある世界なんて、考えたことがなかった。
“推し”として愛していたはずの存在が、“現実の隣人”としてそこにいる。
この気持ちは、どこに収めればいいのか。
今はまだ、その答えが見つからない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
あの人は、夢の続きにいた。
そして、その物語は、今まさに“始まったばかり”だった。
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